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教皇

「そうかい」


 そう言った老人の声はその見た目に反して驚くほどに若々しかった。


「……よろしいのですか?」


 老人の隣に立つクリスティーナが驚きに目を見開きつつも問い掛ける。しかして老人は頷いた。

 

「構わないよ。彼らは大丈夫だ」

「承知いたしました」


 クリスティーナが一歩後ろに下がり、恭しく頭を下げる。すると老人は先程とは打って変わって機敏な動作で立ち上がった。


「こういうこともあるかと思って人払いしたわけだしね。それで、柊木レイ。伝言というのは私から、という事でいいのかな?」


 俺は老人の言葉に頷く。

 

「ああそうだ。俺の中にある天使因子からの伝言だ」

「レイ。まさか……」


 その言葉でラナも気付いたようだ。


「そのまさかだよ。ラナ=ラ=グランゼル」


 老人の背に三対六翼が広げられ、頭上には天輪が出現した。それを見て賢者であり、教皇代理であるクリスティーナが膝をつき(こうべ)を垂れる。

 そして次の瞬間、俺が瞬きをする間に老人は、青年の姿へと変貌を遂げていた。


 金糸のような長髪がふわりと揺れる。


 そこにいたのはかつて月で出会った魔法使い、レニウス=オルトレールだった。


「おいおい。創世教のトップが魔法使い? なんの冗談だ?」

「冗談ではないよ。ウォーデン・フィロー」


 レニウスの言葉通り、思えばヒントは幾つもあった。

 聖都(アルシオン)を守護する解読不可能な魔導具、天之抱擁(てんのほうよう)。レニウスが絡んでいると睨んでいたが、教皇がレニウスならば絡んでいるどころではない。

 そしてルナリアに掛けられた呪いが現状維持とはいえ、止めておけているという事実。何も知らない魔術師が見れば呪いを止めているだけだが、俺たちはアレが使徒の呪いだと予想している。

 つまり使徒という強力無比な存在が掛けた呪いを止めておける魔導具が存在している。そんな物に魔法使いが絡んでいないとは考えにくい。というよりもなにか関与していると考えた方が自然だ。


「そもそも創世教自体、二千年前の大戦時に私が作った組織だしね」

「創世教を作った……?」


 アイリスがレニウスの言葉を小さく反芻する。

 創世教は女神レスティナを信仰する宗教だ。その目的は世界の守護。世界を滅ぼそうとしている邪神と敵対しているレニウスとは目的が一致する。


「そうだよ。アイリス=ラ=グランゼル。頭の良いキミならわかるだろう?」

「中立国として世界中に自分の息のかかった聖騎士を置いておくため……でしょうか?」

「それだけではないけどね。だけど概ね正解だ」

「では……女神レスティナというのは?」


 アイリスが掠れた声で疑問を投げかけた。

 世界(レスティナ)中で信仰されている女神、レスティナは創世神だ。唯一神であり、創世教ではこの世界を創造した存在が女神レスティナだとされている。

 一にして全。世界の全てを司る神。それがこの世界(レスティナ)で信仰されている創世神レスティナだ。

 しかしレニウスが創世教を作ったというのならば、その根幹が揺るがされる事となる。


「その疑問は尤もだね。聡いキミたちならもうわかってると思うけど、この星の人々が思っている存在ではないよ」


 そしてレニウスはあっけらかんと答えた。

 もし敬虔な信徒が聞いたら失神してもおかしくない事実だ。


 ……というか、曲がりなりにも教皇がそんなことを言ってしまってもいいのだろうか。


 そんな俺の視線を感じたのか、レニウスが苦笑する。


「まあでも全く違う存在というわけでもないさ。たしかにレスティナは神ではない。だけど星核(アルティア)、星の核ではある」

「……星核(アルティア)?」


 カノンの呟きにレニウスが頷く。

 

「星の意志……とでも言えば良いのかな? ……ところで柊木レイ。()はどこまで話したかな?」

「ほとんどなにも」


 彼ら魔法使いは俺たちにレスティナという世界を滅びから救う手段を模索してほしいと思っている。

 魔法使いたちはすでに方針を決めているが、手段は複数あった方がいいと俺は天使因子から聞いた。よってレニウスの意見も同じだと言える。

 だからおそらくこれ以上の情報を教えてくれる事はないだろう。


 俺の予想は正しく、レニウスは大仰に頷いた。

 

「なるほど……。ならば私もここら辺にしておくべきだね。続きは自分たちで答えを見つけなさい。その道の行き着く先に私は期待している」

「わかりました……」


 アイリスの表情から納得していない事が伺える。だけど聞いても無駄だと言うこともまたわかっているようだった。


「では本題に入ろうか」


 レニウスが再び玉座に腰掛ける。

 そういえば驚きの連続で忘れていた。そもそも本題にすら入っていないのだ。


「魔王討伐宣言の件でしょうか?」

「その通りだよラナ=ラ=グランゼル。まあ正確には討伐ではないけれどそれはあまり関係ないだろう」


 レニウスが俺を、正しくは俺の胸の中心を見ながら言った。


「その様子だと既に(パンドラ)を開けているようだしね。直ぐに封印は安定するはずさ。私の予想だと順序は逆だったけれどね。嬉しい誤算だよ」


 つまりレニウスは封印が完成してから(パンドラ)を開けると思っていたようだ。


「……っと話が逸れたね。公表は慣例に従って国の代表を集めてパーティーを行うつもりだ。そこでクリスが教皇代理として宣言を行う。だから少し待ってもらうことになる。予定では十日後だね」

「承知いたしました」

「あっ……それと教皇が私だって事は秘密で頼むよ。どこに裏切り者がいるかわからないからね」


 レニウスがさらりと物騒なことを言った。


 ……つまりは創世教も信用ならないと言うことか。


 考えてみれば世界中に根を張る宗教組織だ。

 いくら魔法使いのレニウスとはいえ、全てに目が届くわけではないだろう。

 

 念には念を。

 そんな気概が伝わってくる。

 そしてそれを打ち明けてくれたのは俺たちを信用してのことだ。裏切る訳にはいかない。


「……はい。重々承知しています」


 ラナが深々と頭を下げる。それを見てレニウスは満足そうにニコニコしていた。


「ではあとは十日後に。なにかあればクリスに伝言をしてくれれば私に伝わるようにしておくよ。よろしくね。クリス」

「はっ!」


 クリスティーナが胸に手を当てて会釈をする。するとレニウスが立ち上がった。


「またね」


 金糸のような長髪を翻してレニウスが去っていく。


「……レニウス様。オレから一つ良いでしょうか?」


 しかしそこでウォーデンが声を上げた。

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