魔術創出
本日二度目の更新です!
前話読んでない方はご注意下さい!
闇が、氾濫した。
一瞬の内にラナやカナタ、魔王までをも呑み込み石室を満たす。
……なに……これ。
一寸先も見えぬ闇の中、ラナは戦慄した。
周囲に漂う悍ましい気配に冷や汗が止まらなくなる。かつて感じた事のない恐怖に押し潰されそうになった。
――ドクン。
闇が大きく脈動し、収束する。
そして現れたのは不気味な闇の塊だった。
魔王が即座に動く。
産み落とされた闇を目にした瞬間、今まで戦っていたカナタを無視して駆けた。
「ラナ!」
闇の塊に意識を取られていたカナタは一瞬だけ出遅れた。
「くっ!」
即座に追おうと縮地を使うカナタ。だが遅い。
魔王の剣が聖なる輝きを宿し、闇へと迫る。
だがしかし、その剣が闇を貫く事はなかった。
闇が無数の刀を作り出し、射出する。その速度は凄まじく、一瞬にして魔王に到達。反応することすら許さずに貫いた。
成す術もなく吹き飛ばされる魔王。
轟音を響かせ壁に衝突すると、そのまま磔にされた。
魔王は踠いて拘束を解こうとするが、深々と突き刺さった刀がそれを許さない。
闇は依然として蠢くのみ。
追撃はおろか、近くにいるラナやカナタに対して攻撃する事はなかった。
……攻撃に反応している?
敵意に対する自動防御。
しかし、なにが攻撃と判定されるかがわからない以上、迂闊な行動は取れない。
だが何もしないという選択肢もなかった。
暴走したレイにとって、生きとし生けるものは全てが殺戮対象だ。そこに仲間か敵かの区別はない。
もしこのまま何もせずに暴走を許せば、仲間にも危害が及ぶ。
それを実際に戦った事のあるラナはしっかりと理解していた。
……そんな事はさせられない!
ラナは覚悟を決めて闇の塊を見据える。
とはいえ、レイの暴走は制御出来るものではない。制御できるものなら封印なんか作らずにそうしている。
あの殺戮衝動は人の手に負えるものではない。ラナはそう結論付けている。
……なら!
ラナは迅速且つ慎重に行動を起こした。
まずは闇を観察する。
……動きはない。だけど気配が強くなっている。
ラナはサッと周囲に視線を走らせると、分断されていたレイの下半身が消えている事に気付いた。
……再生している?
レイはいつ命が潰えてもおかしくないほどに瀕死だった。
あれほどの重症。いくら暴走したレイだろうと再生に時間は掛かる。ラナはそう読んだ。
……でもたぶんあまり時間はない。
ラナは一度深呼吸をすると、意識を集中させる。
……やるしかない!
暴走をどうにかする為の魔術を創り出す。それがラナのとった方法だ。
封印を創り出した時は半年も掛かった。今ある猶予はわずか。こうしている間にもレイの再生は進んでいる。
普通に考えればまず不可能。
……だからまずは速度を上げる!
レイと別れて、一人になった頃から構想はしていた。
――頭が二つあればなぁ。
それは単なる思いつき。
常人であればやろうとすら思わない。
だが天才であるラナはそこで思考を止めなかった。もしできたのなら魔術を扱う効率は跳ね上がる。それがわかっていたから。
……今までは失敗しかしてないけど、やるしかない。
ラナは凄まじい速度で魔術式を記述していく。
次から次へと魔術式が記述され、それらが組み合わさる。やがて出来上がったのは立体魔術式。
組み上げられるだけで超一流の魔術師だとされる立体魔術式の構築。それをラナは難なく行う。
その上、この立体魔術式は過程でしかない。
元の立体魔術式を維持しつつ、新たに立体魔術式を構築。立体魔術式と立体魔術式をさらに組み合わせ、多重の立体魔術式を構築した。
魔術師が見れば美しさすら覚えるほどに芸術的な魔術式。
常人では不可能なそれをラナは身に秘める膨大な魔力と星剣の補助で可能としている。
――無属性固有魔術:並列思考
ラナは自身の魔力を湯水の如く流し込み、魔術を行使する。
魔術式が輝きを放ち――崩壊した。
「くっ!」
失敗だ。
……やっぱりダメ……か!
自分と寸分違わぬ思考をする擬似的な脳を魔術で創り出す。それが今、ラナが失敗した魔術だ。
……魔力は足りている。だけど破綻した。
原因は分かっている。
脳という複雑な機構を創り出すなんて、それこそ神の御技だ。人が出来る事ではない。
……なら考え方を変える!
今、抱えている問題。
それは時間が足りない事。ならば複雑な事はせずに、それだけを解決する魔術を創る。
星剣の力があれば可能だ。
ラナはそう判断し、地面に星剣を突き立てる。そして星剣を中心にして立体魔術式を構築していく。
やがて完成した魔術は、魔術であって魔術ではなかった。
魔術式に星剣を能力を組み込んだ魔星術とでも呼ぶべき物だ。
――魔星術:思考加速
魔術式がパッと輝きを放ち、消滅する。
するとラナの両目に氷の結晶のような紋様が浮かび上がった。
星剣ラ=グランゼルは時をも停止させる能力を持つ。
ラナはその能力を魔術によって反転。思考だけを加速させた。
これで魔術を創る速度は飛躍的に向上する。
……大丈夫。できる。
ラナはもう一度深呼吸をすると、即座に無数の魔術式を展開した。
その数、およそ百。
あらゆる可能性、あらゆる方向性、あらゆる組み合わせを加速させた思考で一気に検証する。
一瞬にして数十の魔術式が破綻し崩壊。消滅していく。
即座に破綻した理由を学習、結果を持って術式の再構築を行う。
ラナの魔力が凄まじい勢いで減っていく。
レイと出会った頃のラナならば既に魔力枯渇で気を失っている事だろう。
だが、ラナもただ待っていたわけではない。
レイと同様に研鑽を積み重ねてきた。
強くなって必ず迎えにくる最愛の人と肩を並べて戦えるように。
――制御は不可能。検討の余地無し。即座に破棄。
頭が割れそうなほどの頭痛がラナを襲う。だが、止めない。任せると言われた以上、期待を裏切れない。
――指向性の付与。否、それだけでは不確定要素が多い。
目や鼻から血が溢れ出す。いくら思考を加速させているとはいえ、情報を処理している脳はたったの一つ。掛かる負荷は想像を絶する。それを同時に回復魔術で治癒していく。
痛みなど無理矢理に意識の外へ追いやる。
……レイが経験した痛みと比べれば……これぐらい!
――殺戮衝動の減衰。却下。抑えるのには限界がある。
「お姉ちゃん!」
いつのまにか氷壁の向こうに居たはずの仲間たちがラナのすぐそばにいた。
アイリスがラナに駆け寄り回復魔術を掛ける。
流石は聖女。回復魔術だけでいえばラナを凌駕している。
頭を苛んでいた痛みがスゥッと引いていく。
……ありがとう。
ラナは心の中でお礼を言い、回復魔術に使用していた思考を式の構築へと回す。
――逆。殺戮衝動の増幅。
全ては最愛の人の為に。
――結論、指向性を魔王に。そして殺戮衝動の増幅によって私たちから意識を外す。
要は逆転の発想だ。強すぎる殺戮衝動を抑え込むのではなく利用する。
おそらく、暴走したレイは一番初めに定めた標的に向かう。だからその意識をほんの少しだけ魔王に誘導すればいい。
加えて殺戮衝動を増幅すれば滅多なことでは仲間が標的になる事はないだろう。
一つの立体魔術式がパッと輝いた。合わせて他の魔術式がボロボロと崩れていく。
思考加速を止めてラナは叫ぶ。
「お願いレイ!」
組み上がった魔術式に魔力を流し込み、闇の塊となったレイに叩きつけた。
その瞬間、再生が終わりを告げる。
闇に亀裂が走り、割れた。
「グゥオオオオオオオオオオオオオ!!!」
咆哮が轟き――。
――悪魔が再誕した。
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