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Re:VS魔王

 パッと光が弾け、視界が広がる。


 目の前には騎士がいた。

 漆黒の鎧を身につけた黒い騎士だ。


 ……俺は……こいつを知っている。

 

 端正な顔立ちに無機質な表情。感情の抜け落ちた目は俺をしっかりと見据えている。


 魔王だ。


 昔、俺が殺したはずの魔王が目の前に立っていた。


 ……は?


 訳がわからない。頭が混乱する。


 ……夢だった……のか?


 一瞬だけそんな考えが頭を()ぎった。だが即座に否定する。

 

 夢にしては感触が生々しかった。

 それに、死を目前にしたあのどうしようもない絶望感。俺はそれを嫌と言うほど()()()()()


 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。


 俺が放った最後の()。それが魔王の首へと迫っていた。

 このまま振り抜けばもう一度、魔王を殺せる。


 ……だが、それでいいのか?


 殺したら同じ結末を繰り返す。必ずそうなると直感で理解していた。

 

 ……そんなのはゴメンだ!


 判断は一瞬だった。


「うぉおおおおお!!!」


 雄叫びを上げ身体を捻り、無理矢理に斬撃の軌道を曲げた。

 刃は上方へと逸れ、虚空を斬る。


「「レイ!?」」


 後ろにいたラナとカナタから驚愕の声が上がった。

 完璧なタイミングで放った終幕の一撃。それを自ら放棄したのだ。当然だろう。


 結果として俺は体勢を崩した。この魔王にとっては致命的な隙だ。それを見逃す相手ではない。

 

 魔王の剣が閃く。

 目にも止まらぬ剣閃。俺は成す術もなくそれを食らった。

 一瞬の浮遊感、そして衝撃。


「ガハッ――!」


 肺にあった空気が全て吐き出され、夥しい量の血液が噴き出る。


「レイッ!!!」

「くそ……!」


 ラナの絶叫とカナタの切羽詰まった声。それがやけに遠くから聞こえた。

 頭がガンガンする。それに全身の感覚がない。


 ズルリと氷壁を滑り、俺の身体は地面に打ち付けられた。

 血溜まりが瞬く間に広がっていく。

 霞む視界で前を向くと、そこには分断された下半身が落ちていた。

 

 ……ミスっ……たか?


 頭に過った考えを即座に否定する。あの一瞬ではこれしか選択肢が無かった。

 

 だが俺は既に死に体。分断された身体では戦うことはできない。残すは死を待つのみ。

 だが、諦めるわけにはいかない。

 

 ……とにかく……伝えないと……!


「……ガッ!!!」


 声を出そうとしたら、喉の奥から血の塊が()り上がってきた。俺はそれを地面に吐き捨てる。

 そこでラナが声を張り上げた。


「……カナタ!!! 十秒! お願い!」


 短く簡潔な言葉、だがカナタはすぐに頷いた。

 

「任せろ!」


 ラナはカナタに背を向ける。その次の瞬間には俺の目の前にいた。

 

 入れ替わりでカナタが魔王へと斬りかかる。だがカナタの攻撃は軽くいなされ、すぐに防戦一方となった。

 防ぐので精一杯。カナタも満身創痍だ。限界は既に超えている。

 猶予は、無い。


「殺したら……ダメだ。殺したら……次の魔王になる!」


 俺は血を吐きながらも何とか口にした。

 

「どういう……事……? いや、それよりも! 封印を……!」


 それは致命傷からの回復。俺のことをよく知るラナはそれをわかっている。

 

 状況は以前と同じ。魔王を倒した俺はラナに封印を解除してもらって一命を取り留めた。たとえ上半身と下半身が分断されていようとそれは関係ない。


 だが、今はダメだ。

 満身創痍のラナでは暴走した俺を抑えられない。


「……ダメ……だ」

「……でも!!!」


 ラナが大粒の涙を流しながら、俺の胸に手を当てた。


「……私、やるよ。ここでレイが死ぬぐらいなら!」


 俺は必死の思いでラナの腕を掴んだ。


「待っ……て……くれ」


 そして俺はラナの目をしっかりと見た。諦めていないと分かってもらうために。


「――ッ!」


 俺の目を見てラナの瞳が揺れた。


「わかった……。でも限界だと判断したらやるから」

「ああ」

 

 血溜まりが広がっていく。命が零れ落ちていくのがわかる。

 

 ……だけど、ラナを悲しませるわけにはいかない。()()()思いは二度とゴメンだ。何かないか!? 考えろ!!!


 脳が焼き切れそうになる程に思考を回す。


 問題は二つ。

 魔王を殺さずに無力化する方法。そして暴走した俺から仲間を守る方法だ。


 難易度が高すぎる。

 無力化なんて殺すより難しい。それを遥かに格上である魔王にやらなくてはならない。


 可能性が浮かんでは消えていく。だが碌な案が浮かばない。


 ……何か……何かないか!?


 無力化ならばまず先に封印が思い浮かぶ。

 しかし俺たちはその封印を解いたのだ。もう一度封印するなんて不可能だし、そもそもラナを楔にしなければならない方法なんてクソ喰らえだ。


 ……いや待て、封印……?

 

 そこで、天啓のように閃いた。


 これは賭けだ。不確定要素が多すぎる。

 なにしろ俺にはさっぱりわからない。わかるとしたらラナだけだろう。


 ……だけどもし、ラナがわかるのなら賭けるに値する!


 俺は一縷の望みに賭けて闇を集める。そして空中に紋様を描いた。

 

 ここに戻る前。魔王となった俺が死ぬ直前、胸に記述されていた紋様だ。

 おそらくは魔王となった俺を封印するためにラナが強化したもの。ならば魔王を俺に封印できるかもしれない。


 ……少しでも可能性があるのなら……!


「これをどこで!?」


 出来上がった紋様を見て、ラナは目を見開いた。

 この反応、ラナは紋様が何だかを理解している。ならば言葉は不要。

 

「説明は後でする! できるか?」


 しかしラナは手を強く握りしめ、俯きながら首を振った。

 

「……わからない! 私には理解できない箇所があるし、なにより問題が……」

「……ダメ……か!」


 ダメならば別の方法を考える。

 時間がない。意識が朦朧としてきた。溢れ出る血は止まらずに流れ続けている。段々と思考が働かなくなってきた。


 ……くそ! とりあえず封印を解除するか!? それで俺を楔に――。


「――!?」


 唐突に口が塞がれた。目を瞑り涙を流すラナの顔が近い。唇に感じる柔らかい感触に思考が止まる。


 無限にも思える時間の後、ラナが離れていく。そして頬を朱に染めながらも俺の目をしっかりと見据えた。


「――任せて」


 ラナの瞳の奥には確かな輝きが宿っていた。

 この目は知っている。ラナと別れ、夢から醒めた後に鏡の前で何度も見た。覚悟を決めた人間の目だ。

 ならば言うことは決まっている。

 俺はラナの瞳を見返して、しっかりと頷いた。


「任せた」


 後は暴走から仲間を守らねばならないが、目がほとんど見えなくなってきた。意識も朦朧とする。

 考えている時間はなかった。


 ……だけど出来ることは……ある。

 

 俺は抑えていた殺戮衝動に身を任せた。意識が呑み込まれそうになる中、その全てを魔王へと向ける。

 後は天に祈るしかない。

 

 そしてラナが俺の胸に手を当てた。


「……氷華封印、解除!!!」


 ――カチャリと。

 

 身体の奥底で何かが外れる音を聞いた。

 瞬間、俺の意識は闇に呑み込まれた。

今日何度か更新します!

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