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魔王討伐宣言

 大広間は小さい頃に海外アニメで見た城のようになっていた。

 真ん中には巨大な階段があり、上っていった中程に小さな舞台がある。そしてそこから左右に分かれた階段があった。

 魔王討伐宣言はこの舞台で行われる。

 俺たちは今、向かって右側にある階段の上の舞台袖で待機をしていた。

 ちなみに先程までいた隣の控え室とは直通になっている。


「うーーー。おうち帰りたい」


 今更帰れるわけもないのにサナが項垂れている。そんなサナにカナタが呆れた視線を向けていた。

 

「……サナ。そろそろ覚悟決めろよ」

「そんなこと言ってもさぁ〜〜〜。いいよねぇカナタは立ってるだけでぇ〜。変わってあげようか?」

「まだ言ってんのか。変われるわけねぇだろが」

「本当に大丈夫なのか? レイ」

「ああ。ほっとけば大丈夫だ。何も問題ない」


 不安そうなウォーデンには改めてそう言っておいた。

 

「――【炎槍】ウォーデン・フィロー!」


 少しして拡声の魔道具からウォーデンの名前が呼ばれた。

 

「おっと、呼ばれたな。んじゃ行ってくるわ。しっかりしろよ? 勇者サマ?」

「むぅ〜! バカにしてるでしょ!?」

「してねぇよ。心配してんだよ」


 目を細めたウォーデンが、しっかりと表情を作り舞台袖から出る。すると喧騒が聞こえ、拍手の音が鳴り響いた。

 ウォーデンが階段を降り始めると、すぐにまた拡声の魔導具が音を鳴らす。

 

「――【冥帝】カノン=アストランデ!」

「……ん。……いってきます」


 【冥帝】とはカノンに新たに付けられた二つ名だ。

 魔王討伐に伴い、勇者パーティで二つ名を持たないメンバー全員に二つ名が与えられることとなったのだ。

 カノンは試験での黒い鴉を従えた姿や熱砂迷宮、氾濫現象の時の戦いぶりから【冥帝】の二つ名が与えられた。

 ちなみに名付けたのは教皇であるレニウスだ。


「――【雷鳴鬼】カナタ!」

「……こっぱずかしいなコレ」


 小声で文句を言いながらもカナタがカノンに続いて舞台袖から出る。

 雷鳴鬼はそのままだ。別の二つ名を付けられるのは面倒だということでレニウスに申告した形となる。

 そして次は俺の番だ。


「――【救氷騎士】レイ!」


 俺は内心でガッツポーズを取る。

 ようやく【黒の暴虐】なんていう恥ずかしい二つ名から解放された。

 ちなみに【救氷騎士】と決めたのはラナだ。「氷姫を救ったから救氷。それで私の騎士だから救氷騎士にしよう!」と言ったので即採用した。

 二つ名があること自体恥ずかしいが、ラナがつけてくれたので文句はない。


「んじゃ行ってくる。サナ。大丈夫だよな?」

「モンダイナイ。モンダイナイ」


 うわ言のように繰り返すサナに俺は苦笑した。さすがのアイリスも隣で心配そうに見ている。


「アイリス。放置して大丈夫だからな? どうせ吹っ切れるから」

「本当ですか? この様子だと信じられませんが……」

「逆に心配してるとずっとうだうだしてるぞ」

「わかりました。レイさんを信じます」


 アイリスが頷いたのを確認して俺は舞台袖から出た。後ろで「私を信じてよ〜」と情けない声が聞こえたが、きっと聞き間違いだろう。


 ともあれ、俺が階段上に姿を現すと盛大な拍手が巻き起こった。気恥ずかしいが我慢して階段を降り、カナタの隣まで進む。

 そして各国の代表者たちがいる広間に向かって一礼した。


 頭を上げると眼下を見回す。

 すると大広間の中程、壁際にいたラナと目が合った。

 

 小さく手を振っている。とても可愛い。やはりドレスがよく似合っている。遠目から見ても美しさは少しも損なわれておらず素晴らしく綺麗だ。

 だから俺も手を振り返したくなった。しかしぐっと堪える。

 流石に手を振りかえすのはマズイ。

 

「――【蒼氷ノ聖女】アイリス=ラ=グランゼル」


 次にアイリスの名前が呼ばれた。

 舞台袖から白と金のドレスを纏ったアイリスが現れると拍手がより一層大きくなった気がする。

 きっとそれは錯覚ではないだろう。ラナも妹の晴れ舞台に瞳を輝かせていた。


 アイリスが俺の隣まで進み出ると見惚れそうになるぐらい上品な礼をして背筋を伸ばした。

 こういうところを見るとやはり王族なんだなと実感する。

 

「――【(キラメキ)ノ勇者】サナ=スメラギ」


 そして大トリは我らが勇者サマだ。

 サナが姿を現すと、またも拍手が大きくなる。流石に高位貴族しかいないのもあり、声を上げる人はいなかった。しかし拍手は凄まじく、まさに万雷の拍手といった様子だ。

 

 そんなサナを見て、俺はひとまず安堵の息をついた。

 いつも通り吹っ切れたらしく、先程まで情けない声を出していた人物とは思えないほどに堂々とした足取りで階段を降りてくる。


「レイさんの言った通りでしたね」

「だろ?」


 アイリスが小声で言ってきたので俺も小さく頷いておいた。

 サナはそんな俺たちの横を通り過ぎ、仲間たちを従える勇者のように前へと進み出る。


 そして手筈通り、勇者の証である聖刀を流れるような動作で腰の鞘から抜き放つと、その刃を床に突き刺した。

 その瞬間、先ほどまでの拍手が嘘のように止んだ。


「――教皇猊下、並びに教皇代理が入場されます」


 俺たちとは逆側の舞台袖から現れたのは教皇ヨハネスに扮したレニウス、そして老人姿のレニウスを支えるクリスティーナだ。

 

 徹底している。

 俺は二人の姿からそう感じた。この老人が伝説の存在である魔法使いだなんて誰が思うだろうか。

 きっと知っている人間はごく僅か。クリスティーナ以外は誰も知らない可能性すらある。

 恐ろしい限りだ。


 クリスティーナに手を引かれながら、教皇が一歩一歩ゆっくりと階段を降りてくるとサナの横に並び立つ。

 クリスティーナは教皇の横に控えるようにして立った。

 おもわず椅子に座って欲しくなる弱々しさだと思ったら、修道女が椅子を持ってきた。

 本当は必要ないはずだが、教皇はそこに座る。

 そしてクリスティーナが口元に魔術式を記述した。


「この場は猊下に変わり、教皇代理である私クリスティーナ=レイヴァンが務めさせていただきます」


 クリスティーナが一礼するとサナの方を向いた。サナも同じようにクリスティーナと相対する。


「【煌ノ勇者】サナ=スメラギ。此度は魔王討伐、大義でした。レスティナに生きる我ら人類を代表して創世教教皇ヨハネス=キルドシークが感謝を申し上げます。この功績は歴史に刻まれ、長く語り継がれるものとなるでしょう」


 そこでクリスティーナは国の代表者たちの方へ向いた。そして胸に手を当てて宣言を行う。

 

「【煌ノ勇者】とその仲間たちによって魔王討伐は成されました! 我ら創世教は今ここに! 世界に再び平和が齎されたことを宣言いたします!」


 クリスティーナがそう宣言するや否や、再び万雷の拍手が巻き起こった。サナも床から聖刀(フィールエンデ)を引き抜き、大きく掲げる。

 その姿は昔読んだ絵本のような勇者そのものだった。

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