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聖騎士レーニア・シナトラスト

「貴様! 何が目的だ!!!」


 美しい装飾の施された剣と身体全体を覆い隠せるほどの大盾を構えた聖騎士が吼える。

 陽光を反射して金色に輝く長髪を靡かせた女性の聖騎士だ。瞳の色も髪と同じ金色。その眼光は鋭く、力強い意志を感じる。

 

 その隙のない構えから相当な実力者だと俺は判断した。しかし俺たちの敵になり得るかと言われるとそうではない。


「なんだなんだ!?」


 聖騎士の登場に入国の待機列が騒がしくなる。

 馬車を置いて退避する者、こちらに己の武器を向けている者と反応は様々だ。

 すると騒ぎに気付いたのか、ラナが凄まじい速度向かってきた。


「レイ!? どういう状況!?」

「……んーっと。わからん!」


 そうとしか言いようがない。

 なにせ俺は何もしていない。急に聖騎士に襲われただけだ。

 

「……ん? んぅ?」


 ラナは俺の言葉に毒気を抜かれたように眉を八の字にした。


「なっ……何が目的だと聞いている!?」


 聖騎士の声は震えていた。

 よくよく見れば、構えた剣先が僅かに揺れている。その表情に宿る感情は恐怖だろうか。


「レイ。何かしたの?」

「いやなにも? いきなり襲われただけ」


 そんなやりとりをしていると、聖騎士たちがぞろぞろと湧いてきた。


「レーニア様! どうなされたのですか!?」


 どうやら金髪の女性聖騎士はレーニアと言うらしい。そして聖騎士の態度からそこそこの地位に就いているのだとわかる。


 ……鎧が普通だから団長ではないな。副団長か?


 しかしなぜ副団長が出てくるのか。やはり気付いてないだけで何かしてしまったのだろうか。

 

「あの男を取り囲め! 聖都を……守るぞ!」


 頭を悩ませているうちにどんどんと状況が進んでいく。

 しかしレーニアに話しかけた聖騎士は何やら困惑している様子だ。判断に悩んでいる。

 もしかしたら直属の部下ではないのかも知れない。


「あの男がどうかされたのですか?」

「ヤツは邪悪だ! 聖都に入れるわけにはいかない!」


 邪悪。

 その言葉で何が起きているのか薄々理解した。


「レイ。これって……」

「うん。多分ラナが思ってる通り」


 俺は悪魔因子を(パンドラ)に戻して、両手を上げる。


「あーっと。俺に敵対する意思はない。まずは話し合――」

「――嘘をつくな!」


 俺の言葉を遮るようにして大声を上げるレーニア。まるで話が通じない。これには流石にイラッとくる。


「レイ。わかるけど落ち着いて。ここは私が……」


 ラナが一歩前に出て、優雅な仕草で胸に手を当てた。


「私のグランゼル王国第一王女、ラナ=ラ=グランゼルです! 教皇猊下の招待を受け参りました! 聖騎士殿! まずは武器を収めて頂けますか!?」

「なっ!? 危険です! その男から離れてください!」


 しかしレーニアは聞く耳を持たない。ラナが僅かに俯き、眉根を寄せる。


「……危険? ……レイが危険? ふーん?」


 その声音に不穏なモノを感じた。だからラナの肩に手を置いて引き止める。

 

「ラナさんラナさん。ちょっと落ち着いて」

「私は落ち着いてるよ? 大丈夫。何も問題ないから」


 とても落ち着いている人が発する声音ではない。

 怒ってくれるのは嬉しいが。


 ……んー。どうするか。


 レーニアと呼ばれた聖騎士はまるで聞く耳を持たない。

 なるべくなら穏便に解決したいが、じきに聖騎士が俺たちを取り囲むだろう。

 

 すると馬車の方からカナタとカノンが歩いてきた。カナタは寝ていたのかあくびをしている。

 カノンはいつもの無表情だ。アイリスとウォーデンは見張りのために馬車に残ったのだろう。サナはさっきまで寝てたのでまだ寝ていそうだ。


「どうした? 揉め事か?」

「うん。揉め事。あの聖騎士、多分俺の邪神因子を感知してる」


 俺の身に宿る闇、もとい邪神因子は邪悪そのものだ。

 聖騎士があれだけビビるのも頷ける。

 

「……あれ魔眼」


 カノンが小さく呟いた。


「魔眼?」

「……ん。……魔力が眼に集まってる」

「なるほど。どうにかできたりするか?」

「……気絶させるのがはやい」


 そういってカノンが手のひらを聖騎士に向ける。すると明らかな敵対行動に、周囲にいた聖騎士たちが一斉に剣を抜いた。


「……全員やる?」

「カノン。ちょっと待とうか。ややこしくしてる」

「……ぁ。……ごめんなさい」


 カナタの言葉にカノンがしゅんとして手を下げる。しかし聖騎士たちは一瞬たりとも気を抜かない。

 そこは流石というべきか。完全に敵認定されてしまった。


 ……いや、感心してる場合じゃねぇな。


 話の通じない聖騎士、そして困惑しながらも従う部下たち。カノンの言う通り気絶させるのが手っ取り早い。

 だけどそれをやったら厄介な事になるのは目に見えている。


 ……うーん。


 と、頭を悩ませていると門の方からまた一人の聖騎士が歩いてきた。


「レーニア。剣を収めなさい」


 聖騎士は諭すように言うと、レーニアの前に進み出た。

 柔和な表情をした男性の聖騎士だ。暗めの茶髪を低い位置で結っている。

 

 レーニアを見るその瞳には優しげな光が宿っていた。


「……お父様。ですが……!」

「初めまして勇者パーティの皆様。僕はコルニエル・シナトラストと申します。まずは娘の無礼をお許しください」


 そう言って真摯に頭を下げた聖騎士の鎧には黄金の装飾が施されていた。

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