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月ノ迷宮

 月ノ迷宮。

 三十年前に迷宮化し、わずか二年で踏破された迷宮だ。記録によると全十三階層。D級の迷宮だったと記載されていた。

 

 元は月華神殿という名の月を祀る遺跡だったらしい。

 日本にも月を神格化した神、月読命(ツクヨミ)がいる。だからこの世界でも月を神格化し遺跡が作られていたとしてもなんら不思議ではない。

 どの世界でも天体は神秘的で神聖な物なのだろう。

 

「……あれか」


 空から見るとすぐに分かった。小高い丘の上に石造りの遺跡が建っている。規則正しく立っている石柱の上には三日月型の彫像が置かれており、一目でこれが月ノ迷宮だとわかる。

 俺は翼を折り畳み、降下を開始した。




「……封印再起動」


 遺跡に降り立ち、封印を起動させる。胸から溢れ出る闇が消え、翼も消えた。


「それにしても……すごいなこれは……」


 感嘆のため息が漏れる。

 建築様式とかには詳しくないが、荘厳の一言だ。周囲に満ちる空気でさえ神聖な物に感じる。

 

 上空から見た三日月の石柱は見上げるほどに巨大だった。それが左右に立ち並び、奥へ奥へと続いている。最奥にはこれまた巨大な建築物があった。これが月華神殿だろう。


 ……とりあえず魔力は感じないな。踏破済みって情報は間違いなさそうだ。


 神殿の中に入ってもそれは変わらなかった。

 月をモチーフにした彫像が規則正しく置かれ、壁や石柱にも月のレリーフが彫られている。その奥には祭壇があった。

 記録によるとこの祭壇裏に迷宮へと続く入り口があるらしい。


 俺は記録の通りに祭壇裏に回り込む。すると奈落の森で見たような降り階段がそこにはあった。


「第一封印解除」


 踏破された迷宮に魔物はいない。罠の類もなく、基本的に危険はない。

 だけど念のため封印を解除し、黒刀を作っておく。奈落の森であれだけ想定外(イレギュラー)に襲われたのだ。踏破済みであっても油断はできない。


「……いくか」


 俺は一度深呼吸をすると、月ノ迷宮内部へと足を進めた。




 そこそこ長い階段を降りると小さな部屋があった。神殿の名に相応しい美しさを備えた部屋だ。

 壁にはぎっしりと壁画が描かれており、天井には魔導具と思しき灯りがあった。

 

 通路へと繋がる道の左右には純白の石像が鎮座していた。


「これは……天使か?」


 石像の背には一対の大翼があった。

 それだけではなく頭上には光輪があり、法衣に身を包んでいる。その姿は俺がイメージする天使そのものだった。

 

 二体の天使像は壮麗な剣を地面に突き刺し、向かい合うようにして仁王立ちをしている。

 右の石像が男性で左の石像が女性の姿。どちらも同じ格好をしている。


 ……やっぱ地球と無関係じゃねぇよな。


 俺のイメージした天使は言ってしまえば地球人が思う天使だ。

 地球人がこの石像を見れば十人が十人、天使と言うだろう。それ程までに地球の天使と似ていた。似過ぎているほどだ。


 魔術が同じことといい、天使といいレスティナと地球には共通点が多すぎる。


 ……まあ天使は前の勇者が伝えた可能性もあるか。


 召喚された勇者が信心深い人物だったのであればその可能性も十分あり得る。

 

 気になるのはレスティナの人々がこれを天使だと認識しているのかだが、今は悠長に考えている場合ではない。

 だから一旦頭の隅に追いやる。


「……さて。どこから調べるか」

 

 月ノ迷宮は全十三階層。奈落の森ほど深くはないがそれでも十三階層だ。全てを調査するには時間がかかりすぎる。

 しかし俺は月ノ迷宮はもともと月華神殿だったことを知っている。月華神殿の記述は何百年前の資料にも存在した。


 月へ行く方法がどんな物かは不明だが十中八九、転移魔術の類だろう。勇者召喚も言ってしまえば転移魔術だ。世界を渡れるぐらいなのだから月へ行けたとしても不思議ではない。


 しかし勇者召喚も転移魔術も今の時代にはない。

 正確には魔術式自体は存在するが、どんな魔術定数の組み合わせで動いているのかが解明されていない。謂わば失われた魔術(ロストマジック)だ。


 だから新たに設置する事はできない。

 その為三十年前、月華神殿が迷宮になってから月への道が作られたとは考えづらい。

 よって迷宮でなかった頃から存在する階層に道はある。

 

 俺が読んだ書物によると月華神殿は元々地下一階までしかない建築物だったらしい。


 ……なら使うべきはここか?


 無闇矢鱈(むやみやたら)に標のペンデュラムを使う事はできない。伯爵の予想なら使えるのはあと一回だ。

 使い所は慎重に選ばなくてはならない。

 だが俺のこの予想が正しいのならば使い所はここだ。

 

 俺は自分の直感を信じて標のペンデュラムを取り出した。


 目を閉じて集中する。

 今回探しているのはラナや星剣のように存在がはっきりしている物ではない。

 いくら標のペンデュラムとはいえイメージできない物は探せない。


 イメージするのは道だ。月へと繋がる一本の道。

 抽象的すぎるが、そのイメージが確固たる物ならば標のペンデュラムはその方角を指し示す。


 念じるとすぐに動き出した。

 目を開くと標のペンデュラムは今し方降りてきた階段を指し示していた。


「ともかく当たりだな」


 標のペンデュラムが指し示したのはおそらく、階段の裏に隠されているであろう道だ。

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