聖なる首
カナタが刀を振り上げる。その切先には魔術式が記述されていた。
――雷属性攻撃魔術:墜天
閃光が爆ぜた。刀が雷を纏う。その切先からズドン――と稲妻が堕ちた。
逆様に。
稲妻は空中で蜘蛛の巣上に広がり、数多の雷と成る。その全てがヒュドラに襲いかかった。
空間魔術は再使用時間中。ヒュドラにこれを避ける手段はない。
数多の雷を受けてヒュドラは一瞬にして地に堕ちた。それでも雷は止まらずに身体を焼いていく。
ヒュドラが耳を劈くような絶叫を上げ、肉の焦げる匂いが辺りに充満した。
「レイ!」
カナタが叫んだ瞬間、雷が止んだ。ヒュドラの身体からはプスプスと黒煙が上がっている。
俺は大太刀を戦斧に変換、足場を作り出し縮地を使う。
そして地に堕ちたヒュドラ、その九本目の首へと戦斧を振り下ろす。
「うぉおおおおおお!!!」
刃が首に達し、首を両断する寸前で鴉が鳴いた。
しかし何も起きずに俺の戦斧はそのまま首を断ち切った。地面がひび割れ陥没していく。そこに頭上から雷が落ち、切断面を焼いた。
……なんだ? 不発か?
疑問に思ったが、背後から魔力が立ち上るのを感じて振り返る。
そこには目を血走らせ俺を見る七本の首。口の中には魔術式が記述されている。
戦斧を大太刀へと変え、抜刀の構えを取る。
「第一偽剣――」
「レイ!」
カナタの切羽詰まった声が聞こえた。その時には俺も異変に気付いていた。
首が再生している。
瞬間、今までにない圧力が俺の身体に掛かった。耐えきれずに膝をつく。
……なんでだ!
傷口はカナタが焼いたはずだ。だが今はそんなことを考えている場合ではない。
大太刀を闇に戻し、全身に纏う。今は回避をしなければならない。
無理矢理、身体を動かし立ち上がる。身体のありとあらゆる関節が耐えきれずに血が吹き出す。骨が砕ける音がした。
ヒュドラが口内の魔術式を呑み込んだ。その時、後方からウォーデンの無槍が飛来しヒュドラの胴を穿つ。
「グォオオオオオ!!!」
ヒュドラが仰け反った。その隙に俺はなんとか縮地を使い後退。重力魔術の影響から逃れた。その一瞬後に俺がいた場所へと七つの魔術が放たれた。
間一髪だ。
「はぁ……はぁ……。ウォーデン! 助かった!」
「礼は後でいい!」
額から垂れた血を拭いながら呼吸を整える。アイリスの掛けてくれた回復魔術が身体の傷を癒していく。
雷鳴が轟き、カナタが隣に降り立った。
入れ替わるようにしてウォーデンとシルが前に出る。
爆炎と雷がヒュドラを襲う。
「何が起きた?」
「空間魔術だ。首の火傷跡を転移させて自分で切断しやがった」
「転移は不発してなかったってことか」
この間に既に空間属性の首も再生を終えている。状況が振り出しに戻った。
「厄介極まりないな」
再生能力がこれほど厄介だとは正直思っていなかった。
……いや、厄介なのは聖属性か。
聖属性が無ければ初撃で終わっていた。これほど苦戦することはなかったはずだ。
決め手に欠ける。
いちいち首を切っていても埒が開かない。このヒュドラには普通のヒュドラに対する攻略法が機能しない。
完全に別物だと認識するべきだ。
……なら狙うは心臓か? いや違うな。もっと簡単な方法がある。
「……カナタ。時間を作れるか?」
「……何をするつもりだ?」
「いちいち首を斬っててもどうせ再生される。だから第一偽剣で此処ら一帯、全てを吹き飛ばす」
口で言うほど簡単ではない。
敵は空間魔術を使う。転移がどこまでの範囲で行えるのかはわからない。確実に葬る為には第一偽剣の範囲を最大にしたい。
「できるのか? ……とは聞くまでもないな。いい。やってやるよ。だけどレイ。これからはお前が狙われるぞ」
「なんでそう言い切れる?」
「魔物っていうのは自分で自分を傷つける事をしない。だけどこいつはやった。それぐらい知能が高いってことだ。それにウォーデンとシルに対して重力魔術を使っていないからな」
確かに十本目の首は俺を警戒している。先程から他の九本はウォーデンとシルに向いているが十本目だけは俺の動向を注視しているように思える。
「なら、存分に警戒させとけばいいさ」
俺に対してだけ使うのならば避ければいいだけだ。
「カナタ。偽剣の準備ができたら全速力で退いてくれ。範囲から出たら使う」
「了解!」
「ワン!」
いつのまにかシルが隣に来ていた。
「手伝ってくれるのか?」
カナタの問いかけにシルが再度吠える。シルと一緒ならば時間稼ぎぐらい問題ないだろう。
「ウォーデン! 退け!」
カナタが叫ぶ。
雷鳴が轟き、刀から雷を放った。シルも咆哮と共に数十の雷を降らせる。
槍から爆炎を出したウォーデンが、爆発を利用して俺の隣に着地した。
「ウォーデン! 此処ら一帯を吹き飛ばす! みんなを連れて出来るだけ上に退避してくれ!」
「……大丈夫なんだろうな?」
「ああ。問題ない」
「わかった。無事でいろよ!」
ウォーデンが後方へと駆け戻る。
「レイ! 私も!」
聞こえていたのか後ろでサナが叫んだ。
「そっちで何かあるかもしれない! サナはみんなを守ってくれ!」
さっきまで魔物はいなかったがこれからもいないとは限らない。不測の事態に備えてアイリスとカノンを守る戦力が必要だ。適材適所という奴だ。軽んじているわけではない。
サナは表情を歪めながらも頷いた。
「………………わかった」
四人が扉の外へ出るのを見送る。
みんなが第一偽剣の範囲外へ出るまでにまだすこし掛かるだろう。それまでにできるだけ削る。
……さあ。第二ラウンドだ!
これで死んだらあっけないよなぁ!?
とか思って書いてたら終わらなかった……!
まだすこし戦闘が続きます。お付き合いください!
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