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極光

「……これは……すごいな」

「うん。綺麗……」


 星が瞬き始めた空を見上げ、俺とラナは感嘆の声を漏らした。

 

 視線の先では星海の中を極光(オーロラ)が静かに揺蕩い、幻想的に揺らめいている。地球では南極と北極に近い場所でしか見ることのできない絶景。

 それをまさか異世界で見ることになろうとは思ってもみなかった。


「それにしても大きいな」


 以前、テレビで見た極光(オーロラ)よりも遥か広範囲にわたっているように思う。

 左を見ても、右を見ても果てがなく、空を埋め尽くしている。まるで、人の地と魔の地を隔てるカーテンのようだ。

 

「……これ、自然現象じゃないな?」


 幻想的な光景に見惚れていると、隣でカナタが言葉を溢した。その真剣な色を帯びた視線は極光(オーロラ)に向けられている。


「自然現象じゃない?」

「ああ。凄まじいほど巧妙に隠蔽されてるけどな。魔力で干渉してるのは間違いない」


 ラナの方を見るとうんうんと頷いている。どうやらラナも同じ意見らしい。

 しかし同じ魔術師でもアイリスやウォーデンは眉を寄せ、首を傾げていた。それは聖騎士のレーニアも同様。無論、俺やサナにはさっぱりだ。


 ……にしてもアイリスですらわからないのか。


 生粋の魔術師であり、聖女に選ばれるほどの才媛。そんなアイリスを欺ける魔術。それがどれほど異常なモノなのかはさすがの俺でもわかる。


「ねねねねね! これだけ大きいのにニレルゲンから見えなかったのはなんで!? 魔術!?」

「めざといなサナ」


 言われてみればその通りだ。これだけ大規模な極光(オーロラ)ならばニレルゲンから見えてもおかしくはない。珍しくサナが鋭い。

 するとカノンがコクリと頷いた。


「……ん。……()()()()からだと近づかないと見えないようになってる」

「へぇ〜〜〜! そんなこともできるんだ!」


 よくわかってないなりに感心しているサナ。そんな中、()()()二人は口元に手を当てて極光(オーロラ)の解析に入っていた。

 

「魔力隠蔽に視認阻害……。そのほかにもいろいろ組み込まれてるな。肝心の核になってる魔術は……」

「多分、結界魔術……の一種だよね?」

「ああ。俺もラナと同じ見解だな。つまるところ、最果ての魔物を()()()()に出さないための檻か」


 二人の言葉にカノンは首肯した。

 

「……ん。……ふたりのいう通り。……あれは断絶の極光(オーロラ)。……アストランデが護る至宝の一つ」

「一つってことは複数あるのか?」

「……ん。……もう一つは行けばわかる。……着いた」


 小高い丘を登り切り、カノンの視線の先を見る。

 するとそこには丈夫な壁で囲われた村があった。門の前には長槍を持ち防寒具に身を包んだ青年が立っている。

 灰をかぶったような銀髪、血のように紅い瞳。どちらもカノンと一緒だ。アストランデの一族で間違いないだろう。


「行こう」


 俺たちが門へと近づいていくと門番の青年が長槍を構えた。


「何者だ」


 誰何(すいか)する声に一度足を止める。


「……ふだん()()()から人が来ることはない。……だから警戒してる」


 カナタの陰からカノンが呟く。

 カナタの立ち位置はまるでカノンを守っているかのようだった。なにかカナタだけに打ち明けた事情があるのかもしれない。

 そんなカナタの服の裾をカノンが引いた。


「……ありがと。……でもだいじょうぶ。……まかせて」

「……わかった」


 油断なく門番を見据えながら、カナタは身体を少しずらした。そしてカノンが一歩前に出る。

 すると門番の青年は大きく目を見開いた。


「まさか。カノン……か?」

「……ん」

「……何をしに帰ってきた?」


 同族が姿を現したのにも関わらず、青年が長槍を下すことはなかった。警戒を一切緩めることなく、長槍を構え続けている。

 だけどカノンに気にした素振りはない。


「……おとうさんはいる? ……いるなら呼んで」

「いる……が……」


 青年の視線が俺たちへと向いた。

 大方、身元も知れぬ部外者がいる中、言うことを聞いていいのか迷っているといったところか。

 するとそのとき、予想外の人物が前に進み出た。


「貴様は……」

「私はレーニア・シナトラスト。見ての通り聖騎士です。彼らの身元は我ら創世教が保証します」

「創世教……。それは教皇の言葉と考えていいのか?」

「はい」


 レーニアが毅然とした態度で頷く。

 すると短い葛藤の末、門番の青年はため息をついた。


「……わかった。……すぐに里長を呼んでくる。……しばし待て」


 門番が頷き、門の中へと消えていった。


「助かった。レーニア。ありがとな」

「いえ、これも私の役目ですので」


 ……役目……ね。


 俺は内心で呟く。

 いまだレニウスがレーニアを補佐に付けた理由は明らかになっていない。しかしこれもその一部なのだろう。

 

「にしても創世教はアストランデ(彼ら)と関わりがあるのか?」

「はい。創世教、正しくは初代教皇様とアストランデの一族の間には盟約があります」

「盟約?」

「アストランデが最果ての守護者となる代わりに我々創世教は彼らを可能な限り支援するというものです」

「なるほどな」


 初代教皇、十中八九レニウスだが。


 ……となると断絶の極光(コレ)もレニウス絡みだと考えて間違いなさそうだな。


 聖女であるアイリスが見破れないほどの隠蔽魔術。それにこれほど大規模な結界。魔法使いであるレニウスの仕業だと考えると別に不思議ではない。

 

 そんなことを思っていると再び扉が開き、門番の青年と共に一人の男性が姿を現した。

 カノンと同じ銀髪に紅眼。防寒具を着込んでいてもわかる鍛え上げられた大きな身体。

 歳はウォーデンと同じぐらいだろうか。

 しかしカノンの言葉が正しければこの人物がカノンの父親ということになる。

 それにしては若々しい。


「……ひさしいなカノン」


 里長がカノンとよく似た無表情で呟いた。

 厳しい顔付きもあって厳格といった言葉がよく似合う人物だ。

 そんな父親に娘も無表情で応えた。

 

「……ん。……ひさしぶりおとうさん」

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