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滞在許可

「待たせたな。……エイラス。先に行くなら言え」


 ノックをし、部屋に入ってきた里長がエイラスに非難の眼差しを向けた。どうやらエイラスは独断で来ていたらしい。


 ……まあ戦士長があの態度だもんな。


 アレが独断ではなくアストランデの総意だというのならそちらの方がマズイ。

 しかしそんな里長の視線を受けてもエイラスは何も言わなかった。目を閉じたまま、じっと動かない。

 里長はため息を吐くと、エイラスの隣に座った。

 

「……私はこの里で長をしているロウ=アストランデだ。貴殿らの代表は……」


 里長改め、ロウは俺たちを見回す。

 主に俺とラナ、カナタに視線を向けたが、結局はわからなかったようだ。強さを基準に考えるのは最果てという過酷な環境に住む一族らしい。

 

 そんなロウの視線を受けて仲間たちが一斉に俺を見た。

 これでは誰が代表か丸わかりである。


 ……まぁ。そうなるよな。


 俺たちは勇者パーティと名乗っている。だけど仕切っているのは勇者であるサナではなく俺だ。

 なのにも関わらずこう名乗っているのは単に都合がいいからでしかない。

 

 実際のところ、勇者であるサナは俺に付き合ってくれているだけだ。しかしそれはサナ以外も同じ。

 各々の目的はあれど、主に俺の「サナとカナタを地球に帰す」と「ラナと暮らすこの世界を護りたい」という二つの願いに協力してくれている。

 だからこそ俺が代表となるのも自明だ。

 

「お……私はレイです。この勇者パーティの代表……のようなものをしています」


 俺の言葉、正確には勇者パーティという単語にロウは目を見開いた。それにしてもカノンやエイラスと比べて表情がわかりやすくて助かる。

 あくまで二人と比較して、だが。


「勇者パーティか……。……カノン。一員になれたのか」


 ロウは感慨深げな声音で言葉をこぼした。


「……ん。……みんなわたしのなかまたち」

「そうか……。では貴方が勇者か?」

「いえ、勇者はこっちです。……サナ」

「うん!」


 サナは頷くと俺の意図を察し、その手に聖刀(フィールエンデ)を顕現させた。勇者にとって聖剣は手っ取り早い身分証明だ。


「聖剣、か。……それで、勇者一行が里に何用だ?」

「……それはわたしから」


 カノンは頷くと父親であるロウの目を真正面から見た。そして目的を口にする。


「……祭壇に行く。……だから少しの間、滞在させて」

「祭壇か……。過酷な道のりだぞ?」


 ロウの言葉に俺は小さな違和感を覚えた。

 しかし俺の思考よりも先にカノンがその正体を口にする。


「……過酷? ……実在をうたがわないの?」


 そうだ。

 カノンもエイラスも祭壇の実在すら疑っていた。御伽話だと。しかしロウは実在を問うよりも先に過酷な道のりだと口にした。

 それは存在を知っていなければ出ない言葉だ。

 するとロウは驚きの言葉を口にした。


「……実在はする。私は行ったことがあるからな」

「……行ったことがある?」

「ああ。事情があって若い時にな。結果、十人中八人が死んだ。祭壇(あそこ)には……行くべきではなかった」


 ロウが深い後悔を滲ませた声でつぶやいた。血が滲むほどキツく拳が握られている。

 その様子から悲劇が起きたことは想像に難くない。


「だからこそ断言する。魔王討伐のために必要なものは祭壇にはない。無駄足となるだろう」

「……じゃあ聞く。……祭壇には何があったの?」


 なおも食い下がるカノンにロウは眉を寄せる。


「……魔術式だ。それもおよそ人類には理解の及ばぬ、な」

「……なら合ってる。……わたしたちの目的はその魔術式。……だから無駄足にはならない」

「……なに?」


 ロウが説明を求めて俺を見た。だからまずは誤解を解く。


「まずは一つ、訂正させてください」

「敬語はいい。普段の言葉で話せ。アストランデ(ここ)ではそんなもの、意味がない」

「……わかった」

「それで訂正とは?」

「俺たちは既に魔王を撃破している」


 まずはそこから齟齬がある。

 ロウは魔王を倒すために力を求め祭壇に行くと思っている。しかし俺たちは世界を渡る方法を求めて祭壇に行く。


 ……正確には封印だけどな。

 

 だけど詳しく説明できない以上はこう言うしかない。


「……そう……か。……貴殿の言葉でなければ疑っていたところだ。しかし、ならばなぜあの魔術式を求める?」

「勇者は異世界から召喚される。それは知っているか?」

「もちろんだ。いくら閉鎖的なアストランデでもその程度は知っている」


 ロウは常識だとばかりに眉を寄せた。

 

「ならば話は早い。祭壇には勇者を送り返す手掛かりがある」

「あの魔術式が世界を越えるものだと……?」

「俺たちはそう読んでいる。それにちゃんと根拠もある」

「それは?」


 ロウが真剣な眼差しで続きを促す。

 

「祭壇の存在を教えてくれたのは教皇だ」

「なるほど教皇か。しかし先ほども言ったが道は険しいぞ?」

「俺たちなら問題ないと判断している」


 ロウの視線が値踏みするようなものに変わった。

 強いのは理解できるがそれが無常氷山で通用するものかどうかを計っている。そんなところか。

 しばしの沈黙ののち、ロウは口を開いた。

 

「……娘を送り出す以上、私は問わなければならない。レイ。貴殿は何者だ? 貴殿は殊更に底が知れない」

「何者……か」


 そう問われると答えに窮する。

 勇者と同じ異世界人、ヒトの先祖返り。そしてラナの恋人。俺を示す言葉は多くあれどきっとそんな答えを求められているわけではない。

 どうするものかと考えていると、ラナがソファから立ち上がった。


「それは私から。――ラ=グランゼル」


 ラナの呼びかけに応え、星剣が顕現する。


「初めましてアストランデの長よ。私はラナ=ラ=グランゼル。グランゼル王国第一王女にして、当代の星剣適合者です」

「……貴殿があの氷姫(ひょうき)か。その高名(こうめい)は此処、アストランデにも届いている」

「それは光栄ですね」

「それで? それと彼に何の関係がある?」

「彼は私の騎士です」


 ……たしかにその手があったな。


 グランゼル王国という大国の騎士。それも氷姫と謳われるラナの騎士だ。これ以上の身分証明はない。

 ラナとは恋人という認識が強いため、咄嗟に出てこなかった。

 騎士としてこれではいけない気もするが仕方ない。

 

「それも彼はグランゼル王国最強の騎士です。強さの証明が必要でしたらどなたでもお相手しますよ?」

「……不要だ。あの氷姫がそこまで言うとはな……」


 ロウは呟くと、天井を仰いだ。


「勇者に氷姫。それに、貴殿は聖女だな?」


 唐突に話を振られたアイリスだったが、ロウの目を見てしっかりと頷いた。

 そして立ち上がると見惚れるほどの美しい所作で礼を執る。


「グランゼル王国第二王女アイリス=ラ=グランゼル。私が当代の聖女です。よくお分かりになりましたね?」

「氷姫の妹君が聖女になったのは此処にも伝わっている。そんな氷姫とよく似た人物が勇者と共にいれば自ずとわかるだろう」

「それはその通りですね」

「そして聖騎士に冒険者。加えてレイに匹敵する力の持ち主……か。貴殿は……?」


 最後にロウの視線はカナタを向いた。

 

「俺はカナタ。ただの魔術師だ」

「ただの……ね」


 ロウの視線がカナタの髪に向き、次いでサナへと移動した。


「まあいい。詮索はしないでおこう。……しかし、豪語するだけはあるということ……か」

「では?」


 ラナの問いにロウが頷いた。

 

「ああ。滞在を許可しよう。……しかしカノン。わかっているな?」

「……ん。……自分たちの物資は用意してきたから問題ない。……滞在の対価として渡す分もある」


 どうやらあの大量の物資は渡す分も含めてあったらしい。

 俺は特に聞いていないが、ウォーデンと相談した結果だろう。いい仕事をしてくれた。

 やはりウォーデンに任せておいて間違いはなかったようだ。

 

「それは助かる。ありがたく受け取ろう。滞在はこの屋敷を自由に使ってくれていい。……カノン。案内は任せるぞ?」

「……ん」

 

 それだけ言うとロウは立ち上がり、部屋を後にした。エイラスもそれに続く。


 ……終始黙ったままだったな。


 そう思ったが藪蛇になりそうだったので心に留めておく。


「んじゃ渡す物資はオレがやっとく。レイ。手伝ってくれるか?」


 物資はこの屋敷の外に置いてある。

 渡すのも台を操作している俺がいた方が早く終わりそうだ。


「わかった」


 そうして滞在許可を貰った俺たちは各々行動を開始した。

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