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焔〈ホムラ〉

「……しばし待て。……戦士長を連れてくる」


 里長はそう言い残して案内された部屋から出ていった。

 後に残ったのは俺たち勇者パーティの八人のみ。部屋は全員が座れるほど大きくなく、ひとまずソファには女性陣に座ってもらった。

 レディーファーストというヤツだ。

 俺を含めた男性陣はその後ろに立っている。

 

「しっかしこれで()か」

「だな」


 ウォーデンの言葉に首肯する。

 里長という呼び方からアストランデの一族が住むこの土地は里なのだろう。だけど里と呼ぶにはあまりにも栄えている。

 家は立派な石造だし、里長の住むこの家は二階建てで貴族が住むような大きさと外観だった。


「オレが行ったことのある里とは全然違うぞ」

「俺も想像していたのとはだいぶ違ったよ。だけどそれよりカノンが里長の娘だったってのが驚きだな」


 単純に初耳だったから驚いた。

 するとカノンは振り返り、不思議そうな顔で首を傾げた。


「……ん? ……言ってなかった?」

「少なくとも俺は聞いてないな」


 他の女性陣に視線を向けるが、みんなも俺と同じく知らなかったらしい。

 

「俺は聞いてた」

「あぁ。なるほど……」


 カナタに伝えていたからみんなにも伝えてあったと勘違いしていたのだろう。


「……言ったつもりだった」

「まあ、あるあるだな」

「だな。それで――」


 俺が苦笑すると、カナタが思い立ったように窓へと近づいた。

 カーテンを開け、そこで燃えている焔に視線を向ける。

 

「カノン。あれが?」


 里の中心に設置された祭壇。その上、宙に浮くようにして燃える紫色の焔。

 見たところ薪や燃料は見当たらない。だけど決して消えることなく燃え盛っている不思議な焔だ。

 アレが先程カノンが言っていたアストランデの至宝なのは一目瞭然だった。


「……ん。……(ホムラ)とだけ呼ばれてる」

(ホムラ)……」


 ラナも気になるのかソファから立ち上がると窓辺に寄った。俺も気になったのでラナの背後に寄り添うように立ち、(ホムラ)を見つめる。


 紫色の焔。

 紫といえば毒々しいイメージや、それこそ呪いのイメージがある。しかし(ホムラ)からはそういったネガティヴなモノは一切感じない。

 アレは此処に在るべくして在るモノだ。そんな感覚がある。


「レイ。アレ、なんだと思う?」


 俺はその言葉に驚いた。

 

「……ラナでもわからないのか?」

「うん。初めは魔術だと思ったんだけど……」

「魔力が全く感じられない」


 ラナの言葉をカナタが引き継いだ。

 

「カナタもか?」

「ああ。現象は魔術そのものなのにな」

「うん。でもどっかで……」


 ラナが思案顔で口元に手を当てる。

 すると少し考えたあと、なにかを閃いたように顔を上げた。


「そっか。……魔法みたいなんだ」

「あぁ。言われてみればたしかにそうだな」


 かつて見たレニウスの魔法。魔力の気配を感じない魔術のような何か。彼はそれを概念だと言った。

 (ホムラ)は差し詰め炎の概念と言ったところか。

 

「……記録によると千年前に当時の戦士長ガイ=アストランデが作り出したモノ」


 いつの間にかカノンが背後に立っていた。

 

「千年……。途方もないな」

「たしかアストランデの悲劇も……」


 ラナの言葉にカノンが頷く。


「……ん。……正確な記録は残ってないけど同時期だとおもう」


 つまり(ホムラ)はアストランデの悲劇となんらかの関係があるということか。


「それは……大丈夫なのか?」


 アストランデの悲劇とは言い換えてしまえば一国を滅ぼした呪いだ。そんな事件と関係があるのであれば決して安全とは言えないだろう。もしかしたら一国を滅ぼした呪いそのものかもしれない。

 しかし――。

 

「……大丈夫。……この(ほのお)は、()()()

「……」


 俺は否定できなかった。

 カノンの言葉は比喩でもなんでもない。


 アストランデの一族が最果てという過酷な地でも快適に暮らせているのは間違いなく(ホムラ)のおかげだ。

 

 外は極寒。しかしひとたび里に入れば、快適な環境になった。家の中に入ったような感覚がしたぐらいだ。

 アストランデの人々も里の中では防寒具を身につけていない。

 そう。この場所はとても、落ち着く(暖かい)

 まるで()()のような現象だ。


 ……だからこそ少し不気味なんだけどな。

 

 アストランデが関わっている以上、(ホムラ)は呪いの(ほのお)と見て間違いない。

 だけど呪いというものは元来、人を害するものだ。

 そんなものを見て()()()()なんて気持ちを抱くのは正常だろうか。

 俺はそう思わない。おそらく精神的にもなにか影響を及ぼしているハズだ。


 ……まあ、だからなんだという話でもある、か。


 アストランデの一族にとって(ホムラ)はなくてはならないものだ。だからこその至宝。

 ならばカノンの「大丈夫」という言葉を信じる方が賢明だろう。


 ……それに、問題あるならレニウスが対処してるな。


 そう結論付け、俺は思考を止める。

 ラナもカナタもそれ以上、(ホムラ)の正体を掴めないようだった。


 魔法に似ている不思議な焔。今わかるのはそれだけだ。


「戻ろうか。ラナ」

「そう……だね」


 ラナを伴ってソファに引き返す。


「ほら。カナタも――」


 行くぞ。と言いかけた時、扉の外から凄まじい速度で近づいて来る気配を感知した。


 ……なんだ?

 

 疑問に思ったわずか数秒後、ノックもせずに扉が勢いよく開いた。

 そこから姿を現したのは一人の青年だ。銀髪紅目からアストランデの一族なのは間違いない。


 ……これが戦士長か?


 だとしてもノックの一つもなしとはいくらか失礼ではないだろうか。

 なんてことを思っていると、青年は予想外の行動に出た。大股でカノンに近づき、あろうことかその胸倉に手を伸ばしたのだ。


 ――と、同時。室内に雷鳴が轟いた。

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