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白亜の塔

 俺たちは馬車で来た道を引き返し、聖都(アルシオン)の南西に位置する白亜の塔にやってきた。

 この白亜の塔は医療関係の行政機関である医術庁が入っている塔だ。レスティナ全土で見ても最高峰の医療技術が集まっていると言われている。


「大聖堂もデカかったけどこっちもデカいな」


 一体何階建てなのか。

 白亜の塔は見上げると首が痛くなりそうなほどに高かった。直径もかなり大きい。


「ホントだね〜。東京タワーぐらいある?」

「あるかもなぁ〜」

「なんかザツ!」

「……なにしてんだ。早く行くぞ」


 頭を使わずに会話をしていたら先を歩いていたカナタに呆れた視線を向けられた。既にウォーデンたちは塔の中に入っているらしい。

 俺が足早に歩き出すと、サナも文句を言いながらもちゃんと付いてきた。


 白亜の塔内部はどこか病院に似ていた。

 白を基調とした内装に落ち着いた雰囲気の調度品。正面には受付があり、修道服や白衣を着た人々が忙しなく動き回っている。

 ウォーデンは既に受付で話を済ませたようだった。どうやら俺たち待ちだったらしい。


「こっちだ」


 俺たち六人は列を成してウォーデンに付いていく。すると一つの扉の前で立ち止まった。


 ……扉というよりもこれは。


「エレベーターか?」


 扉の上部にはランプのような物が備え付けられており、それが順番に点灯したり消灯したりを繰り返していた。

 耳をすませば内部から風の音のようなものも聞こえる。

 俺の呟きに隣にいたラナが首を傾げた。


「えれべーたー?」

「地球には高い建物の階を楽に移動する機械があるんだ。それがエレベーター。ちょうどこんな感じなんだよ」

「へ〜。同じ物なのかな?」


 と、その時、カーンとランプの横に取り付けられていた鐘が鳴った。同時に扉が開く。

 そこには人が十人ほど入れそうな空間があった。


「まんまエレベーターだな」


 つい苦笑が漏れる。サナとカナタも同じような表情をしていた。

 

 なんとも時代錯誤な気がするが、この世界にはサナや俺たちのように地球から召喚された存在がいる。

 もちろんレスティナの人々が開発した可能性もあるが、召喚された勇者がエレベーターの存在を伝えた可能性も十分ありえる。

 つまりエレベーターがあったとしても不思議なことではないのだ。


 ……違和感はあるけどな。

 

「そっちの世界ではえれべーたーっていうのか。レスティナ(こっち)では昇降板って言うんだ。まあオレも()以外では見たことないけどな」


 まずウォーデンがエレベーター改め、昇降板に乗り込む。


「ちなみにニフラム大聖堂にもあるよ。前に来た時に乗ったから」

「私も初めて見た時は驚きました」

「……わたしははじめて」


 どうやらラナとアイリスは乗ったことがあるらしく物怖じせずに乗り込んでいく。

 申告通りはじめてのカノンはどこかおっかなびっくりと言った様子だ。


「これ安全だよね!? 大丈夫だよね!? 落ちないよね!?」

「まあもし落ちても俺らならなんとかなんだろ」

「確かに」


 カナタが淡々と言いつつ昇降板に乗り込む。その服の裾をカノンがちょこんと摘んでいた。どうやら不安らしい。

 なんとも微笑ましいものだ。


「……なんだよ」

「なんでもねぇよ」


 俺もみんなに続いて昇降板に乗り込む。

 すると、ウォーデンがボタンを操作。扉が閉まり、身体に重力が掛かるのを感じる。


 ……しっかし、どうやって動いてるんだ?

 

 地球のエレベーターは釣合おもりを用いたものが一般的だと聞いた事があるが、これはなんだか違う気がする。


「ラナ。これどうやって動いてるかわかる?」

「んー多分、風の魔術なんだけど前にお父様が国の技術者に作らせようとして失敗したんだよね。魔力が少なすぎたら動かないし多すぎたら飛んでいっちゃうんだって」

「飛んでいっちゃうって……。なんか怖いな」


 怪我人が出なかったのか心配になる。

 ともあれ、高度な技術である事は間違いなさそうだ。

 

 そんな会話をしているとものの数秒で昇降板内部に取り付けられた鐘が鳴り、扉が開いた。

 扉のランプは最上階を示している。


 昇降板から降りると警備についていた聖騎士にウォーデンが懐から取り出した虹色に輝くカードを見せる。すると聖騎士は一度だけお辞儀をした。

 

 ウォーデンが見せたのは冒険者の身分証明書ともいうべき冒険者証だ。俺もA級を示す金色のカードを持っている。 


「こっちだ」


 ウォーデンの先導に続き、廊下を進んでいく。いくつか角を曲がるとやがて一つの扉にたどり着いた。


「ここだ」


 白一色の無機質な扉だ。余計な装飾が一切ない。

 そんな扉にウォーデンが手を翳す。するとカチャリと鍵が開く音がした。魔術的な施錠だ。


「ふぅ……」


 ウォーデンは一度大きく息を吐くと、解錠された扉を開けた。

 

「久しぶり。ルナ」


 病室に足を踏み入れたウォーデンは今まで聞いたこともない優しげな声音で、ベットで眠りにつく少女に声を掛けた。

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