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キミと共に

　揺れを感じて、俺は目を覚ました。何度も経験したことのある揺れだ。

　目を開けると予想通り、見慣れた光景があった。

「……馬車か？」

　瞼を擦りながらゆっくりと身体を起こす。

「レイ。大丈夫？」

　隣にいたラナが心配そうに見つめてきた。試しに腕を動かしてみるが特に支障はない。

「ああ。大丈夫だ」

　窓から外を見上げると青空が広がっていた。どこまでも続く蒼穹だ。

　少しだけ空いた窓からは心地の良い風が吹き込んでくる。

　外だ。

　それなのに隣にはラナがいる。

　……救い出せたんだな。

　ようやく実感が湧いてきた。

　俺はいまだに心配そうに見つめてくるラナを、無言で抱きしめた。

「え？　え！？　ちょっとレイ！？」

　なぜだかラナは慌てていた。だけど構わない。今は離したくなかった。

「わぁ大胆！」

「レイさん……！？」

「……大胆」

　前言撤回。すぐに離れた。

　そこにはニマニマしているサナと、手で顔を覆っているアイリス、ジト目で見つめてくるカノンがいた。

　そりゃ馬車の中なのだから居るのが当たり前だ。何故いないと思っていたのか。数秒前の自分を殴りたい。

　顔が熱くなってくる。

「ごめん。ラナ」

「ううん。へーき！」

　謝ると顔を真っ赤にしたラナは笑って許してくれた。

「あーっと。カナタとウォーデンは？」

　わざとらしく話題を逸らすとニマニマ顔のサナが答えた。

「カナタは外で歩いてるよ。ウォーデンさんは御者。全部解決したし、ゆっくり帰ろうって事になったの」

「だからあまり速度が出てないのか」

　思えば外を流れる景色がゆっくりだ。歩いているスピードとそう対差ない。

「……俺はどのぐらい寝てた？」

「二日だね」

「……二日か。まだ帰るまでは相当あるな〜」

「だね〜」

　時間がゆっくりと流れている。

　こんなに穏やかな気持ちになったのは久しぶりだ。

　……初めて悪夢を見てからは無かったかもな。

　ようやく肩の荷が降りた。そんな気分だ。

　……まあ、まだまだやる事は山積みだけどな。

　地球への帰還方法も探さなくてはならない。あの壁画のことも気になる。なぜ魔王が前魔王じゃなかったのかもだ。

　だけど今はこの、のんびりとした時間を満喫したかった。

「みんな。改めてありがとな。助かった」

「ホントね。一時はどうなる事かと思ったけどみんな無事でよかったよー！」

「私もありがとうございます。お姉ちゃんを助け出すことが出来ました」

　カノンもこくんと頷いた。

「そういえばアイリス。いつもはお姉ちゃん呼びなのか？」

「そ、それは……！」

「アイリスは昔っからお姉ちゃんっ子だったからね〜！」

「……お姉様！」

　仲睦まじい姉妹を見て思わず頬が綻ぶ。

　本当に救い出せてよかったと心の底から思った。

「じゃあ俺、外の二人にも顔見せてくるわ」

「あ、私も行く！」

　ラナがそう言ったので二人で外に出た。

　とても心地良い気候だ。気温は暑すぎず、寒すぎず。風も程よく吹いており快適そのものだ。

　きっと昼寝をしたら、さぞ気持ちの良いことだろう。

「カナタ。ウォーデン」

　俺は御者をしているウォーデンと、その横を歩いているカナタに声を掛けた。

「目、覚めたのか」

「調子はどうよ？」

「特に問題ないよ。二人もありがとな。助かった」

「何回言うんだよ」

　カナタが呆れたように笑う。

「仕方ねぇだろ。何回言っても足りないぐらいだ」

「じゃああれだな。俺が困った時は助けてくれよ？」

「もちろんだ。ウォーデンもな。何か困ったら俺が力になる」

「言ったな？　その言葉忘れるなよ？」

「男に二言はない」

　即答するとウォーデンはニヤリと笑った。

「期待してるぜ？　……っと姫サマ。御者を変わってくれるか？　ぶっ通しでオレは疲れた」

「わかった！　ほらレイも隣きて！」

「んじゃ俺も中に戻るよ。お二人共、ごゆっくり」

　二人は馬車の中に戻って行った。どうやら気を遣われたらしい。

「俺も御者、できるようにしとかないとな」

　恋人に、それも王女様にやってもらうなんて格好がつかない。

「じゃあ、帰ったら私が教えてあげるね？」

「そうだな。よろしく頼むよ」

「うん！」

　しばらくは無言の時間が続いた。だけどそんな時間も居心地がいい。

　馬車が一本道を進んでいく。空を見上げると、どこまでも続く青空が広がっていた。

「ラナ。……これから先も一緒にいような」

「うん！　この前も言ったけど、離れたら絶対許さないからね！」

　ラナは手綱を片手に持ち変えると俺の手を握り、肩に頭を乗せてきた。

　俺も手を握り返す。

　解決しなければならないことがたくさんある。

　だけどラナと、仲間たちと一緒なら乗り越えていける。そう思えるほどの縁(・)をこの旅で繋ぐことができた。

　だから、大丈夫だ。

　これから先も歩んでいこう。

　――キミと共に。

これにて一章、氷姫救出編完結となります！

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