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里での朝

 翌朝、支度を済ませて廊下に出るとサナとバッタリ鉢合わせた。

 どうやら俺たちに用があったらしく、扉の前に立っていた。


「おはようサナ。どうかしたか?」

「おやおやおやぁ〜? もしかしてもしかするぅ〜?」


 俺の問いには答えず、サナはにんまりと笑みを浮かべている。その視線の先にいるのは俺ではなく、上機嫌に俺の腕に自分の腕を絡めているラナだ。


「サナ……。言っておくがお前が思っていることは断じてない」

「ホントにぃ〜?」


 しかしサナのニヤニヤは止まらない。


「ラナもなにか言ってくれ……」

「レイの言う通りだよサナ。でもありがと。うまくいった」

「それはその様子を見ればわかるよ〜! よかったね! ラナ!」

「まあ、あれだ。俺からもありがとな。おかげで話し合えたよ」


 サナが相談に乗ってくれていなかったらラナは溜め込んでしまったかもしれない。

 そこは素直に感謝する。


「ただ、あまり余計な入れ知恵はするな。困る」

「うれしいくせに〜」

「うれしいから困るんだよ……」


 頭痛を堪えるように額に手を当てるとサナは「にしし」とイタズラっけに笑った。


「それでなにをやったのか私気になるなぁ〜? 教えてくれてもいいんじゃない〜?」

「レイ?」

「え? 恥ずかしくないの?」

「いや、恥ずかしいは恥ずかしいんだけど相談に乗ってくれたし……?」


 ラナが上目遣いで見てきた。非常に可愛いのが困る。


「とんでもなく恥ずかしいんだが……」


 正直に言って恥ずかしいどころではない。めちゃくちゃ恥ずかしい。

 それも小さい頃から一緒に育った幼馴染に知られるのは筆舌にし難い恥ずかしさだ。

 だけど……。

 

「……まあラナがいいならいいよ」


 惚れた弱みだ。こればかりは仕方ない。

 俺の返答にラナがサナに小さな声で耳打ちする。

 

「ええ!? うそ!? アレをやったの!? ダイタンだねぇ〜!!! ひぇ〜。大人だぁ〜」


 サナは驚き、頬を染めつつも目をキラキラとさせていた。

 

「お前が教えたんだろうが。なに驚いてんだよ……」

「まあ? 解決したようでなによりだよ!」

「誤魔化しやがって……。まあいいか。んで俺たちに用があったんだろ?」

「そうだそうだ! 私、二人を呼びに行くところだったんだよ」

「なんかあったのか?」

「まず天気! 氷山は荒れに荒れてるって。氷柱(つらら)が降ってくるらしいよ」


 日本では珍しいことがあると「明日槍が降るのかもな」なんて口にするが、この無常氷山では近しい現象が起こるらしい。

 天気、氷柱(つらら)。なんの冗談だ。


「もはや凶器だな」

「ホントね」


 俺とサナは揃って苦笑した。


 ……だけどそうなると外には出れないかもな。いや、一度異常気象も経験しておくべきか?


 祭壇の存在は御伽話。

 だけど魔術の秘奥を求めた人々は確かに存在した。

 古き旅人や高位冒険者、そしてロウのようなアストランデの民。その中でも到達できた者や生きて帰還できた者は記録を残しているらしい。

 無数の屍の上に記録された大切な記録だ。


 その記録を読んだカノンによると祭壇に辿り着くまではおよそ十日が目安らしい。無論、天候によって前後はする。


 道中には先人たちが発見した洞窟や岩陰がある。そこが異常気象をやり過ごす安全地帯。

 その場を中継地点として進むことになる。

 とは言っても完全に異常気象を避けることは出来ないと予想される。なにせ天候は急激に変わるのだ。


 唐突に氷柱(つらら)が降れば対処に追われるだろう。

 ならばどんなものかを見ておくのも大切だ。


「それで? まずってことは他にもあるのか?」

「うん! ウォーデンが朝食作ってくれたから食べる人は食堂に集合! だってさ」


 そういえば、食事当番をどうするか決めていなかった。

 おそらくウォーデンは道中、ローテーションで作っていた流れで作ってくれたのだろう。

 ローテーション通りなら今日はウォーデンとカナタが当番だ。カナタが忘れるとも思わないのできっと一緒に作っているはず。


 ……同じ部屋だしな。


 思えば部屋割りと食事当番は同じだ。

 

「そっか。それは助かるな。じゃあ行こうか」


 


 朝食後、俺は全員が退席する前にみんなに声をかけた。


「今日はウォーデンが作ってくれたが、今後もローテーションでいいか?」

「それじゃあ昼食は私とレイかな?」

「いや、今日はオレが作ったが(ここ)にいる間は各自でいいんじゃないか? 各々の都合があるだろ?」


 ウォーデンの提案はごもっともだったので俺は頷いた。


「確かにそうか。なら各自にしよう」

「何日足止め食らうかわからないから各自節約は心掛けてくれ」

「わかった。朝食ありがとなウォーデン。美味かったよ」


 お礼を言ってから俺とラナは席を立つ。


「カノン。エイラスがどこにいるかわかるか?」

「……ん。……たぶん北側の修練場。……まっすぐ行けば着く」

「了解。助かる」

「二人はどこに行くんだ?」

「戦う仕事がないか聞こうと思ってる。一度()を体験しておきたいしな。それに、やりたいこともある」


 無論、強力な魔物相手の検証だ。


「みんなはどうするつもりなんだ?」

「オレはいつも通り情報収集だな」

「……わたしは書庫に籠る。……しらべたいことがあるから」

「俺も書庫だな。カノンに頼んで貴重な本を見せてもらうつもりだ」


 カノンとカナタは書庫に籠るらしい。


「私は特に決めてなかったです。よかったらレイさんとお姉ちゃんについて行ってもいいですか?」

「もちろん。一緒に行こう。サナとレーニアはどうする?」

「私はレーニアに聖騎士の戦い方について教えてもらうつもり! なんか普通の勇者は聖騎士に戦い方を学ぶんだって!」


 レーニアに視線を向けると頷かれた。


「本来ならば聖王国から一人、指南役としてグランゼル王国へ聖騎士が派遣される予定でした。勇者様は武芸の心得のある方は多いですが、実戦の経験がないことが多いので」

「なるほど……。まあ俺たちは例外中の例外か」


 元から戦える剣士と魔術師が自分から巻き込まれてきたのだ。そんなことは滅多にないだろう。

 その指南役とやらの役目を俺たちが奪ってしまった形だ。悪いことをした。

 

「……もしかしてレーニアがその役目だったのか?」

「いえ、私は副団長ですから。予定では第五騎士団長のトラム様が担当する予定でした。しかしすぐにパーティの募集が告示され、中止になったと聞いています」

「なんか申し訳ないことをしたな」


 トラム騎士団長とやらに会うことがあったら謝っておこうと心の片隅にメモをする。

 

「だからね! 一応教えてもらっておこうかなって!」

「なるほどな。まあがんばれよ」


 今のサナに必要かどうかはわからないが。

 

「レイもね! もし外に出たらいろいろ教えて!」

「ああ。じゃあ二人とも行こうか」

「うん!」

「はい!」

「っと、レイ。これ持ってけ」


 ウォーデンから投げ渡された物を危なげなくキャッチする。


「軽い昼飯だ。三人分入ってる」


 中を見るとサンドウィッチが入っていた。

 もし外に出るなら戻って来られないかもしれないので非常に助かる。


「助かるよウォーデン。ありがとな」

「ありがと! ウォーデンさん!」

「ありがとうございます!」

 

 俺たちは礼を言うと、エイラスを探しに北の修練場へと向かった。

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