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辿り着いた地獄

 白く染まった視界が晴れるとそこは暗闇だった。一寸先も見通せないほどの深い闇だ。

 

 心臓がドクンと跳ねる。

 

 俺はこの場所を知っている。肌にまとわりつく様な空気は忘れようもない。


 大きく息を吸い、心を落ち着けるようにゆっくりと吐き出していく。

 暗闇を見つめ目を慣らす。すると徐々に岩肌が見てきた。俺のいる場所は洞窟のような小部屋だった。こちらも地面から壁、天井に至るまで全てに魔術式が刻まれている。


 ……違う場所か?

 

 通路は前方に伸びる一本のみ。深淵へと続く穴のように口を開けている。

 

 ――ゴォォォォンッ!

 

 通路の奥から何か重いものを叩きつける様な音がした。


 ――ゴォォォォンッ!


 それは一定間隔で鳴り響き、止まる気配はない。

 俺は音の方へ向かって歩き出した。道は一つ。どのみち進むしかない。

 しばらくすると唐突に通路が途切れた。地面にぽっかりと穴が空いている。


「――ッ!」


 眼下に広がる光景に思わず息を呑んだ。やはり間違いない。


 ――あの場所だ。


 俺が何度も何度も何度も何度も殺され続けた場所だ。


 ……そりゃ見つからない筈だ。


 出口は天井にあったのだ。

 こんなところに穴が空いているなんて思いもしなかった。

 下から見た時はただの岩肌だった。周囲を満ちる暗闇も相まって岩肌だと思っていたのだ。

 しかし、たとえ見つけていたとしても脱出は不可能だ。ただの人間であった頃の俺にはここまで登ることなんてできなかった。


 ――ゴォォォォンッ!


 先程までは反響するだけだった音が直に鼓膜を揺らす。腹の底から響く轟音が煩わしくそちらへ目を向けた。

 ソレを視界に収めた瞬間、目の前が赤く紅く赫く灼熱していく。

 

 大太刀を持ったバケモノが、己の得物を石扉に叩き付けていた。


「……鎧武者!」

 

 そこはラナのいる場所だ。バケモノ如きが入っていい場所ではない。


 全身の血が沸騰しそうになる程、熱く沸たぎる。歯を食いしばっていないと殺戮衝動に呑み込まれそうだ。

 それを胸に灯る暖かな光が抑え込んでいく。


 ……正気を失うわけにはいかない。


 そんな事になれば全てが台無しだ。協力してくれた仲間たちに合わせる顔がなくなる。

 一度目を瞑り、呼吸と共に身体中の熱を吐き出していく。


 ……あと一歩なんだ! 呑まれるな!

 

 淡々と冷静に。俺がやるべきことはただ一つ。呑まれずにヤツを殺す。


 胸に手を当てて呟く。


「……第五封印解除」


 闇と共に殺戮衝動が暴れ出す。それを気力で捩じ伏せ冥刀を手に握る。

 そして、穴から身を躍らせた。


 砂埃を舞い上がらせながら着地する。奇しくもここは俺が初めて殺された場所だ。

 

 ようやく辿り着いた。ようやく戻ってきた。

 冥刀の切先を鎧武者へと向ける。


「あとはお前を殺すだけだ……!!!」


 鎧武者が振り返る前に偽剣を放つ。


「第五偽剣! 葬刀!!!」


 偽剣が鎧武者の首を刎ねる。

 しかし、頭と首の切断面が蠢くと直ぐに再生した。


「いいぜ! たとえ何万回だろうと殺し尽くしてやる!」


 俺がやられたように――。


 戦闘開始だ。




 鎧武者が振り返り、大太刀を納刀した。

 ゾワっと肌が粟立つ。


 ……くる!


 抜刀。

 凄まじい速度で振るわれた大太刀が空気を斬り、真空の刃を作り出す。

 瞬き一つの間に斬撃が迫る。


 ()()()は見えなかった。

 成す術もなく、両腕を斬られた。

 右足を斬られた。

 身体を分断された。

 

 だが今は見える。


 見えているならば何も問題はない。冷静にタイミングを見計らい冥刀で真空の刃を打ち払う。

 そのまま冥刀を上段に構える。


「第三偽剣、断黒!!!」


 黒き断罪刃が鎧武者に襲いかかる。あの頃は喰らいつくのが精一杯だった。

 だが今はヤツの首元に刃が届く。


 ……届くのならば殺せる。


 鎧武者が身を翻して断罪刃を避ける。そのまま、足に力を入れるのがわかった。

 近接戦に持ち込む算段だ。ならばこちらも受けて立つ。


 瞬間、鎧武者が掻き消えた。俺も縮地を使い距離を詰める。

 

 冥刀と大太刀が衝突し、衝撃波を撒き散らす。地面がひび割れていく。


「うぉおおおおおお!!!」


 両腕が悲鳴を上げている。だがそんな物は関係ない。

 俺は冥刀からわずかに闇を引き剥がし、腕に纏わせる。そのまま力一杯に振り切った。


 鎧武者が吹き飛び、扉に激突する。

 それを持ってしても扉は傷一つ付いていなかった。


「どうやったらお前は死ぬんだろうなぁ!!!」


 首を斬ってもすぐに再生される。

 伯爵邸で出会ったバケモノのように第一偽剣(刀界・絶刀無双)で跡形もなく吹き飛ばせば殺せる。

 しかし、コイツ(鎧武者)はあのバケモノより何倍も強い。そんな隙はないだろう。

 

 ならば弱点を探すしかない。

 

 伯爵邸でバケモノと戦った後、ずっと考えていた。


 俺はどうやってヤツらを殺したんだ、と。


 かつてこの場所で暴走した俺はバケモノどもを皆殺しにした。あの惨劇を見ればそれは一目瞭然だ。

 あれだけの惨劇だ。中には再生する個体もいた事だろう。ならば殺す方法は必ずある。

 そして俺は仮説を立てた。どこかに力の源とも言うべきものがあるはずだ。それこそ迷宮における迷宮核のような。


 ……胸の中心か?

 

 俺の闇も胸の中心なら溢れ出している。ならば同じ場所にあると考えても不思議ではない。


 扉に叩きつけられた鎧武者は全身から血を流している。いまだに起き上がれていない。

 

 俺は左手を前に出し、冥刀を右手で構えた。その切先で鎧武者の胸の中心に照準を定め、弓のように引き絞る。

 俺は縮地を使った。


「第四偽剣、神穿煌(しんせんこう)


 第四偽剣は縮地との合わせ技だ。縮地の速度(スピード)を全て刀に乗せた突き。それは神をも穿つ煌めきとなる。

 第四偽剣が胸の中心を穿つ。


 しかし、鎧武者はまだ動いた。


 ……ハズレか!


 ならば次は心臓だ。突き刺さった冥刀を右に捻り、刃を心臓へ向ける。

 その時、鎧武者の背に無数の触手が現れた。そこには前に見た時とは違い、無数の口がついていた。

 嫌な予感がした。


「「「「「イル」」」」」

「「「「「ウルス」」」」」

「「「「「カイルタ」」」」」


 舌打ちをし、即座に縮地で距離を取る。


 燃え盛る炎弾が、空中は疾る稲妻が、鋭利に尖った氷柱(つらら)が無差別に放たれた。

 伯爵邸で遭遇したあのバケモノと同じ攻撃だ。魔術式を用いない魔術モドキ。


 ……同類なんだ! コイツが使えても不思議じゃねぇか!


 後退しつつ、腕に纏わせた闇で鞘を作り抜刀の構えを取る。


「第二偽剣、刀界・破天無双」


 荒れ狂う炎を、氷を、雷を無数の斬撃でもって斬り伏せる。


「……」


 斬撃の隙間を縫い、鎧武者が距離を詰めてきた。刀は上段に構えられている。

 俺は冥刀を十本の黒刀に作り替える。照準は四肢に加え、首、脳天、眼球、心臓、鳩尾、腹部。人体の急所とされている場所に射出する。


 鎧武者は上段に構えた大太刀を振り下ろしながら触手を身体に纏い、守りを固めた。

 振り下ろされた大太刀を俺も大太刀を作り出して受け流す。


 ――カラン。

 

 弾かれた黒刀が地に落ち甲高い音を響かせた。鎧武者の身体に刺さっている黒刀は全部で九。俺は口角を上げ獰猛に嗤う。


「守ったな?」


 これで確信した。

 黒刀が突き刺さらなかった場所は心臓。そこが弱点だ。

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