悪魔VS魔王
魔王が己の持つ剣を、天高く掲げる。
刀身を包み込むように光が顕現し、収束。金色に染まる剣から光の柱が立ち昇った。
「……」
しかし、圧倒的な魔力を秘めた光の柱を見ても悪魔は動かない。
否、全く動かなかったわけでは無い。口角がゆっくり、ゆっくりと上がり、邪悪な嗤みを浮かべた。
そんな悪魔の姿を見ても魔王の無表情を貫いている。
張り付けられた表情からは、なんの感情も窺い知れなかった。
そして、魔王は静かに剣を振り下ろす。
光の奔流が放たれた。
「……!? 防御!!!」
ラナは解析を即座に中断して叫ぶ。
それと共に思考加速を用いて、一瞬で立体魔術式を構築した。
――氷属性防御魔術:至盾氷護
ラナの眼前に純白に煌めく巨大な氷盾が現れた。
続けて声に反応した仲間たちが、自身の持ち得る最大の防御魔術を行使する。
至盾氷護を筆頭に、光の壁や炎の壁が屹立する。
魔王の放った光の奔流は余波だけで命を落としかねない程の攻撃だ。
いくつも防御魔術を使ったとしても過剰すぎるという事はない。それは内包する魔力を見れば一目瞭然。
しかし、防御魔術は無駄に終わった。
悪魔がその手に漆黒の刀を作り出し、眼前に迫った光の奔流を無造作に薙いだ。
たったの一振り。
それだけで光の奔流は消失した。
「――なっ!?」
「……な……に?」
理解不能。
ラナやカナタでさえ何が起きたのか分からなかった。
ただ剣技なことは確かだ。いくら暴走しているとはいえ、悪魔の魔力は依然として零。
よって、魔術は使えないはずだ。だからそう考えることしかできない。
光を掻き消された魔王はすぐに反応した。一瞬で数百の魔術式を記述し――。
――ズドン。
目にも止まらぬ速さで距離を詰めた悪魔が、魔王の頭を鷲掴みにして壁に叩きつけた。
今までの戦闘で傷一つ付かなかった壁がひび割れ、陥没していく。
「グォォォオオオオオオオ!!!」
悪魔は止まらない。
腹の底に響くような咆哮を上げ、魔王を持ち上げるとそのまま地面に叩きつけた。
轟音が響き、地面が砕ける。
続けて悪魔は周囲に漂う闇を数十本の刀に変えた。
その全ての照準は魔王に向いている。
しかし、魔王もただやられていたわけではない。
攻撃を受けながらも刀の出現した場所に魔術式を記述し、炸裂。そのまま剣を振るい、悪魔の腕を切断すると拘束から逃れた。
悪魔の腕が宙を舞い、地面に落ちていく。魔王はソレを 一瞥もせずに光輝く剣を振るった。
至近距離から放たれる光の斬撃。
対する悪魔は即座に腕を再生、闇を集めて刀を作り出す。そのまま流れるような動作で魔王の斬撃を真正面から迎撃した。
直後、衝撃。
漆黒の刀と光の斬撃が拮抗する。それはほんの僅かな時間だった。
だが、その間にも魔王は無数の魔術式を記述していく。
結果として、悪魔の刀は大きく弾かれ光の斬撃は消滅した。
悪魔が体勢を崩した隙に、魔王が起き上がり剣を振るう。そこに合わせて魔術が発動した。
無数の光剣が虚空から生まれ、射出される。
対する悪魔は魔王の魔術を無視した。
どうせ再生出来るとでも言うように、魔術をその身に受ける。全身に光剣が突き刺さりながらも無理に体勢を整えようとはせずに反動を使い、体を一回転。刀を振るった。
輝く剣と漆黒の刀が再び交差する。
一合、ニ合と斬り結ばれる度に衝撃波が巻き起こり、石室を破壊していく。
どちらも退かず、ただ剣撃を放ち続ける。
完全なる拮抗。
しかしそれは魔王によって崩された。
「――――」
剣撃を放ちながらも魔王は口を動かし続けていた。それは言葉にもならない音。即ち――詠唱による簡易魔術。
その瞬間、石室全体に数多の立体魔術式が構築された。
その一つ一つには、膨大な魔力が込められている。
悪魔はそれを脅威と判断。即座に数十の刀を作り出し、振るった。漆黒の刀がいくつもの立体魔術式を斬り裂き、破壊する。
だがそれでも足りない。悪魔を取り囲むように何十もの立体魔術式が残った。
それが輝きを放ち、パッと消える。
代わりに出現したのは無数の光球。そこに粒子のような光が集まっていく。
「……ッ!? みんな俺の後ろに!!!」
カナタが叫び、魔術式を記述する。
――雷属性防御魔術:磁光結界
全員が言葉通り、カナタの後ろに退避した。魔術式が輝き、消える。そして、なにも起こらなかった。
「カナタ! 大丈夫なの!?」
「ああ!」
サナが上げた不安そうな声にカナタが力強く頷いた。
魔術はしっかりと発動している。カナタの目には、はっきりと見えていた。仲間たちを覆う磁力の結界が。
……まさか、【閃光】のヤツに対する策が活きるとはな!
それは普通の魔術ならば初歩の初歩ですら防げない限定的な結界。光線に類する魔術を曲げる事に特化した対光線用結界だ。
……同じ魔術ならば可能なハズだ!!!
光球が発光し、光線が放たれる。
それは悪魔の身体を貫いた。だがそれでも止まらない。悪魔を貫通した光線は壁にぶつかると反射した。
ラナが作り出した氷壁を瞬く間に溶かしていく。
そこで魔王は剣を指揮棒のように振り下ろした。
すると呼応するように、光球が高速で移動を開始。光が乱舞する。
石室全体を満たす光線。そこに逃げ場はない。
「……く……ぁっ!」
カナタは結界の維持に全力を注いだ。
光を曲げる度に結界が削られていく。
凄まじい速度で削られていく結界をカナタは魔力を流し続け維持する。
カナタは身体の中から魔力がゴリゴリ削られていくのを感じた。だがそれでもなお結界に手を翳し、魔力を流し続けた。
少しでも突破されれば待っているのは死だから。
無限にも思える時間が経過した。
結果、カナタは耐え切った。
「っかは!」
「……カナタ!」
膝をついたカナタをカノンが支える。
「悪い……な」
「……ううん。……ありがと」
そして全員の視線が破壊の爆心地へと向く。
そこには、穴だらけの悪魔が佇んでいた。
全身からは真っ赤な血が流れ落ちて、地面に大きな血溜まりを作っている。
だが、原形をとどめていた。
これだけの破壊を持ってしても、悪魔の命には届かない。
悪魔がニヤリと笑い、消えた。
瞬時に魔王の眼前に現れた悪魔は、刀を下段に構えている。そこには闇が収束していた。
破壊には破壊を。
――覇道
闇が全てを呑み込んだ。
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