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聖都での朝

 翌日、俺は朝早くに目を覚ました。

 すぐ隣のカーテンを開けると昇り始めたばかりの太陽がその存在を主張し始めていた。

 天気は雲ひとつない快晴。いいお出かけ日和だ。


 視界いっぱいに広がる(ニフラム・メルス)には既に船が出ており、陽の光を反射してキラキラと輝く湖面に多くの影を落としていた。


 ……なんか旅行って感じだなぁ。


 ふいに、小学生の頃に母さんと旅行に出かけた日のことを思い出した。

 今となってはあれが何処だったのかはわからない。だけど泊まった旅館の窓からは湖が見えていた。

 この湖(ニフラム・メルス)よりはかなり小さい湖だったが、あの時も湖面は朝日を反射してキラキラと輝いていた。

 

 ……あの時はこんな状況になるなんて思ってもみなかったな。


 いつまでも幼馴染三人で遊んでいられると思っていた。

 だけど気付けば異世界に来て、一国の王女と付き合っている。あの頃の俺に言っても鼻で笑われそうなぐらい訳のわからない状況だ。


「人生なにがあるかわかんねぇなぁ〜」


 そんな事を呟いて伸びをする。


「さて、起きるか」


 そろそろ慣れてきた巨大なベットから出ると、俺は洗面所に向かった。

 

「さて、今日はどうするか」


 顔を洗い、着替えを済ませたものの、俺にはやることがない。魔王討伐公表まではあと九日、暇を持て余している状況だ。


 ……たしかカナタは書庫に行くって言ってたよな?


 昨日の謁見のあと、教皇代理であるクリスティーナに書庫に立ち入る許可をもらっていた。

 転移魔術に関して調べてみるらしい。やはりカナタは生粋の魔術師だ。昨日の()()を見ていてもたってもいられなくなったのだろう。

 

 カノンもそれに付いて行った。なにがとは言わないが、なんだか積極的になっている気がする。女子会で何かあったのだろうか。

 ちなみに女子会の内容は聞いていない。薄々何があったのか想像はつくが聞くのは無粋というものだ。

 

 カナタも特に断るような事はなく、カノンがいれば心強いと言っていた。

 そしてそこにお邪魔するのもまた無粋。そもそも魔術師ではない俺が行ったところで言葉通り、邪魔にしかならない。


 ウォーデンは娘のルナリアの所に行くらしい。

 聖都(アルシオン)にいる間は毎日通うと言っていた。娘思いの良い父親だ。

 最近は酒に呑まれる事も無くなった。

 レオと会った事により、ウォーデンにも変化があったのだろう。


 サナはわからない。

 昨日、レーニアを捕まえて話をしていたのを見たが、聖騎士に混ざって訓練でもするのだろうか。

 レーニアが困っていたのを見るに、無理を言っていそうだ。


 問題はラナとアイリスだが、こちらもわからない。

 王族という立場のナニカがあるのかも知れないが特に聞いていない。

 というわけで俺はラナの元へ向かうことにした。

 ただ会いたいだけとも言う。




 ラナの部屋は俺の部屋のすぐ隣だ。

 一応今の俺はラナの護衛という立場なので……というのは言い訳でしかない。単に隣がよかっただけだ。

 

「おはよラナ。いる?」


 ノックをしてから声をかける、

 一瞬、起きているか不安になったが杞憂だったらしい。すぐに部屋の中からラナの声がした。

 

「レイ?」


 パタパタと足音が聞こえると、すぐに扉が開く。そこにいたのは身支度を済ませたラナだった。


「おはよレイ。入って入って」

「ありがと。……アイリスも居たんだ。おはよう」

「おはようございます。レイさん」


 部屋に入るとソファに座り、何かを飲んでいたアイリスがニコリと微笑んだ。


「レイはサイル茶飲む? なんか聖王国で作ってるんだって」


 アイリスが座っているソファの前にはテーブルが一つ。そこには二人分のティーセットが会った。

 アイリスの対面がラナだろう。だから俺はラナの席の隣に腰を下ろすとアイリスに聞いた。

 

「アイリスが飲んでるのもサイル茶?」

「はい。とっても美味しいですよ? 私はこっちの方が好みです」


 地球でも産地に苦味や酸味、コクなどが異なる。

 それはレスティナでも同じらしい。だとすればいつもと違うサイル茶が飲めるというわけで。

 珈琲(コーヒー)好きの俺としては是非ともご相伴に預かりたいという物だ。

 

「それは気になるな。俺も貰っていい?」

「もちろん! ちょっと待ってね〜」


 ラナがキッチンへと小走りで駆けていくと、すぐに戻ってきた。その手にはポットとカップを持っている。

 ラナがカップにサイル茶を注ぐと芳醇で濃厚な香りが漂ってきた。


「どうぞ!」

「ありがと。いただきます」


 お礼を言い、カップを手に取って一口。

 すると珈琲特有の苦味が口の中に広がった。いつも飲んでいるサイル茶より酸味が際立っているような気がする。

 ともあれ。


「美味しいな。だけど俺はいつものヤツのが好きかな」

「私も結構好きだけどいつもの方がいいかなぁ」

「ラナは俺と同じか。まあ飲み慣れてるのもあるんだろうな」


 珈琲は人によってそれぞれ好みが分かれる。

 それは姉妹であっても同じというわけではない。

 

「でも、こういうその地の特産品を飲んだり食べたりするのも旅行の醍醐味だよなぁ」

「だねぇ」

「ですね〜」


 俺たちは三人でソファに背を預け、息を吐いた。

 こういうまったりとした時間は好きだ。幸福を感じる。


「……そういえば二人は何か話してた? 俺、邪魔してない?」


 王族ならではの話をしていたのならと心配になったが、それも杞憂だった。

 

「邪魔なんてしてないですよ。お姉ちゃんが『レイは起きたら来るだろうし待ってよ』って言っていたので二人でこうして待っていたんです」


 特に来ることは伝えていなかったが、ラナにはお見通しだったらしい。


「起こしてくれても良かったのに」

「ううん。急かしたいわけじゃなかったから」

「そっか。なら二人は今日の予定は特になし?」

「うん! 魔王討伐公表までは特にないと思う。何か頼まれたら別だけど」

「私も特にありません」

「なら出掛けようか。せっかくだからニフラム・リンブルでも食べに行こう」

「賛成!」

「行きましょう!」


 こうして俺はラナとアイリスと出掛けることにした。

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