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ヒュドラ戦

 ヒュドラを倒す方法は主に二つ。

 一つは首を全て斬り落とし、傷口を焼いたり凍らせたりして再生を防ぐ。そうすれば直に倒れる。

 そして二つ目は心臓を破壊する事。こちらは一見、首を落とすより簡単そうに思えるが決してそんなことはない。

 ヒュドラの鱗はとても強靭で強固だ。貫けるのは一部のS級冒険者のみ。それを貫いても幾重にも重ねられた魔術防壁が心臓を守っている。よって現実的ではない。

 こちらを選ぶなら首を落とす方が遥かに簡単だ。

 だから俺も前者を選ぶ。


「カナタ! 首を落とすから焼いてくれ!」


 俺はヒュドラの手前で制動をかけて止まる。腰を落とし身を捻り、抜刀の構えを取る。


「第六……」


 第六偽剣は防御無視の攻撃だ。いくら硬かろうが意味はない。

 しかし、ヒュドラもそう簡単にはやらせてくれなかった。身体を覆っている鱗が隆起して無数の棘を作り出した。

 その全てが俺に狙いを定めている。


 ……間に合わねぇ!


 第六偽剣は()()が長い。放つ事ができれば偽剣の中で最強だ。だがいかんせん使いにくい。

 俺は直ぐに偽剣を切り替えた。


「第二偽剣――」

 

 そこで無数の棘が俺に向けて射出された。


「――刀界・破天無双」


 第二偽剣(刀界・破天無双)は、名前の通り第一偽剣(刀界・絶刀無双)の派生系だ。

 第一偽剣は斬撃を完全に無差別で叩き込むが、第二偽剣はカウンターに特化している。

 即ち俺の認識している攻撃、その全てを的確に斬る。

 第一偽剣とは違い、周りに仲間がいても使えるのが便利なところだ。


 抜刀。

 俺の放った一刀が全ての棘を叩き切った。

  

 頭上で六つの首が口を開ける。

 口内には色とりどりの魔術式が記述されている。


 ……まずいな。


 後方に視線を向ければ、サナとアイリスは地面に手をついている。呼吸が上がり肩で息をしていた。魔力が残っていないのは明白だ。

 もう一度防御魔術を使ってもらう余裕はない。

 ならばやることは一つだ。


「悪い! カナタ! 妨害するぞ!」

「おう!」


 偽剣ですら鱗に弾かれた。ならば普通の黒刀では歯が立たない。かと言って冥刀を作るのには全ての闇を使う必要がある。それは避けたい。

 ヒュドラが変異種である以上、予想を超えてくると仮定する。その場合、冥刀を作ってしまったら不測の事態に対応できなくなる。

 もし冥刀を使うのなら、それは最後の一撃だ。

 だから俺は大太刀を闇に戻し、新たな武器を作り出す。


 ……あまり得意じゃ無いが……。


 コレをやるのはラナの忌々しい封印を壊そうとしていた時以来だ。

 封印はとにかく硬かった。だから俺はとにかく重いもので切断しようと考えた。結果、俺が選んだのは斧だった。

 身の丈を優に超え、斧刃の部分が果てしなく大きい。とにかく重さを追求した戦斧。それが俺の斧だ。

 

 この戦斧はバケモノを取り込んで強化された身体でも持ち上げることができない。それほど重く頑丈だ。

 だから俺は四肢に闇を纏わせる。魔術師が扱う身体強化魔術と同じ要領だ。

 これで冗談みたいに重い戦斧を持つことができる。


 闇で作り出した戦斧を肩に担ぐ。縮地を使うと地面が爆ぜた。俺は頭上に生えている木に着地する。

 そのまま再度縮地を使うと足場にした木が爆散した。目の前にはヒュドラの首がある。

 俺は頭上に掲げた戦斧を全力で叩きつけた。


 バキッと、鱗がヒビ割れ砕けていく。


「うぉぉぉおおおおおお!!!」


 雄叫びを上げ、全体重を掛ける。するとウロコが砕け散った。

 そのまま重量に任せてヒュドラの首を叩き落とす。雨のように降る返り血を浴びながら頭上を見た。


 ……あと五本。


 残った首が魔術式を呑み込む。

 その時、無槍アルデガルデ・エルナミスと無数の黒い斬撃が同時にヒュドラの首に着弾した。

 

 無槍が鱗に守られた首に大穴を開け貫いた。そのまま天井の木々を薙ぎ倒しながら洞窟の天井を突き抜けていく。

 

 黒い斬撃はカノンの大鎌から放たれたものだ。

 だがその斬撃は鱗に僅かな傷しか付けることはできなかった。

 しかし傷がつけば十分。呪いとはそういうものだ。

 次の瞬間、傷口が紫色に変色し首が力無く垂れ下がった。


 ……あと三本。


 戦斧を肩に担ぎ上げたその時、ゾッとするほど濃密な魔力を感じ取った。視線を向ければカナタが目を閉じて、魔術式を記述していた。

 

 巨大な魔術式だ。

 カナタの周りを可視化できるほどに凝縮された魔力が荒れ狂う。それが帯電し、紫電を迸らせている。

 カナタが目を開き、手をヒュドラへと向けた。


 ――雷属性攻撃魔術:絶架雷槍(ぜっからいそう)


 手のひらから現れたのは赤黒い雷で構成された槍。それは槍と言うには巨大すぎた。破城槌と言った方が正確なぐらいに長く太い。およそ人が振れるものではない。

 だがそれはあくまで魔術だ。振るう必要はない。


「貫け!」


 カナタの命に従い、槍が赤雷を纏い飛翔する。今まさに魔術を放とうとしていたヒュドラも脅威に感じたのか、首を動かして回避行動をとった。

 だが致命的に遅い。間に合わずに二本の首が吹き飛んだ。残り一本も首の中ほどまでが吹き飛んでいる。しかし、魔術は止まっていない。


「レイ! 一本逃した!」

「こっちは任せろ! カナタは他が再生しないようにしてくれ!」


 カノンが呪った首は再生する気配がない。だが俺とウォーデンが倒した首は傷口が蠢いていた。再生の予兆だ。

 加えて、鱗が隆起している。


 ……まずい。


「撤回だ! カナタ! カノンとウォーデンを守れ!」


 カナタが魔術式を記述するのを横目で見ながら俺は縮地を使う。

 棘が狙っているのはカノンとウォーデン。首が狙っているのはサナとアイリスだ。

 

 最後の首が、巨大な竜巻を放つ。

 俺は二人の前に躍り出ると戦斧を大盾に作り替え地面に突き立てた。

 地を踏みしめ、来たる衝撃に備える。


 直後、凄まじい衝撃が襲った。

 足が地面にめり込み、強制的に後ろに下げられる。


 ……正面からじゃキツイか!


 大盾がひび割れていく。その都度、胸から溢れ出る闇で補強していく。


「レイさん!」

「レイ!」


 二人が背後から俺の背中に手を添える。すると温かな魔力が染み渡ってくる。

 途端に力が湧いた。


「うぉおおおおおおお!!!」


 俺は吼えた。

 大楯を僅かにズラし、竜巻の軌道を背後に受け流す。

 背後で何かが崩れる音がしたが無視する。やがて、盾にかかる圧力が消えた。


 ――ここが……最後だ!


 俺は全ての闇を集めて冥刀を作り出し、前を向く。

 ヒュドラの再生は早く、既に俺とウォーデンが倒した首が復活している。三本の首が鎌首をもたげ俺を睨め付ける。

 そして今度は無数の魔術式を記述した。その数、およそ五十。それだけでは飽き足らずに、鱗が隆起して棘を作り出す。


「カナタ!」

「おう!」


 意思疎通はそれだけで十分だ。

 カナタが刀を肩に担ぐようにして構える。俺も冥刀を下段に構えた。

 冥刀から凄まじい量の闇が溢れ出る。


「……第七偽剣、覇道!!!」


 冥刀を斬り上げる。

 闇の奔流が放たれ、ヒュドラの首を纏めて呑み込んだ。

 冥刀が放つ第七偽剣(覇道)だ。流石のヒュドラでも耐えられるわけがない。

 結果として、首が全て消失した。そこにすかさずカナタが刀を振る。

 

「紫電雷覇!!!」


 轟音が響き、紫電が迸る。再生すべく蠢いていた首を焼き焦がしていく。

 紫電が止んだ。肉の焦げた臭いが洞窟内に充満する。


 時が止まったのかと錯覚するほどの静寂。

 やがてヒュドラは音を立てて地面へと崩れ落ちた。

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