迷宮へ
迷宮への入り口は宿から徒歩数分の場所にあった。
夜明けの星が人気の理由は安全性に加えてこの近さという利便性にもあるのだろう。
「なんか思ってたのと違うな」
「いきなり入り口があると思ってたか?」
ウォーデンの言葉に俺は頷いた。
そこにあったのは異様な建物だった。窓は一切なく、直方体をそのまま置いたような建物だ。大きさからして二階建てだろうか。
外壁に使われている素材は夜明けの星と同じく魔鉱石だと思われる。色も材質もよく似ている。品質からか、こちらの方が魔力の気配が強い。
「まるで牢獄だな」
カナタの呟いた言葉は間違ってはいないのだろう。迷宮から這い出てくる魔物を一匹たりとも外に出さない。そんな意志を感じる。そういった点ではまさに牢獄だ。
「ほら。はやく行くぞー」
ウォーデンは他の迷宮で慣れているのか何かを感じた様子もない。そのまま入り口に向かって歩いて行ったので俺たちも後に続いた。
中に入るとそこは待合室のようになっていた。正面に三つの受付があり、冒険者と思われる人々が列を成している。
俺たちも例には漏れずその列へと並ぶ。
するとものの数分で順番が回ってきた。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
受付嬢がにこやかに微笑む。
ウォーデンは懐から虹色に輝くカードを出すと受付嬢に手渡した。
「勇者パーティのウォーデンだ。今日からこの迷宮に潜る」
ウォーデンの言葉に待合室全体がざわついた。
受付嬢も目を皿のように見開くと、すぐにカードを受け取り、台の上に載せる。
すると台が光った。おそらく本物かどうかを判別する魔導具なのだろう。
「確認しました。【炎槍】のウォーデン様ですね。勇者パーティの方々は手続きが必要ありません。こちらへどうぞ」
「ありがとさん」
受付嬢自らが案内してくれるらしい。カウンターから出てくると先導して歩いていく。
冒険者たちがこぞって道を開けた。まるでモーセの海割りだ。
俺たちは苦笑を浮かべつつ後に続いた。
外壁と同じ魔鉱石が使われた細長い廊下を歩く。受付嬢が直接案内するのは稀なのか冒険者たちが物珍しそうに見てきた。
その先には分厚く見るからに頑丈そうな扉があった。
今は人の往来があるため開け放たれている。
「こちらです」
俺たちは受付嬢に連れられ、扉を潜る。
すると左右に一人ずつ純白の鎧を纏った騎士が立っていた。
……聖騎士か?
聖騎士は創世教に所属する騎士だ。
創世教が定めた厳しい試練に合格しないとなることができない。故に聖騎士は聖騎士であるという事実だけで相当の実力者だとされている。
冒険者のランクで言うなら最低でもA級相当。熟練の騎士ともなればS級にまで手が届く。
そんな聖騎士たちは正面にあるもう一つの扉を警戒していた。
こちらの扉は閉められていて通るたびに開けるのだろう。
……なるほど。この聖騎士たちは迷宮から出てくる魔物を警戒してるのか。
通ってきた細長い通路も万が一魔物が出てきた場合に殲滅するための通路なのだろう。
一本道であれば囲まれる心配はなく、安全に殲滅する事ができる。
過剰とも思える警戒体制だが相手はS級迷宮の魔物だ。たったの一匹でも逃せば都市の人々に犠牲が出る。
万が一を起こさないためにこれほど厳重な措置がとられているのだろう。
受付嬢が最後の扉を開け、脇に控える。前衛の俺が先に部屋へと入った。その後にサナが続き、他四人が部屋に入る。
「これが?」
振り返って受付嬢に聞くと彼女は頷いた。
「はい。こちらが入り口になります」
そこにあったのはただの階段だった。
石造りの遺跡にありそうな、ところどころが劣化して崩れている階段。何の変哲もないそれが数多の高位冒険者を飲み込んできたS級迷宮、奈落の森への入り口だ。
「私の案内はここまでになります。勇者様に心配はいらないかと思いますが、迷宮というものは万が一もありえます。どうかお気をつけください」
「ありがとうございます」
サナがお礼を言うと受付嬢は聖騎士たちの間を通り、退出して行った。
「さてここからはオレが指揮を執るでいいな?」
「ああ。頼む」
「予定通り今日は様子見だ。目的は迷宮というものに慣れる事。だからまずは十階層まで降りる。それ以上進めそうでも今日はそこで切り上げる。本番は明日だ。んじゃレイとサナで前衛よろしく」
「おーけい。まかせろ」
「わかった!」
俺とサナを先頭に中衛のカナタとウォーデン、後衛のカノンとアイリスの順で階段を降りていく。
階段には等間隔で明かりが点いていた。魔力の気配がすることからなんらかの魔導具なのだろう。おかげで段差を踏み外す事はない。
階段はそれほど長くはなかった。すぐに前方から光が見えてくる。
警戒を引き上げ、腰に差してある刀に手を掛ける。ここから先は戦場だ。決して油断は許されない。
「……第一封印解除」
封印を第一だけ解除する。
本当は第四まで解除したい所だが、迷宮という長丁場で殺戮衝動を抑え続けるのは精神力が持たない。
その点、第一封印だけならば殺戮衝動もほとんど無い。
胸から闇が溢れ出す。八本の黒刀を作り出して俺たちの周囲に配置しておく。
「フィールエンデ」
サナも己が聖刀を召喚する。
各々がそれぞれの武器を構える。カナタが雷刀を、ウォーデンが二槍を、アイリスが杖を。
カノンは魔術を使い、試験の時に見せた鴉を召喚した。
これで準備は万端だ。
「行くぞ」
こうして俺たちはS級迷宮、奈落の森へと足を踏み入れた。
ご覧いただきありがとうございます!
「続き読みたい!」「面白い!」と思ってくれた方は
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いします!
面白いと思っていただけたら星5つ、つまらなかったら星1つと素直な気持ちで大丈夫です!
ブックマークも頂けたら嬉しいです!
何卒よろしくお願いいたします。




