乱舞
――もし、これで偽剣を放てたら?
降り注ぐ冥刀を見て思った。
即ち、偽剣の遠隔起動。
俺は腕を再生しながら高速で思考を回す。
偽剣とは、理外の剣。爺曰く、「剣であって、剣ではない」。
剣でないのならば、できるかもしれない。
俺は固定観念に囚われていた。
剣技というものは「己の手から放つものだ」という固定観念に。
それは偽剣が強力すぎたせいもあるだろう。並の敵ならば放つだけで倒せる。故に遠隔で放とうなどとは考えもしなかった。そんな事をせずとも事足りたからだ。
俺は頭上に展開している冥刀を見上げた。
規則正しく並んでいる冥刀。この全てとは言わずとも何本かで偽剣を放つことができるならば状況を打破できる。
出来るかはわからない。加えて時間もない。
……だけど、やるしかない!
俺は頭上の冥刀を一度闇へと戻す。急に全てで放つのは無謀だ。時間がなくとも堅実にいく。
手に持つ二刀に加え、作り出すのはもう一本。三本目の冥刀を利き手である右手近くに配置。腕の振りと合わせて動かす。
振るう刀が三本になっても魔王は変わらない。ただ淡々と対処してくる。
俺は三本の冥刀を上段から振り下ろした。当然魔王は難なく弾く。その衝撃を利用して俺は少しばかり距離を取った。
そして偽剣を放つ。
「第三偽剣、断黒!!!」
放つは黒の断罪刃。第三偽剣を選んだ理由は至極単純。一番簡単だからだ。
やっていることと言えば、刀身に闇を纏わせて斬撃を飛ばしているだけ。
他の偽剣は理解ができない。たったの一振りで無数の斬撃を生み出したり、次元を斬ったり。自分でやっておいて言うのもなんだが、訳がわからない。
理解できないものを遠隔で放とうなど無謀の極みだ。
三本の冥刀で放った第三偽剣。
だがやはりと言うべきか、手に持つ冥刀からしか放てなかった。第三の冥刀からは、第三偽剣のかわりに黒い斬撃が放たれた。
これは奈落の森、最奥でヒュドラと戦った時に使ったものだ。
謂わば出来損ないの斬撃。規模も威力も何もかもが劣っている。
失敗だ。
だがこれは想定内。
初めから上手くいくなんてサラサラ思っていない。
失敗を糧に成功へと繋げる。偽剣も副産物。謂わば失敗の積み重ねだ。
まずは理解する。自分がこれまで使ってきた偽剣という偽物の剣技を。
俺は一度、三本目の冥刀を闇に戻した。
そして二本の冥刀で第三偽剣をひたすらに放ち続ける。腕が悲鳴を上げるが無視した。
理解するにはとにかく数がいる。
その間も思考は止めない。
そもそも第三偽剣は、刀で斬れないのならば闇で斬ればいいのではないかという発想から生まれた偽剣だ。
手順も単純、刀に闇を纏わせて振り抜くだけ。
しかし闇が足りなかったり、振り抜きが甘かったりすると黒い斬撃になる。
偽剣では無いために黒い斬撃は連発が可能だ。だが威力、規模は格段に落ちる。第三偽剣とは比べるべくも無い。
……いや待て。
そもそもだ。
爺に「こんなものはできない」と言わしめたのは第一偽剣だ。
その後は副産物として生まれた技を俺が順番に偽剣と名付けた。
それを考えるならば爺の言う「できない」に当てはまるのは
第一偽剣、
第二偽剣、
第五偽剣、
第六偽剣
だろうか。
他は魔術師であればやり方次第でおそらくは再現できる。
そもそも第三偽剣の劣化である黒い斬撃が放てる時点で、できない道理はない。
結論は出た。
頭を動かすのはここまでだ。あとは正解の感覚を身体に刻みつける。
……とにかく数だ。
手に持った冥刀から放つ第三偽剣は一度の失敗もない。だからひたすらに放ち、感覚を覚えさせる。
一秒の間に何十も第三偽剣を重ねる。
それが数十秒も続いた。放った第三偽剣は優に千を超えている。
……そろそろか。
俺は一度息を吐き出すと、三本目の冥刀を再び作り出した。初めの一撃と同じく、右腕と合わせて第三偽剣を放つ。
失敗した。放たれたのは黒い斬撃。
その後も失敗を繰り返した。だが、諦めない。
そして斬撃が千を超えた頃、三本目の冥刀から第三偽剣が放たれた。
……この感覚だ!
忘れるな。身体に刻みつけろ。
同じ力、同じ速度、同じ角度、同じ闇の量。全てを同じにして撃ちまくる。
失敗は続いた。だが一度でも成功したのだ。あとは精度を高めるのみ。
二回目はおよそ百発目を放った頃だった。
繰り返す毎に、成功確率が上がって行く。
そして何発目か分からなくなるほどの試行回数の果てで、成功が重なった。
俺は覚悟を決め、周りに十の冥刀を作り出す。
「ラナ! カナタ!」
返事はない。だが伝わっていることはその表情でしっかりと分かった。
「フゥーーーーー」
長く息を吐き、止める。一瞬で極限まで集中力を高める。
「……第三偽剣、断黒・乱舞!!!」
冥刀から放たれるは十の第三偽剣。
両手を合わせると二発は失敗したが、上出来だ。突き進む断罪刃を掻い潜って俺は進む。
同時にラナとカナタも星剣の能力と魔術を発動した。
「ブリジリア=アルメス」
――雷属性拘束魔術:雷天縛
虚空から生まれた無数の氷鎖と雷でできた鎖が魔王を絡め取って行く。
それでも一瞬にして五の第三偽剣が斬り捨てられた。
だがそれでいい。
魔王は残りの五発に対処するべく剣を構えた。
よって俺への対処が遅れる。
――そこが隙だ。
「第六偽剣、空位断絶!!!」
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魔王戦も終盤!引き続きお楽しみください!
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