暗殺者
窓から飛び出した俺の身体は重力に引かれ落下を始める。
二階ぐらいの高さで怪我をすることは無い。しかし、地面を歩いていては暗殺者を逃してしまう。
……なら飛んだほうが早い!
背中に闇を集め漆黒の大翼を作り出し、大きく広げ羽ばたく。
一度の羽ばたきで数十メートルもの距離を稼ぎ、暗殺者へと肉薄する。
暗殺者もこれは予想外だったのか慌てたように凄まじい速度で逃走を開始した。
屋根を伝い、都市の外へと向かっている。
その先を見ると森があった。入られたら厄介だ。
……ならその前にケリをつける!
俺は一際大きく羽ばたいた後に大翼を解除する。
この翼の難点は使う闇が多すぎる事だ。第四封印を解除しても全ての闇を使わなければならない。その為、攻撃方法がなくなってしまう。
だから攻撃を行うためには少しの間だけ翼を解除する必要がある。少しの間であれば羽ばたきで得た推力で墜落することは無い。
俺は瞬時に黒刀を十本作り出す。
それを暗殺者が屋根から屋根へと飛び移ろうとした瞬間に時間差を付けて放った。
数本を避けたのは流石の技量だと言うべきだろう。空中でジャンプをしたのは何かの魔術だろうか。
だけど長くは続かなかった。五本目の黒刀が左脚を吹き飛ばした。
「ぐぁあああ!!!」
暗殺者が苦悶の声を上げ、落ちていく。
その背中目掛けて鞘に入ったままの刀で斬撃を叩き込んだ。
男が血を吐くような絶叫を上げ吹き飛んでいく。俺は黒刀を消し再び翼を作り飛翔する。
男にすぐ追いつくと首を掴んで地面へと叩き付けた。衝撃で地面にクレーターが出来た。だがここは既に都市の外だ。なんの問題もない。
闇を操作して吹き飛んだ脚を止血する。貴重な情報源を死なせるわけには行かない。
「さて。お前は答えられるのか?」
見たところ目には理性があった。屋敷にいた男のように正気を失っているわけではなさそうだ。
だが、男は俺に蔑むような視線を向けたあとニヤリと笑みを浮かべた。
「『シテン』に……栄光あれぇえええええ!!!」
男が大口を開け叫ぶ。
……まずい!
男の思惑を瞬時に悟り大翼から短刀を作り出す。そして躊躇いなく頬を貫いた。
ガキンと硬質な音がして男は短刀を噛んだ。
「させるかよ」
「くっ……くそがあああああ!!!」
叫んだ男の奥歯を見るとその上下に魔術式が記述されていた。おそらく自殺用の魔術式だ。危うく二人目の情報源にも死なれるところだった。
「改めて質問だ。アルメリアを呪ったのはお前たちか?」
男は俺の問いに答えない。代わりに射殺さんばかりの視線を向けてくる。
俺はため息をつくと闇で新たに短刀を作り出し手の中で弄ぶ。
そして男の顔面真横、耳スレスレの地面に勢いよく突き立てた。
「……答えろよ」
至近距離で目を覗き込みながら低い声で言う。しかし男に堪えた様子はない。どこまでも俺をバカにするように嗤っている。その笑い方がヤツらを彷彿とさせて腹が立つ。
「誰が! 誰が答えるものか!」
「あっそ」
……あんまりやりたくねぇけど……仕方ない。
俺は地面から短刀を抜くと男の肩へと突き刺した。情報を得るほうが大切だ。
「ぐぁあああああ!!!」
男が絶叫を上げるが無視する。仲間でさえも平然と殺すやつだ。何をされても文句は言えないだろう。
……いや待て。仲間を殺した奴がなんで仲間を庇う?
あんなに平然と殺せるのだ。そんな奴が死を前にして仲間を庇う。その事実に違和感を覚えた。
「……さっきの奴は仲間か?」
目は口ほどに物を言う。男の瞳にはしっかりと嫌悪感が映った。
屋敷にいた男とこいつは仲間ではない。しかし無関係とも思えない。
……使い捨ての下っ端ってところか?
それならばこの反応も頷ける。
……なんだかきな臭くなってきたな。
なぜそこまでアルメリアを狙うのか。目的がまるでわからない。
何せ犯人は呪っているだけだ。
組織だった動きをしているにも関わらず要求がないのは不自然すぎる。
……時間がないな。
本音を言えばこいつらを調べたい。先程この男が口にした「シテン」という単語も気になる。
だけどそんなことをしていたらアルメリアの命は尽きてしまう。呪いというものは術者を殺したところで解除されないのだ。
よって俺たちは一刻も早く旅立たなくてはならない。
……一人で考えても仕方ないか。調べるのは伯爵に頼もう。
俺は調査を伯爵に任せることに決めた。ひとまず男を連れ帰るべく闇で拘束し肩に担ぐ。
拘束に闇を使ったせいで大翼が少し小さくなった。これでは飛ぶことができない。
「第二封印再起動。……戻るか」
俺は縮地を使い、その場を後にした。
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