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容態

 ……魔物か。


 俺は馬車に揺られながら考える。


 結論から言えば、俺が取り込んだバケモノと魔物はおそらく別物だ。

 言葉にするのは難しいが生物としての在り方が違う。そんな気がする。


 感覚的な言葉で表すなら「邪悪さ」だろうか。バケモノの方がより邪悪で悪辣だ。

 魔物はあくまで生物として在るのに対して、バケモノは人を殺す事に特化している。

 その証拠が殺戮衝動だ。今思えばバケモノ共はこの衝動に嬉々として従っているのだとわかる。


 ……そもそも魔物ってなんなんだ?


 本には瘴気のあるところに出現する生物だと書いてあった。

 まず瘴気というものは結合する性質を持つ。時間をかけて結合を繰り返した瘴気はやがて核となる。

 その核が生物を模倣するらしい。

 だから魔物は()()()に生物を基盤(ベース)としている。

 この基本的にというのは伝承や御伽話に登場する生物にも当てはまるからだ。

 ドラゴンやグリフォンといった空想上の魔物が存在するのはこの為だ。


 対してバケモノはどうだ。

 あれは決して生物なんかではない。もっと悍ましい何かだ。


 そこで俺はふと気になった。


「なあカナタ。地球の魔物っていうのはどうやって生まれるんだ?」


 以前、カナタは地球にも魔物はいると言っていた。実際に見た事はないが、魔術協会が存在するぐらいだ。その存在を疑うのは馬鹿げている。

 馬車から外を眺めていたカナタはこちらを向いて口を開いた。

 

「瘴気からだ。瘴気っていうのは一定以上の濃度になると結合する。その結合を繰り返すことによって核となり魔物となる」


 カナタの説明はこちら側(レスティナ)の本に書いてあった事と同じだった。

 

「同じ……か。地球の魔物も生物を基盤(ベース)にしているのか?」

「そうだ。なんで生物になるのかは諸説あるな。既にある物を模倣した方が新たに何かを作るよりはエネルギーの節約になるって説が一般的だ」

「……なるほど。……カナタ。アイリスと話して魔術の事は何かわかったか?」


 地球の魔術とレスティナの魔術が似ている件だ。

 カナタは首を振った。


「いやさっぱりだ。でも俺は地球とレスティナの魔術は同じ物だと考えている。それはアイリスも同じ結論を出した」


 アイリスの方を見ると彼女も頷いていた。

 この答えは予想していた事だ。カナタがレスティナの言語理解魔術を使えた時点でそうではないかと思っていたのだ。


「魔術も同じで魔物も同じ……か。別の世界でここまで同じって事はありえるのか?」

「ありえない……と言いたいところだが現にありえているしな」

「だよな」


 謎は深まるばかりだ。


 ……ラナを救い出したら色々と聞いてみるか。


 なにせ天才だ。カナタやアイリスからは出てこないような何かが飛び出すかもしれない。


 

 

 そうして何度か魔物の襲撃はあったものの予定より早い一週間半の旅程を経て無事にシルエスタ王国、ブラスディア伯爵領へと辿り着いた。


 そのまま進む事二日、目的地の都市ブラスに到着した。

 ブラスに入ると、通達がされていたのかすぐに騎士たちが現れた。俺たちは彼らの案内で領主の館へと移動する事となった。


 館に入ると一人の執事が出迎えてくれた。

 真っ白な髪をオールバックにした男だった。執事服がよく似合う男で老齢だが姿勢が良く、とても年齢を感じさせない佇まいをしていた。

 

「ようこそおいでくださいました。勇者様御一行ですね」

「はい! サナと言います!」


 代表して勇者であるサナが答えると出迎えた執事が恭しく頭を下げた。


「私は執事長を勤めております、ライムと申します。主人がお待ちです。こちらへどうぞ」


 俺たちはライムさんに案内され執務室に赴いた。

 執務室には男が一人いた。ライムさんが俺たちを部屋に案内するなり背後に控えたのでこの人がブラスディア伯爵なのだろう。

 肩幅が広く、とても体格の良い人だ。明らかに鍛えられている。

 

 魔導具蒐集家(コレクター)

 ただ魔導具を買い集めている人だと思っていたが、自ら迷宮にも取りに行くのだろうか。

 どうみても戦える人間だ。

 しかし、伯爵は目に見えてわかるほど憔悴していた。目には大きな隈ができており、無精髭が生えている。

 普段は輝いているのであろう金髪も今はくすんでいるように見える。


 俺たち、正確には聖女であるアイリスを視界に収めると伯爵の瞳に僅かな輝きが戻った。

 伯爵は慌てて立ち上がると勢いよく貴族の礼をとる。


「これはアイリス王女殿下。お久しぶりでございます。勇者様方もお初にお目にかかります。カーン=ブラスディアと申します」

「その様子だと状況は悪いのですね。早速ですが、御息女の容体を確認させていただいても?」

「はい! ありがとうございます! こちらへ」


 ブラスディア伯爵は立ち上がると、俺たちを娘の元へと案内した。




 ブラスディア伯爵がノックをして部屋に入る。部屋の中にいたメイドがお辞儀をして席を外した。

 ベットの横まで移動すると伯爵が横になっている娘にやさしく声をかけた。


「アルメリア。聖女様がいらしたよ」


 紹介を受けたアイリスが一歩前に出る。

 

「初めましてですね。アイリス=ラ=グランゼルです。失礼しますね」


 アイリスが挨拶を口にし、ベットを覗き込む。すると途端に顔色が青ざめた。

 

「……これは!」


 切羽詰まったものを感じて俺もアルメリアの容体を確認する。


 それはひどいものだった。

 アルメリアの身体は痩せこけていて骨が浮き出ている。呼吸もとても浅く、目の焦点も合っていない。

 父親譲りの金髪は今や見る影もなく白くなっている。

 有り体に言って、生きているのが不思議なぐらいだった。


 アイリスがすぐに魔術を発動する。

 聖女が扱える聖属性の回復魔術だ。普通の光属性回復魔術の数十倍の効力を発揮する物だ。

 しかしそれを受けても、アルメリアの様子は変わらなかった。


「そんな……!」


 アイリスが信じられないとばかりに二度三度と魔術を使う。しかし変わらない。

 ブラスディア伯爵の顔が絶望に染まっていく。


「……わたしにみせて」


 アイリスに代わりカノンが前に出た。瞳に魔力が集まっていくのを感じる。


 ……この前言っていた魔眼か?


 俺はパーティーの日に魔力を可視化できると言っていたのを思い出した。


 しばらくアルメリアを観察すると、魔眼を解除してブラスディア伯爵に向き直った。


「……これじゃいくら聖女の回復魔術でも効かない」


 カノンは一度言葉を切ると、紅の瞳でブラスディア伯爵を見た。


「……これは……呪い」

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