幕間 守護天使の独り言
「これはまた厄介な事になったね」
誰もが寝静まった深夜、ニフラム大聖堂の一室で教皇、もとい老人姿のレニウスがため息を吐いた。
その頭の上では漆黒の駒鳥が腹をパンパンに膨らませ、仰向けになっている。ご満悦といった表情で涎を垂らしている始末だ。
そんなレニウスの手元には一つの名簿があった。
教皇代理であるクリスティーナが作成したそれは、魔王討伐宣言に際して行われるパーティーの参加者名簿だ。
「まったく。よくグランゼル王国の王女二人がいるパーティーに顔を見せようと思ったモノだね。正気を疑うよ」
これから起こる可能性の高い未来に頭痛を感じていた。
「……柊木レイの出方によっては血が流れるね。封印に影響がないといいけど。ファー……いや、今はエトか。エトもしっかり管理してほしいね。……アルスターには言っても無駄だから言わないけどさぁ」
レニウスが頭痛を堪えるように目頭を抑える。
「さて、どうしたものか」
レニウスが懸念しているのはレイに施されている封印への影響だけだ。正直、その参加者がどうなろうと興味はない。
たとえ殺されようとも。
「……別に彼が柊木レイに殺されたところで大勢に影響はない。だだ怒りの感情がどこまで封印に影響を及ぼすかが未知数なんだよね。あの殺戮衝動は厄介だ。……そもそも会わせない……のは無理だろうなぁ」
レニウスはもう一度大きなため息を吐き、結論を出した。
「うん。ラナ=ラ=グランゼルに任せよう」
放置という名の結論を。
レニウスは愛という感情が時にどのような困難であろうと打ち破る力を秘めていることを知っていた。
「まあ、あの子は勇者王に似てるから大丈夫だろう。さすが子孫といったところだね」
レニウスはかつての友に思いを馳せながら、名簿を机の上に投げ捨てた。
ゆっくりと椅子の背もたれにもたれ掛かると大きく息を吐く。
その名簿、帝国の参加者の欄にその名前はあった。
――覇星衆序列第五位【炎帝】ファイマス=イグニステラ。




