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 第七偽剣(覇道)を放った影響でぐらりと視界が揺れた。俺は堪えきれずに膝をついた。黒刀を地面に刺して体を支える。

 そのまま大きく息を吐き、身体の中に燻った熱を放出していく。


 ……終わった。


 あれだけいた魔物の大群がいまや死体の山だ。残っていた魔物も戦闘の余波で全て屍と化している。

 

 「……第二封印再起動」


 周囲に漂っていた闇が小さくなっていく。

 視界も定まってきたので、立ち上がり黒刀を腰に差す。念のため、第一封印は解除したままにしておく。


「みんな無事か?」


 見れば、各々傷を負っているものの大きな怪我はなさそうだ。

 全員が疲れ切って地面に座り込んでいる。

 激戦だったのだ。仕方ないだろう。だが、ここはまだ迷宮の中だ。少し休んだら出発したい。


「……レイ。これはどうする? 売ったらひと財産築けるぞ」


 ウォーデンが死体の山を指差しながらこちらに歩いてくる。

 魔物の素材は売れる。それもS級の魔物ともなればとんでもない値が付く。ヒュドラなんて売ろうものなら一頭地に豪邸が建つ。


「だけどなぁ。こんなん持って帰れねぇよな?」

「まあそうだな」

「惜しいが、放置だな」

「だよなぁ」


 ウォーデンが名残惜しそうに死体の山を見ている。だけど持って帰れないものは仕方ない。

 そんなやりとりをしていると、いつの間にかカノンが近くまで来ていた。

 

「……レイ。……ヒュドラの心臓だけ貰っていい?」

「いいけど、何かに使うのか?」

「……戦力アップ」

「戦力……アップ?」


 カノンの言葉に首を傾げていると、スタスタとヒュドラの元へと歩いて行った。

 そしてヒュドラの胸の前に辿り着くと、素手で鱗を引き剥がした。


「………………まじか」


 ナイフを取り出すと手が血に濡れるのもお構いなしに肉を引き裂いていく。

 無表情で肉を引き裂く血塗れの少女。絵面がホラーだ。


「俺も手伝ってくるよ」

「ああ。頼む」


 カナタが顔をひきつらせながらも立ち上がってカノンの方へ向かった。


 そんな時、後ろから何かが崩れる事が聞こえてきた。


 ……なんだ?


 音がした方向へ振り返えると行き止まりだったはずの壁に亀裂が入っていた。

 壁の真ん中から上部にかけての大きな亀裂だ。


 ……たしか、魔術を受け流した時にもなにか崩れた音がしたな。

 

 たぶんあの時に崩れたのだろう。


 ……それにしても。


 目を凝らすと亀裂の先には暗闇が広がっていた。

 

「まさか……未踏破領域か?」

「未踏破領域?」


 ウォーデンの言葉に俺の真後ろにいたサナが聞き返した。

 隣にいたアイリスが答える。

 

「その名の通り、誰も足を踏み入れたことのない領域です。当然誰も調査を行っていない超危険区域。見つけたら創世教に報告する事を義務付けられています。まさかこんな下層にあるなんて――」


 その時、唐突に殺気がした。アイリスの言葉が止まる。

 冷水を浴びせかけられたような、そんな感覚。サァッと血の気が引き身体の体温が冷えていく。

 心臓が締め付けられる。喉が干上がっていく。こんなに死を身近に感じたのは久しぶりだ。


 ……これは……まずい!


「第五封印解除!」


 胸から闇が溢れ出る。

 即座に冥刀を作り出し、振り返った。殺気の出所は上だ。

 

 そこには木があった。天井から生えている事以外はなんの変哲もない木。これらは前からあった。

 だが、一本だけ枯れている。

 周りの青々とした葉が生い茂る木とは違い、無残な有様だ。

 それが枯れ木の異質さを際立たせていた。


 ……こんな物、いつからあった……?


 唐突に現れたとしか思えない。こんな物があれば即座に気付く。


 ……そもそもこれは……なんだ?


 こんな魔物は知らない。

 禁書庫で見た魔物の中にはこんなヤツはいなかった。それに魔物というよりは――。

 俺は直感的に()()した。

 頬を冷や汗が伝う。


 脳裏にヤツが過ぎる。

 今まで、俺が出会った中で最強の敵。アイツはさっき戦ったヒュドラなんかよりも強かった。おそらくこれから相手にするだろう七本首のヒュドラよりも強いだろう。

 俺も強くなったからこそわかる。アイツは……鎧武者のバケモノは正真正銘の怪物だ。


 この枯れ木はヤツ(鎧武者)同類(おなじもの)だ。


 その時、風もないのに枯れ木が揺れた。

 周りにあった木々の葉がヒラヒラと舞い落ちる。それを皮切りにして周囲の木々も葉を落としていく。

 木の葉が舞い、幻想的な光景を作り出す。


「カナタ! 下がれ!!!」


 カナタが、カノンを抱え瞬雷を使う。

 その瞬間、葉を落として枯れ木となった木々が枝を伸ばした。その枝が幾重にも分岐する。槍のように先が鋭く尖り、一斉に襲いかかってくる。

 その様はまるで槍の雨だ。


「第二偽剣、刀界・破天無双!!!」


 鋭い枝を切断する。しかし切断した箇所からまた枝が生えてくる。それが俺の直ぐそばまで来ていたカナタの足を貫いた。


「くっ!」


 カナタが顔を顰め、抱えていたカノンを俺の後ろへと押し出す。それと同時に雷を纏った。

 足を貫いた木を焼き俺の後ろにたどり着く。


「悪い! しくじった!」

「いい! そこでみんなを守ってくれ!」


 カナタが魔術を使い、雷の結界を構築する。

 俺も冥刀を闇へと戻し、十の黒刀を作る。その二本を両手に握る。

 縮地を連発し、縦横無尽に駆け回る。刀の一振りで枝を斬り、間に合わない部分は周囲に侍らせた黒刀を使い、断ち切っていく。

 だが、際限がない。仲間を守る事で精一杯だ。とても攻勢に出る余裕はない。ジリ貧だ。


 ……くっ!


 ツーっと鼻血が垂れる。

 脳を酷使しすぎている。いくら手数があろうとそれを扱う脳は一つだけしかない。限界は近い。

 

 周囲を枯れ枝が埋め尽くしていく。それに伴い、敵の攻撃が加速度的に増えていく。


 ……集中しろ。


 今はとにかく目の前の枝を斬ることだけを考える。

 余計な思考はいらない。感情を排し、目の前の敵を斬る。

 意識が研ぎ澄まされていくのを感じる。時には偽剣を使い、ひたすらに枝を斬り捨てる。

 どれほど時間が経っただろうか。おそらくだが、ものの数分だ。しかし俺には数時間も経ったように感じる。

 そんな中、激しい頭痛に襲われた。


 視界が明滅し、血を吐く。


 ……まずい!


 思考がまとまらず、黒刀を制御できない。

 無数の枝が殺到する。カナタの結界が押し留めるが、それもこの数全てを防ぐのは不可能だ。

 結界が砕かれ、突破される。それがやけにスローに見えた。

 

 躊躇している場合じゃない。


 ……ラナ。力を貸してくれ。


 俺は胸の封印に手を当てる。

 そして、抑えていた殺戮衝動に身を任せた。

 瞬間――。


 


 ――闇が溢れ出した。




「ガァァァアアアアア!!!」


 大気を震わす怒号が響く。それだけで襲いくる無数の枝が吹き飛んだ。

 口から渇いた嗤いが漏れる。口角が上がるのを抑えられない。目の前が赤く紅く染まっていく。

 

 しかし対抗するように封印が暖かな光を放つ。それが俺の意識を僅かにだが繋ぎ止める。


 手に持つは二振りの冥刀。

 無造作に放った一太刀が、周囲の枝を根こそぎ破壊する。

 枝も負けてはいない。破壊される毎に再生し、全方位から襲いかかってくる。

 俺は幾度も再生して襲いかかってくる枝を片っ端から薙倒す。

 それが酷く心地いい。


 だが足りない。全然足りない。殺戮衝動は満たされない。

 もっと……。

 もっともっともっともっと……。

 殺さなくては。


 敵は頭上の枯れ木、初めに出現したヤツが本体だ。どこにいるかなんて手に取るようにわかる。

 アレを殺せば満ち足りるだろうか。それしか考えられない。


 だから天井にいる枯れ木目掛けて二刀を振るう。

 放つは第七偽剣(覇道)。二つの黒が枯れ木に襲いかかる。

 流石に脅威を感じたのか今まで攻めるだけだった枯れ枝が密集し、防壁を作る。


「ハハハ!」


 強固な防壁(ソレ)を薙ぎ倒すのが酷く心地良い。バキバキと砕けていく枝の音がとても、とても気持ちいい。


 ――パキッ。


 胸から何かがひび割れる音がした。闇が重く、暗く、勢いを増していく。

 同時に冷気が溢れ出した。

 

 枝を凍らせていく。身体を凍らせていく。思考を冷やしていく。


 それがとても暖かい。


「……ラ……ナ?」


 声が……聞こえた気がした。


 ――大丈夫。私に任せて。


 その瞬間、殺戮衝動が消えた。

 頭上の敵を見定める。そして全ての闇を掻き集めた。作り出すは名も無き漆黒の大太刀。

 

「……第七偽剣、覇道!!!」


 枯れ木が全ての枝を集めて防壁を作り上げる。

 だが、関係ない。

 黒が全てを呑み込んだ。

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