大広間にて
魔王討伐宣言パーティー会場、ニフラム大聖堂大広間。
そこでラナは次々と挨拶に来る各国の代表者の相手をしつつ、仲間たちの晴れ舞台を待っていた。
「ふぅ」
人の列が途切れたところでラナは小さく息をつき、会場を見回す。
大広間には巨大なテーブルが等間隔で並べられ、その上には数々の料理が並べられていた。
聖王国は大陸の中心。よって、各国の様々な特産物が集まる。今テーブルに並べられているのも各地から集められた食材を使った料理だ。
しかしラナは挨拶に追われていて、料理を堪能している時間なんてなかった。
先ほどまでは周囲から漂う良い匂いに我慢することしかできずにいたのだ。生殺し状態である。
だけどそれもようやく一区切り。
……おいしそうだなぁ。
ラナの視線の先には宝石のような色とりどりの色彩豊かなフルーツが並べられたテーブルがあった。
ラナは辺りを確認し、挨拶に来る貴族がいないことを確かめるとテーブルに近づく。そして赤色のフルーツを摘み、口に入れた。
……あまぁ〜。
疲れた身体に糖分が染み渡り、ラナは頬を綻ばせた。
……あとでレイにも教えてあげよっと!
そんな事を思いながらもう一度別のフルーツに手を伸ばそうとしたところ、急足で会場の出口へと向かう金髪の女性が見えた。
……なんだろ?
不思議に思ったが背後から近づいてくる足音を聞いて手を引っ込める。
「お嬢さん、お飲み物はいかがかな?」
聞き覚えのある声にラナが振り返ると、そこにはグラスを二つ持った男がいた。
その脇には青髪を後ろで結った少年が付き添っている。シルエスタ王国第二王子、ヨセフ=イルカス=シルエスタだ。
「これはシウロン陛下、ヨセフ殿下。お久しぶりでございます」
男の名はシウロン=イルカス=シルエスタ。
青い長髪を緩く束ねた男でシルエスタ王国の現国王であり、ラナの父、グライスフィール=ラ=グランゼルの親友だ。
「久しぶりですねラナ姫」
そう言いながらシウロンがラナにグラスを手渡す。
グラスの中には赤い液体が注がれており、上品な香りが漂っていた。ワインである。
日本であればラナの年齢だと飲めないがここはレスティナだ。よって、飲んでも罰せられることはない。
ラナはお礼を言ってからグラスを受け取ると、ワインの香りを楽しんでから口をつけた。
「……口当たりがよくておいしいですね」
「これはシルエスタ王国で作られているワインですからね。当然です」
シウロンが柔和な笑みを浮かべる。
ラナも後でレイにも教えてあげようと心の中にメモをした。
「そういえば、手紙にも書きましたがアイリスから陛下が私の捜索にご助力していただいたと聞いています。その節はありがとうございました」
「礼は結構です。結局無駄骨でしたからね」
ラナが頭を下げるとシウロンは苦笑した。
「それと先日は我が愚息が失礼をいたしました。シルエスタ王国国王として正式に謝罪を。ミローンは王位継承権を剥奪した上で廃嫡としましたので、今後はラナ姫の前に姿を現す事はないでしょう」
「王位継承権の剥奪……それに廃嫡ですか。随分と重い処罰ですね」
ラナはてっきり先日ヨセフが言っていた通り、シルエスタ王国の王都から流刑されると思っていた。ミローンはアレでも長男、即ち王位継承権第一位だ。流刑でも実質王位継承争いからは脱落を意味するが、奇跡でも起きれば再起の目はある。
しかし王位継承権剥奪の上に、廃嫡。それではもはや貴族ですらなくなってしまう。ラナは正直ここまで重い罰が下るとは思っていなかった。
「確かに思い処罰ですが、ミローンに至っては妥当なのですよ。というのもこういった事態は今回が初めてはないのです。加えて今回の件は他国の王族への無礼です。それも我が親友グライスの御息女に対しての。先の一件を考えても、許す事はできません。それがたとえ息子でも……ね」
先の一件とはおそらく婚約破棄に至った事件だとラナは気付いた。シウロンの厳しい処罰は積み重なった罪の精算でしかないのだ。
ならばこそラナに異論はない。
「そうですか……。わかりました。適切なご対応ありがとうございました」
ラナが軽く頭を下げると、シウロンが優しく微笑んだ。
「それこそ礼には及びません。元はといえばシルエスタ王国に非がある問題ですからね」
シウロンがグラスに口をつけ、喉を湿らせてから小さく息をつく。そしてしみじみと言葉を溢した。
「それにしても本当に……本当に無事でよかった。これでグライスも報われるでしょうね」
そう言ったシウロンはまるで娘を見るような優しい目をしていた。
「そう……ですね」
「レイ殿には感謝です。こうしてもう一度会うことができたのですから」
「ええ。レイには本当に感謝しています」
ラナは大切なものを包み込むように胸の前で手を組んだ。
「大切な人を見つけたのですね」
「はい」
「それはよかった。では後ほど、レイ殿を紹介してください。一度お会いしてみたかったのです」
「それはもちろんです」
シウロンとラナが頷き合ったところで、会場に声が響いた。
「時間となりましたので、これよりパーティーを開催とさせて頂きます! 壇上をご覧ください!」
会場で談笑していた全員が一斉に壇上へと目を向けた。




