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3. 出会い


「シエルは家で訓練ばかりしているけど外で遊ばないの?」


 朝の訓練が終わった後母に尋ねられた。

 何のことかと一瞬分からなかったが、すぐに気を取り直して質問に答える。


「遊ぶって何して?」


「何って、ボール遊びとか追いかけっことか」


「そんなこと一人でやって楽しいの? 家で魔法や剣の練習している方が楽しいよ」


 俺の回答に母は呆れた様にため息を吐く。子どもらしくない回答だとは思うが、ため息が出るほどだろうか。分からない。


「はあ、近所の子供たちと遊ぶという考えにならないのかしら」


「子供と遊ぶって。嫌だよ。子供はバカで何考えているかわからないし。わたし、バカとは絡みたくないよ」


「そういうシエルだって子供でしょう。それに、シエルは冒険者になりたいのでしょう? それなら他人とのコミュニケーションが必須だし、場合によっては嫌いな人とも一緒に行動しないといけないから将来の練習と思って」


「うーん、でも」


 母の言いたいことは分かる。一人で冒険者をするのは基本的に無理なのだ。母と父も昔同じパーティで活動していたらしいし。

 俺は魔法は母の影響で回復魔法が一番得意だが攻撃系の魔法も使うことができる。それに、まだまだヘタクソだけど剣の練習もしている。形だけではあるが、一人で前衛と後衛を務めることが出来る。それでも一人では無理だ。簡単な仕事なら一人でもこなす事はできるだろうが、遠出する様な依頼や難しい依頼はまずこなすことが出来ない。

 だから、最低でも二人、できれば4人以上は必要になってくる。

 まあ、報酬や連携などの兼ね合いもあるから多ければ多いほどいいとは言えないけど。だいたい4人から6人に落ち着くらしい。


「ほら、文句言わない。ママと一緒に公園に行きましょう。もしかしたら気の合う子がいるかもしれないよ」


 母に言われたので仕方なく出かける準備をする。訓練用の服から外出用の服に着替え、何も入っていないショルダーポーチをかける。


「スカート履かないの?」


 いつの間にか覗いていた母の声だ。

 母は何かと俺にスカートを履かせたがる。約5年女をしているが最初の数年は男も女もない生活だったのでまだまだ心は男だ。スカートは女の履物で男は履かないとかそんな考えは持っていないが、今まで履いてこなかったので抵抗がある。


「スカートスースーして嫌い」


「似合うのに。……まあ、いいわ。今日はそれで行きましょう」



 家から歩いて5分ほどのところにある広めの公園に向かう。

 公園には俺たち以外にも数人の親子が遊んでいた。


「ママはここで見ているから遊んできなさい」


「はーい」


 渋々母から離れて遊んでいる子供たちの方へと歩いていく。

 子供たちに近づいたはいいもののどうすればいいのか分からない。前世含めて27.8年。今世では勿論、前世でも友人と呼べる人は片手で数えられるほどしか作っていない。特別コミュニケーション能力が高いとは言えない。それに、自分より10歳以上歳の離れた子共の相手をしたことがない。圧倒的に経験値が足りない。


 何も出来ずにぼうっと突っ立ていると俺に気づいた女の子に声をかけられた。


「ねえ、どうしたの」


 棒切れを持った幼女が真正面から見つめてくる。肩に届かないピンクの髪に青い瞳、10年後には数多くの女性を虜にするであろう未完成のかっこかわいい容姿。パッと見、男の子に見えなくもないが、多くの男の娘を画面越しに見てきた俺の目は誤魔化せない。ついていない事は明らかである。

 それにしても顔面エグいな。前世の記憶がなければ確実に初恋の相手になっていたに違いない。


 俺のコミュ弱っぷりは異世界にきてさらに磨きがかかっていたらしく、自分でも驚くほど愛想のない声が出た。


「なにも。ママに遊びにいけと言われただけ」


 そんな俺の言葉に目の前の幼女は嫌な顔ひとつせずに話を続ける。よかった、ロリコンじゃなくて。


「それなら、あたしと遊ぼう」


 「はいっ」と手に持っていた棒切れを手渡し、そのまま握った手を離す事なく駆け出していく。

 幼女とは思えないほど足が速く、引っ張られているのについていくのがやっとだ。これでも鍛えていて同年代の子より確実に体力があるのに。


 同じ様な木の棒を手に取ると俺の手を離し向き合う。そして、花が咲く様な笑顔を見せると子供とは思えないほど物騒な、いや、もしかしたら子供だからなのか物騒なことを言い出した。


「しょうぶしよう。手にもっているぼうでたたいた方が勝ちね」


 あまりにも違和感なく言うので異世界ではこれが普通なのかと周りを見るが、俺たちと同じように木の棒を持って殴り合おうとしている子も、殴り合っている子も居ない。母が言っていた通り前世と変わらず追いかけっこをしていたり砂で遊んでいたりと見ていて安心する様なことをしている子供だけだ。


「よーいスタート」


 突然合図がかかり物凄い速さで幼女が木の棒持って突っ込んでくる。手を引かれて走っている時からなんとなく察していたけど僅かにだが全身に魔素をまとっている。


 問い。身体強化の魔法をおそらくだが無意識に使っている幼女に、体を動かすことにおいて同じ幼女が勝つことが出来るでしょうか?

 解。基本的に不可能。

 相手の魔素が切れるまで粘るか、相手以上の身体強化をしてゴリ押しで才能の上から叩くかの二択しか勝つ選択肢がない。


 子供の体に強力な身体強化は毒で、素の身体能力の10パーセントも強化すればすぐにガタがくる。そして、無意識に使う身体強化を上から叩くには約10パーセントの強化が必要になってくる。

 魔法の訓練をしているのでやろうと思えば今の俺でも10パーセントの強化は可能だ。しかし、身体強化をやめた途端全身に強い痛みを催す様なことをたかが遊びでやりたいとは思わない。


 したがって、現実的な方法は粘りがちだが、俺の剣の腕はお世辞にも上手いとは言えない。よくて普通ほどだ。

 無意識に身体強化ができる様な人は体を動かすセンスが他の人とは違うのでよほど差がないとこの手は使えない。



 ギリギリ反応できる速さで木の棒が飛んでくる。

 一歩、また一歩と押し込まれ防ぐことしかできない。魔法を使えば距離を取って整える時間を稼ぐことが出来るだろうが、魔法を使うつもりも、使う隙もない。


 それでも防ぐことだけはできるので、このまま時間が過ぎるのを待っていると右の脇腹に衝撃が訪れバランスが崩れる。

 隙だらけになった俺の脳天に幼女の振るう木の棒が直撃し、決着がつく。


「あたしの勝ち」


 ニコリと目の前の幼女が笑う。


「強いね。でも、蹴りはアリなの?」


「もちろん。だってルールは棒をあてた方が勝ちってだけだもん」


 俺の苦し紛れの言葉にさらに笑みを深め、少し悪そうな表情をつくり答える。子供の遊びと詳しくルールを決めなかった俺が悪いので、これ以上反論はせず黙る。


「それはそうと、えーと」


「シエル」


「そう。あたしはエルマ。よろしくね、シエル」


「よろしく。それで、さっきは何て言いかけたの?」


「そうだった。えっと、そう、シエルも強いねって言おうとしてたの。あたし、いままでもなんどか近所の子たちとしょうぶしたことあるけど、みんな弱くてシエルみたいに長く続かないんだ。なかなか勝てなかったから蹴っちゃったし」


 そこら辺にいる冒険者にちょっと憧れて棒を振り回しているような一緒にしないで欲しいって思うのは我ながら少し子供っぽいと思うが、子供っぽい行動をしているとたまに思考まで子供っぽくなるので許してほしい。


「ねえ、もう一回しょうぶしよう。シエル強いから楽しい」


 近接戦闘においては格上の存在からの申し出なので喜んで受けたが、これが悪魔の囁きだったことに気がついたのは2時間ぶっ続けで戦わさせられた後だった。


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