枯死の翠
本日五回目の更新です!
前話を読んでない方はご注意下さい!
「――あぁ。やっぱりそうなるか。久しいね枯死の翠」
天井付近で浮遊していたレニウスが枯れ木に向かって声を投げかけた。
枯死の翠。
そう呼ばれた枯れ木の枝が揺れる。
風もなく、葉もない。
なのにも関わらず葉擦れが音を奏でる。そしてそれは流暢な言葉と成った。
【久しいな守護天使レニウス】
言葉だけを見るなら旧友とでも再会したような会話だ。
しかし、次の瞬間レニウスが膨大で濃密な殺気を撒き散らした。それがレニウスと枯死の翠と呼ばれた枯れ木との関係性を如実に示している。
俺はこの光景を知っている。
壁画だ。
天使と悪魔、そして龍。彼らと対峙するは四体の異形。
その中にいた巨大な枯れ木がコイツだ。
「それで、私に何か用かな?」
【貴様に用はない】
枯死の翠の意識が俺へと向けられた。
強烈な殺意だ。
「――ッ!?」
思わず喉が鳴った。冷や汗が止まらない。
これと比べたら、奈落の森で遭遇した枯れ木なんて赤子も同然だ。
……こいつは……まずい。
重圧が魔王の比ではない。息が詰まり、体の震えが止まらなくなる。
「ああ。やっぱりそうなんだね。ならば私のやることは決まっている」
【だろうな。ならば我も決まっている。……力ずくで奪う迄】
瞬間、枯死の翠から生えた枝が伸び、槍のように鋭く尖った。
……くそっ!!!
これが枯れ木ならばアレがくる。
迎撃の選択肢はない。闇を使えない以上、俺はただの足手纏いだ。それにもし使えたとしても勝ち目はないだろう。
退避の選択肢もない。先ほどの様子を見る限り、カナタはまともに動けない。確実に逃げ遅れる。そうなれば待っているのは死だ。
そんな事は断じてできない。
次の瞬間、木が溢れた。
その密度と速さ、枝の太さが奈落の森で出会った枯れ木の比ではない。もはや槍というよりも破城槌だ。それが壁のように連なり凄まじい速度で襲いかかってくる。
――詰み。
そんな言葉が脳裏に過ぎる。だがラナは俺を守るようにして前に立った。そして決然と星剣を構える。
「大丈夫! 私が守るから!!!」
しかし、文字通り枯死の翠は格が違う。魔王ですら倒せなかった俺たちは誰一人としてこの攻撃を防げない。
……チャンスがあるとするなら。
俺は胸に手を当てた。
――次は無い。
そう言われたが関係ない。
ラナの人生はこれからだ。せっかく救う事ができたのにこんなところで死なせるわけにはいかない。
ラナが、仲間が死ぬぐらいなら俺が――。
「――動かないように」
凛と、声が響いた。
天使が地上に降り立つ。
そして、頭上の魔法陣が一瞬にして形を変えた。
だが何も起こらない。レニウスも動かない。
破城槌はすぐ目前まで迫っている。
もう手遅れだ。今から封印を解除しても間に合わない。
俺はラナを抱き寄せ、守るようにして背を向けた。
直後、轟音。
衝撃が――来ない。
「……?」
恐る恐る背後を見ると、破城槌が止まっていた。
目の前には何もない。魔力の気配も感じない。
だが、確かに止まっている。
「安心していい。キミたちには手を出させない。守らなければならない理由ができた」
……助かった……のか?
レニウスが何かした。それはわかる。
だが、何をしたのかがまるでわからない。
……これが……魔法。
【やはり硬いな。だが、守っているだけでは勝てぬぞ?】
「安い挑発だね。なにか急ぐ理由でも?」
【……】
レニウスの言葉に枯死の翠は答えない。
代わりに一度枝を退かせると纏め、束ね、一本の杭を作り出した。
質量で押し潰す気だ。
だが、レニウスの余裕は崩れない。
「図星かい?」
レニウスがわざとらしく忍び笑いを漏らす。
その直後、杭が激突した。
だがしかし、杭は阻まれる。まるでそこに不可視の壁があるかのように。
【………………何をした?】
「手の内を明かすわけがないだろう?」
レニウスが不敵な笑みを浮かべる。
対する枯死の翠は杭を更に尖らせた。細く長く、針のように。ただ貫くためだけの形状だ。
「何度やっても無駄だよ」
レニウスの忠告を無視して、枯死の翠は針を突き出す。
しかし、それでも不可視の壁を貫くことはできなかった。
「……枯死の翠」
レニウスが枯死の翠を睨みつけ、低い声で呟く。
「……早く本気でこいよ」
その言葉に背筋が震えた。
……これで、本気じゃないのか。
すると枯死の翠は枝の全てを戻し、抑揚のない声で呟く。
【……いいだろう】
パキッと大木の幹に亀裂が走った。メキメキと音を立てて、亀裂が縦に裂けていく。
そして姿を現したのは、巨大な眼球だった。
翠色をした宝石のような眼球だ。
しかし、その美しさは白眼に走った赤黒い線が台無しにしている。
その対比がとにかく悍ましい。
枯死の翠は葉擦れで言葉を紡いだ。
【幻想侵蝕】
枯死の翠を中心として空間が歪む。
歪みは瞬く間に広がり、中のものを浮き上がらせていった。そこにあったのは風景だ。
まるでもう一つの世界が存在するかのように、風景が現実を侵蝕していく。
やがて侵蝕は石室全体に及び、現実が幻想へと変貌を遂げた。
【――死して夢見る幻想郷】
そこにあったのは枯れた木々が点在する荒野の原風景。
「ようやく……か」
呟いたレニウスが気を引き締めたのがわかった。纏う雰囲気が剣呑なものへと変わる。先程までの余裕はもはや無い。
「覚えておくといい。ヤツらはこうならないと殺せない」
その言葉で得心が行った。だから散々煽っていたのだ。
【死ね】
荒野に点在する木々から枝が伸び、槍と化した。
その全てが四方八方から襲い来る。
レニウスの光輪が形を変えた。
直後、激突。木々はドーム状に広がった不可視の壁に阻まれる。だが先程までとは違い、そこで止まらない。
槍の先端がメリ込み、触れた箇所が崩れ落ちていく。
「ダメ……か」
呟き、レニウスはチラとラナを見た。
視線を向けられたラナは疑問顔で首を傾げる。
「……この好機は逃せない。仕方ない……か」
レニウスが右手を突き出した。そして名を呼ぶ。
「ジ=アストラシオ」
レニウスの手のひらに光の粒子が集まっていく。
そして姿を現したのは、天翼の装飾が施された一振りの黄金剣。
「なっ――!?」
ラナが驚愕の声を上げた。
「うそ……でしょ。そんな……ありえない。どういう……こと!?」
「ラナ? あれが何かわかるのか?」
そして、ラナは信じられないことを口にした。
「あれは……星剣。星剣だよ」
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