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 斬撃の嵐(刀界・絶刀無双)が全てを斬り裂く。範囲内にあった壁も、地面も、当然ヒュドラも。なにもかもを無に帰していく。血の一滴すらも残さない。

 嵐が晴れたそこにはヒュドラがいた痕跡は残されていなかった。


「……封印再起動」


 闇が、殺戮衝動が消えていく。足場も消え、浮遊感が訪れる。俺はそれに身を任せて、クレーターの底に着地した。


 ……終わりだ。


 心臓はおろか全身を粉々にされたヒュドラはもう再生できない。


「「レイ!」」


 退避していたサナとカナタが叫んできた。

 文字通り壁をくり抜いたため、ここからでも坂の上にいるみんなが見える。特に魔物が出た様子もなく、みんな無事だ。

 俺はホッと息をついた。


「問題ない! 大丈――っておい!」


 俺の言葉を聞きもせずにサナが下り坂から飛び降りた。

 下り坂も俺のせいで途切れているため、飛び降りるしかないのはわかるが地面まではだいぶ高度がある。


「危ねぇ!」


 俺は叫び、受け止めるべく縮地を使おうとした。しかし、今までの疲労からか眩暈がしてふらついてしまった。当然縮地なんて使えなかった。

 

 俺の心配をよそにサナは何事もなく普通に着地。縮地を使って俺の前まできた。

 さすが勇者というべきか。身体能力が上がり過ぎだ。


 ……マジかよ。


 呆気に取られているとサナが俺の顔を覗き込んできた。


「大丈夫!?」


 俺の心配を返してほしい。ということで軽くチョップを落とす。


「それはこっちのセリフだ!」


 大声を出したらまた目眩がしてふらつく。だけど倒れるほどではない。軽い目眩だ。


「いったぁ! 乙女を叩くな!」

「乙女なんてガラじゃねぇだろ!」

「失礼な! ……でもそれだけ騒げるなら大丈夫そうだね!」

「はぁーーー」


 深い、とても深いため息が出る。

 そんな時、ズドンと雷鳴が轟いた。いつの間にかサナの隣にカノンを右肩に担いだカナタが現れた。左手には結界に囲まれたヒュドラの首を持っている。

 瞬雷。流石の速さだ。封印を解いていない状態だと目で追えない。


 肩に担がれたカノンは不満そうに頬を膨らませていた。


「さっきも見た光景だな」

「……不服」

「我慢してくれ。じゃあ。あと二人も連れてくる」

「頼む」


 カノンを地面に降ろすと、再び雷鳴。そしてまた遠くで雷鳴。今度はアイリスが来た。

 カノンのように肩に担がれてではなく、お姫様抱っこだ。

 

「……不服!」


 カノンがカナタをジト目で見る。握った拳には紫色の魔力が纏わりついていた。


「仕方ねぇだろ。姫サマなんだから」

「それは答えになってないぞカナタ」

「……む〜〜〜」

「あの……なんかスミマセン」


 アイリスが申し訳なさそうにしている。完全にとばっちりを受けていた。


「カナタってば女心がわかってないねぇ〜」

 

 ニマニマとした笑みを浮かべたサナをカナタは無視して再度、瞬雷を使った。


「無視するなー!」


 サナの叫びは遠くで響いた雷鳴に掻き消された。

 今度はおんぶされたウォーデンがやってくる。


「なんていうか……こんな速さでよく戦えるな」

「……私も同意見です。この一瞬でも目が回りそうでした」

「俺は目がいいんだ」


 ウォーデンとアイリスはどことなくぐったりしている。その割にカノンはいつも通りだ。表情に出ていないだけかもしれないが。


「カノンはなんともないんだな?」

「……よゆー」


 本当に余裕そうだった。ピースサインまでしている。顔は不満そうにしているが。

 そんな様子に少し頬が綻んだ。


「すごいねカノンちゃん!」

「本当にすごいです」


 サナとアイリスの言葉にカノンの不満そうな表情は息を顰め、満足そうに胸を張った。


 ……なんというか微笑ましいな。


 そんなことを思っているとウォーデンが柏手を打ち、注目を集めた。


「さて! ここからだが、上に戻るルートがない以上進むしかない。だけど問題がある」

「進むルートも無いってことだな」

「そうだ」


 てっきりヒュドラを倒せばどこか扉が開くのかとゲームのように考えていた。だが現実はそんなに甘くない。俺たちを殺すのが目的ならば閉じ込めてしまえばいい。

 わざわざ帰り道を用意する必要はない。

 

 ならば考えられる答えは一つ。


「ハズレのルートに誘導されたって事か?」


 あの枯れ木がいれば俺たちなんて簡単に閉じ込めることができる。俺たちを脅威と見て排除しに掛かった可能性も捨てきれない。

 

「いや、一概にそうとも言えない。迷宮には隠し通路や隠し部屋なんて山ほどあるからな。だからソレを探そうと思う。オレは苦手なんだが誰か探索に使える魔術を持ってたりするか?」

「一応あるっちゃある。だけど魔術にしか反応しない」

「……わたしはある。少し時間が掛かるけど」


 カナタとカノンが手を挙げた。


「カノンが時間掛かるなら俺からやるか」


 そう言うとカナタは目を閉じ人差し指を立てた。そこに魔術式を記述する。


 ――雷属性攻撃魔術:奔雷(はしりいかずち)


 指先に小さな雷球が出来て、地面に落ちた。そこから電気が四方八方へと広がっていく。

 少しした後にカナタが目を開けた。


「……ダメだな。俺のじゃわからなかった。だけど少なくとも魔術を使った隠し扉とかはないと思う」

「……じゃあわたしの番。……出てきて」


 カノンが呟くと足元の空間が揺らいだ。


「ひぃ!!!」

「ひゃあ!!!」


 サナが引き攣った声をあげた。

 アイリスはというと可愛らしい悲鳴をあげ、俺の腕にしがみついてきた。怖いのか震えている。


 ……まあこれは仕方ないか。

 

 カノンの足元から小さな蜘蛛が無数に現れて四方へと散っていく。

 女の子であれば殆どが二人と同じ反応をするのだろう。かく言う俺も背中がゾワゾワする。

 数が多過ぎて黒い靄のようになっていた。


「……少し時間かかるから待ってて」


 カノンは地面に腰を下ろすと足を伸ばして寛ぎ始めた。

 マイペースというかなんというか。カノンを見ているとここが深層だと言うことを忘れそうだ。


 ……まあ、カノンならいきなり襲われてもS級ぐらいなら返り討ちだろうしな。


 今はいないが主人の危機となればシルも動くだろう。今もカノンの影から気配がする。


「あっ! すみません!」


 アイリスが俺の腕からパッと手を離して頭を下げる。しがみついていたことに今気がついたらような反応だ。


「いや、これは仕方ないさ。俺もゾワゾワしたしな。アイリスは虫が苦手なのか?」

「はい。昔からダメなんです。城ではいつもお姉様に助けてもらってました」

「ラナは平気なのか?」

「そりゃもう。頼もしいですよ。素手で掴んで窓の外に逃しますから」

「なんというかラナらしいな」


 つい笑みが浮かぶ。ラナならそうするだろうなと目に浮かぶようだ。無闇矢鱈と殺さないあたりも心優しいラナらしい。


「じゃあ俺たちも休むか。特にレイ。お前はしっかり休め」

「ああ。わかったよ」

「見張りはオレがする。あまり役に立たなかったしな」

「何言ってんだ。ウォーデンのフォローがなければ大怪我してたよ」

「そう言ってくれるとありがたいね。でも消耗が少ないのは事実だからな。見張りは任せておけ」

「わかった。頼む」

「なら私も見張りしてるね! ウォーデンと同じでそこまで疲れてないし」

「ありがとな二人とも」


 二人に礼を言うと俺は言葉に甘えて腰を下ろした。そうすると一気に疲労が押し寄せてくる。


 ……また戦闘となると少し骨が折れるな。




 そんなこんなで体を休めること数分、カノンが呟いた。


「……あった」

「あった?」

「……ん。……こっち」


 カノンが立ち上がるとクレーターを登っていく。俺も立ち上がるとみんなで後を追う。

 すると何の変哲もない壁の前で立ち止まった。

 そこには無数の蜘蛛が集まっており、石と石の隙間から中へと入っていく。


「……この先に空洞がある。……カナタ。……壊せる?」

「わかった。ウォーデン。これ持っててくれ」

「おう」


 カナタが隣にいたウォーデンにヒュドラの首を渡した。

 

「ウォーデンさん。私、後衛なので持ちますよ。ウォーデンさんは手を空けておいたほうがいいと思います」

「そうか。なら頼む」

「はい!」


 カナタから受け取った首をウォーデンはアイリスに手渡した。


「みんな離れてくれ」


 カナタが刀を出すと、雷を纏わせて上段に構える。

 俺たちは言葉に従い、少し後ろに下がった。蜘蛛たちも散って行く。


「いくぞ」


 呟き、刀を振り下ろす。

 閃光が迸り、壁が爆ぜた。土煙が舞い上がる。


 カノンが風の魔術を使い土煙を流していくと、そこにあったのは道だった。

 ここにあるような土の壁ではなく、金属のような物でキチンと整備された壁が左右に続いている。

 俺たちはそこに横穴を空けた感じだ。

 

 そこには重々しい空気が満ちていた。気温が何度か下がったような錯覚を覚える。これは魔力だろうか。それにしては禍々しい。


「……第四封印解除」


 胸から闇が溢れ出る。狭い道でも振り回せるよう両手に小刀を作り出し、残りの闇は周囲に漂わせておく。


「警戒して進もう。俺が先導する」


 みんなが緊張した面持ちで頷いた。進む先は右側、重々しい空気の濃い方だ。何かあるとすればこっちだろう。

 

 俺たちは道を進んでいく。警戒を強め一歩一歩を確実に。

 そうして進むことわずか数分、道は唐突に終わりを告げた。

 その中心にあった不気味なモノを見て、喉が渇いていくのを感じる。


「……なんだこれは」

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