表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/239

三十秒

 三十秒。

 普段ならあっという間に過ぎる時間だ。しかし一瞬一瞬の判断が命取りとなる極限の戦いでは果てしなく長い時間に感じる。

 

 魔王の振るう剣は凄まじく速く、重い。剣技だけでも俺より遥かに上を行く。

 持ち堪えられているのは俺に再生という強みがあるからだ。


「――ッ!」


 腕に激痛が走る。

 魔王が振るった剣を受け流しきれずに手首が折れた。だがこれくらいならば一瞬で治る。


 俺は返す刀で偽剣を放つ。

 右の冥刀で第三偽剣(断黒)を、左の冥刀で第六偽剣(空位断絶)を。


 第三偽剣(断黒)は魔王に当たる寸前で歪み、軌道が逸れる。

 次元を斬り裂く第六偽剣(空位断絶)でさえ、その手に持つ剣で易々と弾かれる。


 遠距離攻撃は魔王に対して意味をなさない。

 だがその間はほんの一瞬、魔王の動きを止めることができる。

 最優先はラナが指定した三十秒を耐え切ることだ。

 ほんの一瞬繰り返せばいずれ三十秒になる。

 だからこれでいい。


「――ッ!」


 またも腕に激痛が走る。

 今度は折れたわけでも斬られた訳でもない。偽剣を連発する事によって生じる負荷に腕が耐えられないのだ。

 二連続で放てば腕は使い物にならなくなる。これが偽剣を連発できない理由だ。

 

 だが今の俺には再生がある。痛みに耐えさえすればいくら連発しようが問題にならない。

 幸い、痛みには慣れている。


 この間、およそ五秒。

 たったそれだけしか経っていない。


 魔王が人差し指をこちらに向けた。

 指先にはいつの間に記述したのか、複雑な立体魔術式があった。

 脳が避けろと煩いぐらいに警鐘を鳴らす。


 ……まずい!


 俺は展開していた盾を間に割り込ませ、魔王の指先の直線上から身体をズラす。ついでに頭上の冥刀も数本落としておく。

 そして魔術が発動する。


 ――閃光が瞬いた。


 なにが起きたのかを理解できなかった。気が付いたら盾ごと右肩がごっそりと消失していた。落としたはずの冥刀も消えていた。


 俺は()()()()()()事を即座に理解した。


 ならば撃たせなければいいだけだ。解らない現象をいちいち考えている暇はない。


 ……とにかく再生――。


「――ガハッ!」


 口から鮮血が飛び散った。


 ……クソ! 肺か!


 肩口の傷が肺にまで達している。そこからの出血で気管が塞がれた。


 すぐに再生を試みる。しかし内臓は再生を終えるまで少しだけ掛かる。

 時間にして僅か一秒。

 だがこの極限の戦闘においてそれは致命的な隙となる。


 魔王の剣が胸の中心へと迫っていた。一瞬後にはこの剣が胸を貫くだろう。

 

 盾を割り込ませるには時間が足りない。

 縮地で避けようにも間に合わない。

 なにより思考する時間が足りない。


 魔王の剣が胸を貫く。その寸前――。


 ――ズドン。


 雷鳴が轟き、魔王が吹き飛んだ。そのまま真っ白い壁に激突する。


「待たせたな」

「……おせぇよ」


 俺の隣にはいつの間にかカナタが居た。

 全身に赤雷(せきらい)を纏い、髪の毛先が血のように赤く染まっている。

 その額には赤雷で構成された二本の角があった。


 ――雷属性固有魔術:雷鳴鬼。

 

 溢れ出る膨大な魔力が赤雷に触れ、弾ける。

 手に持つ刀にも赤雷が纏わりつき、その刀身を真っ赤に染め上げていた。


 雷鳴鬼。

 その二つ名に相応しい姿だ。


「レイ。こっからは二人がかりで行くぞ」

「ああ。遅れるなよ?」

「お前がな!」


 ニヤリと笑い、雷鳴が轟いた。赤雷(せきらい)が疾る。

 元からカナタの速度は凄まじかった。だが今はそれすら比較にならないぐらいに速い。

 流石は特級魔術師。


 ……これで第八位なのは何の冗談だ?


 そんな事を思いながら後を追う。再生は既に終えている。


 魔王が剣を地面に突き刺し、起き上がる。

 かなりの勢いで吹き飛んだのに魔王は無傷だった。

 

 その首目掛けてカナタが刀を振るう。だがこちらがいくら強くなったところで魔王はその上を行く。

 凄まじい速度で振るわれた刀に自分の剣を完璧なタイミングで合わせ、受け流した。

 無防備になったカナタに向けて魔王の剣が迫る。


 ――第二偽剣(刀界・破天無双)


 左手の冥刀を鞘に変え抜刀。魔王の剣を弾く。

 すかさず縮地を使い、距離を詰める。カナタと左右から同時に首へ向かって斬撃を叩き込む。

 速さ、威力共に完璧な斬撃だ。だがそれすらも魔王には届かない。

 一呼吸の内に振るわれた剣が俺とカナタの刀を弾く。そのまま魔王はカナタに向けて剣を振り下ろした。


「――チッ!」


 俺はカナタに体当たりをして押し飛ばす。盾を割り込ませてなんとか剣の軌道を変えたが、右腕を切断された。


 雷鳴が轟き、カナタが背後を取る。俺も腕を再生しながら魔王の剣を狙う。

 

 攻撃は全てカナタに任せる。斬られても再生出来る俺は犠牲を顧みずにとにかく攻撃を捌く。

 

 カナタだけでは魔王を倒すことはできない。

 だけどそれでいい。

 今は倒そうなどとは考えない。欲を出してはいけない。それはラナが来てからだ。


 ……あと七秒。今はとにかく時間を稼ぐ。


 赤雷を纏った斬撃が首を目掛けて振るわれる。魔王は剣で迎撃しようとしたが、俺の冥刀がそれを阻む。

 すると魔王は身を屈めて斬撃を()()()


 魔王はそのまま回し蹴りを放つ。カナタが瞬雷で躱し、俺は盾で受け止めた。

 足を斬り落とすべく盾の陰から出る。その時には魔王の指先に魔術式が記述されていた。

 指先は俺に向いている。


 体勢が悪い。重心が前にある以上、縮地で引くことは出来ない。


 ……なら!


 俺は敢えて前へと進む。そのまま左の冥刀を振るい、魔術式、その核を貫く。

 立体魔術式は魔術式を立体的に組み合わせたものだ。だから核は複数個ある。この術式の核は六つ。

 俺の冥刀は五つを貫いた。


 ……チッ! 一つ逃した!

 

 瞬間、魔術が暴発した。

 

 閃光が目を焼き、視力が失われる。暴発によって左腕の感触が無くなった。

 だがそれだけだ。内臓が傷付いたわけではない。ならばすぐに治る。

 だけど視力は厄介だ。外傷ではないため再生できない。


 ……なら外傷にすればいい。


 冥刀の刀身を短くして二つの眼球に突き刺す。焼け付くような痛みに耐えながら再生し、視力を取り戻した。

 その後、腕も再生する。


 カナタも暴発の範囲には居なかったらしく、すぐに俺の隣まできた。


「カナタ!」

「おう!」


 俺は冥刀の長さを戻し、左手にも冥刀を持つ。そして闇を集める。放つは第七偽剣(覇道)


「レイ!」


 ラナの声がした瞬間、バリンと何かが砕ける音がした。

 

 三十秒。


 ……()()だ。

ご覧いただきありがとうございます!


「続き読みたい!」「面白い!」と思ってくれた方は

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いします!

面白いと思っていただけたら星5つ、つまらなかったら星1つと素直な気持ちで大丈夫です!

ブックマークも頂けたら嬉しいです!


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=755745495&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ