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その後、アイリスが眠たそうに瞼を擦ったので解散となった。流石のサナもそこまで空気が読めないわけではない。
二人は連れ立って自室へと戻っていった。
俺も前回使った部屋へと戻る。
ライムさんによるとブラスディア伯爵が戻ってくるのは昼。それまでにできるだけ身体を休めたい。
「ふぅー」
ふかふかのベットに寝転がると息を吐き出した。カーテンの隙間から差し込む日差しに目を細める。
思えばここ数日あまり休めていない。迷宮では戦い続けていたし、帰路でも常に周囲を警戒していた。
そう自覚した途端、一気に疲れが押し寄せてきた。
……でもひとまずは目標達成だな。
あとは伯爵から標のペンデュラムを受け取り、ラナを見つけ出すだけだ。
「待っててくれ。もう少しだ」
手を掲げ、握りしめる。あと少しでこの手が届く。その瞬間が待ち遠しい。
その時、ガチャリと扉が開いた。顔を向けると疲れた顔をしたカナタが入ってきた。
「おかえり。カノンは?」
「部屋に戻ったらすぐに寝たよ。相当疲れてたんだな」
「ぶっ続けだったからな。ゆっくり休んでほしいよ」
「感謝だな。カノンがいなかったらアルメリアは命を落としていた」
カノンが勇者パーティに加入したのは全くの偶然だ。しかしその偶然がなければアルメリアを救うことはできなかったし、標のペンデュラムを入手する事も出来なかっただろう。
感謝してもしきれない。
「そうだな。でも俺はみんなにも感謝してる。もちろんカナタにもな」
「付いてきてよかっただろ?」
ニヤリと笑いながらカナタが自分のベットに腰掛ける。
あれだけこちら側には付いてくるなと言っておいて虫のいい話だがその言葉には頷くしかない。
「ありがとな」
「おう。んでサナはなんて?」
「それ聞くか?」
「あんま聞きたくないけどな。聞かない方が後で面倒なことになりそうだ」
「カナタの予想通りだ。カノンが好意を持ってるって思ってるなありゃ」
「だよなぁ……」
真偽はどうあれサナの中では確定したようなものだ。きっとカノンは目を覚ましたら質問攻めに合うのだろう。
カナタが遠い目をして深いため息をつく。
「まったく……。そもそもカノンがどう思ってるかなんてわからねぇのに……」
「だな。……サナは高校でもあんな感じだったのか?」
「レイの想像通りだと思うぞ。昔から変わらない」
「……色々と首突っ込んでたのか」
小学生の頃にもサナは人の恋愛相談をよく受けていた。初めの頃は単に受けるだけだったのだが、学年が上がるにつれてそういう噂を聞くとわざわざ首を突っ込みに行っていた。
人当たりの良いサナは親身になって話を聞く為、あまり嫌がられる事はなかったように思う。
無理に聞こうとしないのもよかったのかもしれない。そこら辺のバランスがサナは上手かった。
感謝されている現場を何度か見た事がある。
「サナのコミュ力はすごいからな」
「まるで恋のキューピットだな」
そう言って俺たちは笑う。
「ちなみにサナ自身もかなりモテてたぞ」
「まあ幼馴染の俺から見ても優良物件だしな。顔が良くて性格も明るい。それに加えて勉強もできるときた」
欠点らしい欠点がないのだ。モテていたとしても驚かない。
実際に小学生の時も告白されている現場を何度か見た。なぜか全て断っていたようだが。
「中学、高校の友達からは何度も紹介してくれって言われたよ。やめとけって言ったのに。いちいち慰めなきゃいけない俺の身にもなってほしいよ」
カナタが苦笑を滲ませる。その様子を見るに告白した男は全滅だったのだろう。
「サナも似たような事言ってたぞ?」
「……聞いたのか?」
「カナタが振った女の子をサナが慰めてたって」
「あいつ……余計な事を……」
カナタが額に手を当て天井を仰ぎ見る。
「魔術師だからか?」
「そうだ。どうせ別れることになる子をその気にさせるのは気の毒だしな」
どうやら先程サナが言ってたことは当たっていたらしい。
「魔術師は普通の人と付き合ったりしちゃいけないのか?」
「……魔術師って生き物は血統を重視しがちなんだ。より強い血を取り込むために非魔術師とは滅多に交わらない。それが名家ならなおさらだ」
純血主義とでも言うのだろうか。魔術師としての血を重視し、強い血を掛け合わせる事でより強い子孫を残す。
……まるで貴族と平民みたいな関係だな。
そんな事が今だに現代日本で行われているという事実に俺は驚いた。
「そりゃあ時代錯誤というか……古い考えだな」
「俺もそう思うよ。でも実際に強い魔術師同士で子を成せば、強い魔術師が生まれやすいのは事実なんだ」
日本魔術協会所属、特級魔術師序列第八位【雷鳴鬼】。それが俺の幼馴染、一之瀬カナタだ。
強い血、強い魔術師なのは明白。カナタは当事者なのだ。
「加えて俺は一之瀬家の跡取りだ。そう簡単に自由恋愛はできない」
「それはなんと言うか……窮屈だな」
「仕方ないさ。力には代償が伴うって言うだろ?」
力無く笑ったカナタに俺は堪らず眉を顰めた。
カナタは俺にとって幼馴染であり、かけがえの無い親友だ。
そんな親友は行方不明だった男の為に異世界にまで付いてくるような友達思いの人間なのだ。
……だからこんな顔をしてほしくない。
俺の親友には幸せであってほしい。
そう思い、つい本音が口をついて出た。
「でもここは異世界だ。もう関係ないんじゃないか?」
レスティナでは日本の事情は関係ない。ここでなら自由があるのではないか。そう思った。
「なんだ? レイは俺とカノンがくっついて欲しいのか?」
「いやそうじゃないさ。ここでは人を好きになっても良いんじゃないかって思っただけだ。そもそもカノンがカナタのことを好きかもわからないしな」
「まあそうだな。それにいきなり人を好きにとか言われてもわからねぇし……」
カナタはそこで一度言葉を区切った。そして首を横に振る。
「…………いや、ダメだ。それじゃアスカが割を食う。それだけは絶対にしたくない」
「………………そうか」
今はそれしか言えなかった。俺が考えている以上にこの問題は根深い。
アスカちゃんと約束した以上、地球に帰る道は必ず探し出す。
どうかそれまでに、俺にとってのラナのような最愛がカナタの前に現れるよう願う。
……きっとそうなればカナタの考えも変わるはずだ。
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