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飛翔

 翼を折りたたむと地上へ向けて降下を開始する。

 高所からの自由落下(フリーフォール)。地面が急速に近付いていく。

 風を切る感触がなんとも心地良い。


 わずか数十秒で地面まではあと少しという高度になった。俺は翼を大きく広げて急制動を掛ける。

 身体にとんでもない重力が掛かるが、俺の身体は人間とは言えないほど変質している。だからなんの問題もない。


 中庭に降り立つとそのまま縮地を使い、談話室のあるバルコニー、その手すりへと移動した。


「……封印再起動」


 闇で作られた翼が宙に溶けて消えていく。

 

「「レイ!」」


 談話室の中には仲間たちが勢揃いしていた。

 封印を解除すれば闇が溢れ出る。カナタが言うには邪悪な気配がするらしい。それを察知したのだろう。

 サナとカナタがバルコニーに降りた俺を見つけ、駆け寄ってきた。


「お前どこ行ってた! これはなんだ?」


 すごい剣幕でカナタが紙を見せてきた。「少し出かける」と書かれたソレは俺が残した書き置きだ。


「あー。……ちょっとな」


 まさか帝国に行こうとしていたとは言えずにはぐらかす。

 サナとカナタが半眼で見てくるので俺はつい目を逸らしてしまった。


「「怪しい」」

「……こういう時だけ息ぴったりだな」


 呆れたようにいうとサナが眦を釣り上げた。


「心配したんだからね! わかってる!?」

「わかったよ。悪かった」


 両手を上げて降参の意を示すと、サナも溜飲を下げたのかため息をついた。


()()いなくなったら、承知しないから」


 その言葉にハッとした。気が回っていなかった。

 地球で俺は唐突にいなくなった。病院で暴走して爺に保護されたのだ。

 サナからすれば()()()を思い出したのだろう。

 軽率だった。俺が全面的に悪いので素直に頭を下げる。


「ごめん」

「分かればよろしい。それで? 空で何してたの?」

「ああ。ラナを見つけた」

「「「「は?」」」」


 サナとカナタ、ウォーデン、そしてアイリスまでもが呆けた声を出した。カノンは目をぱちくりとさせ首を傾げている。


 いきなり封印を解除して飛び立ったかと思えば、失敗したはずの人探しが成功したと言う。

 (はた)から見れば訳がわからない状況だろう。

 

 俺は人差し指を立て、空を示す。


「思い当たることがあってな。空で標のペンデュラムを使ったんだ」


 懐にしまっていた標のペンデュラムを取り出す。先端についている宝石は曇りに曇っていた。使用回数はすでに四回だ。伯爵の言った通り、あと一回使えば砕けるだろう。


「それで指し示したのは月だ。標のペンデュラムは初めから月を指してたんだ」

「……さっきはお昼だったから月は下にあったってこと?」

「そういうことだ」

「でもちょっとまってよレイ。それが本当なら月なんてどうやっていくの? 地球みたいにロケットがある訳じゃないんだよね?」

「――あ」


 アイリスは気が付いたようだ。流石第二王女。自国にある迷宮は把握しているのだろう。


「アイリスの思っている通りだ。おそらく月ノ迷宮に月へと繋がる道がある」

「……月ノ迷宮。たしか調査済みじゃなかったか?」


 ウォーデンの言う通りだ。俺が調べた限りでも調査は既に終わっていると書いてあった。

 結果は何も無し。今となってはただの遺跡だ。しかし見落とした可能性も十分にある。


「十中八九、隠し通路かなんかだろうな。奈落の森にも見つかってないのがあったんだ」

「たしかにな。あれだけ長い間見つからない通路があったんだ。他の迷宮にあってもおかしくはない……な」

「ああ。それに、困ったらコレがある」


 標のペンデュラムを掲げてみせるとウォーデンは「確かにな」と頷いた。

 四回で壊れなかったのは幸運だ。

 

「………………本当なのですか?」


 アイリスの瞳に涙が溜まっていく。唇を噛み締め堪えていたが、止めどなく溢れてくる涙が止まることはなかった。


「本当だよ」


 宝石のような涙が床に落ちる。アイリスは泣き笑いのような表情を浮かべた。


「アイリス……!」


 サナがアイリスに近付くと思いっきり抱きしめた。優しい手つきで背中をさする。


「よかったね……!」

「はい……! はい……!」

「……ん。……本当に良かった」


 カノンも後ろからアイリスを抱き締めた。


「ようやくだな。レイ」

「だな。あとは救い出すだけだ」

「じゃあ……行ってこい」


 カナタが俺の背中を勢いよく叩く。

 

「痛ってぇ! って……は?」

「お前一人なら何日も早く着くんだろ?」

「まあそうだけど……」


 カナタのいう通り、俺一人ならば飛んでいける。

 飛んでいれば魔物との遭遇や地形は考慮しなくて済む。たとえ深い谷だろうと高い山だろうと関係ない。

 地上を行くより早く着くのは当然だ。


「俺たちは後から必ず追いつく。だから先に行け。アイリスもいいよな?」

「はい! もちろんです!」


 アイリスが涙を拭いながら元気よく言った。


「それに、レイさん。今にも飛び出しそうな顔してますよ?」

「え?」


 俺は慌てて顔に触れる。確かに口角が上がっていた。


「気付いていなかったんですね。見たことの無い顔をしていますよ。なんというか……憑き物が落ちたような顔です」


 それはそうだろう。ラナの行方を見つけてから心が軽くなった。

 でもそれはアイリスも同じだ。ラナを想う気持ちは変わらない。

 

「それはアイリスもだよ。でも本当にいいのか?」

「はい! 再会はお二人で! その方がお姉様も喜びそうです! あ、でも私がいる事は内緒にしといてくださいね! 驚かせたいので!」


 人差し指を口に当てて可愛らしくウィンクをする。

 こんなお茶目なアイリスは見た事がない。やはり俺と同じだ。心に余裕が出来たのだろう。


 ……これが素なのかな?


 そんなことを思いながらも俺は頷いた。

 

「わかった。内緒な。ラナがどんな顔をするのか今から楽しみだ」

「そうですね!」


 俺とアイリスは二人で笑い合った。


 一度目を瞑り、大きく頷く。

 

「じゃあ俺は行くよ。……第四封印解除」


 闇を集めて翼を作り、バルコニーの手すりに乗る。


「カナタ。あとは任せた」

「ああ。任されたよ」


 頷き合うと大きく翼を広げ、羽ばたく。一瞬で空へと舞い上がるとグランゼル王国のある方角へ目を向ける。


 目的地はグランゼル王国、南東。月ノ迷宮。


「……今行くよ。ラナ」


 俺は「月ノ迷宮」へと向けて飛び立った。

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