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出立

 宣言通りヴァレリアとの謁見から一週間後の早朝、俺たちは城の裏手に集まっていた。


「……何とか乗り越えられたな」

「……ホントにな」


 俺とカナタは朝日に目を細めながら互いに苦笑する。

 

 この一週間は本当に忙しかった。

 ラナに任された仕事を早々に片付け、王族にしか出来ない仕事以外を文官たちに振り分け、有事の際のマニュアルを使徒や至天を想定して更新し、貴族たちと様々調整を行い、その他いろいろと単純にやる事が多すぎた。


 人外じみた身体を持っている俺ですら疲労困憊だ。

 ちなみにラナとアイリスは俺たち以上に仕事をこなしていた。本当にすごいとしか言いようがない。

 そんなラナは今、仕立てのいい服を身につけた貴族と話をしている。


 ……あれはウェルズエル公爵か。


 ルクス=ラ=ヴェルズエル。

 立派な髭を蓄えた老貴族だ。

 ラナが不在の間、アイリスと共に国を支えた高位貴族である。ノブリスオブリージュを体現したような性格で王家への忠誠が厚く、信頼できる人物だと以前ラナが言っていた。

 王女二人の不在を任せるに足る人物と言ったところか。


「ではルクス。あとは頼みますね」

「お任せください」


 ルクスは胸に手を当てて恭しく頭を下げる。そして一礼すると身を翻し、去っていった。

 ルクスを見送るとラナはこちらに近づいてくる。


「お待たせ! こっちは大丈夫そう!」

「了解。じゃあ――」

「――お姉さま〜〜〜!!!」


 小さな影がラナに向かって凄まじい勢いで突っ込んできた。俺は二人の間に入るとその小さな影の首根っこを掴み、突撃を阻止する。


「ぐぇっ!」


 もはや定番となったカエルが潰れたような声を上げて項垂れたのは黄昏旅団の団長、エミリー=ストリープだ。


「申し訳ございません! ラナ様、レイ様!」


 その後ろからミリセントが小走りに駆けてくる。

 これもいつも通り。なので俺はエミリーを放り投げる。すると空中で一回転し、スタッと着地した。

 雑な扱いをしているが、ここ一ヶ月の関わりでこれぐらいが丁度いいと俺は理解した。


「構いませんよ。エミリーもミリセントも留守の間はお願いしますね」

「お任せくださいお姉さま! 命に変えても王都をお守りします! 安心していってらっしゃいませ!」


 ラナは王都に滞在していた黄昏旅団を引き留めていた。

 先日の氾濫現象の依頼で金はあるらしく、しばらくは休暇の予定だったらしい。

 だからラナは依頼という形で黄昏旅団にはしばらくの間、王都に滞在してもらうことにした。もしもの事があったら頼む、と。

 その間は白光騎士団、魔術師団と共に訓練をするらしい。

 各団長はいい刺激になると喜んでいた。

 

 ちなみに煌夜の面々は仲間の名前が記された慰霊碑に祈りを捧げたあと、すぐに出立しており王都にはもういない。


「頼もしいですね」

「S級冒険者だからなぁ」


 聞いた話だが、氾濫現象の際は西門に出現したほぼ全ての魔物をエミリーが討伐したらしい。ミリセントによるとラナにいいところを見せようとかなり張り切ったのだとか。

 よって黄昏旅団の被害はほぼゼロ。

 担当した西門の金剛迷宮はB級だったが、それでもS級の魔物は複数いたらしい。それをエミリーはほぼ単騎で壊滅せしめた。


 おそらくエミリーはS級冒険者の中でも上位に位置する実力を持っている。


 ……威厳なんて物は微塵もないが。

 

 好きあらばラナに抱きつこうとしているエミリーを見てそんな事を思った。

 はたから見たらこれがS級冒険者とは誰も思うまい。

 

「おはようございます。ラナ殿下」

「おはようございます。ファレット殿」


 そこへ聖騎士が声を掛けてきた。

 一週間前、謁見の間に来ていたもう一人の聖騎士、第二聖騎士団副団長のファレット・リフレンティアだ。


「そろそろ天之抱擁の起動時間となります」

 

 天之抱擁は時間となり次第、騎士団長であるヴァレリアが起動する手筈となっている。

 ちなみに俺でさえどこに設置されているのかは知らない。知っているのはラナとヴァレリアだけだ。

 ラナは俺含め勇者パーティ全員にも共有しようとしたのだが、俺の提案でやめておいてもらった。

 知っている人は少ない方がいい。


「始まったね」


 ラナの言葉通り、空に巨大な()()()が浮かび上がり、王都全体を覆っていく。

 やがて魔法陣は王都全体をすっぽりと収めた後、一際大きく輝き、消えた。


 ……やっぱりレニウスが関係してるのは確定だな。


 魔術式ではなく魔法陣が浮かび上がったのがその証拠だ。

 

「これで完了です。我ら第二聖騎士団は王都の守護にまわります」

「よろしくお願いします」


 ファレットは頭を下げると城の方へ戻って行った。


「さて、俺たちも行きますか」

「そうだね。ではエミリー、ミリセント。あとは頼みます」

「お任せをっ!」

「お任せください」


 ラナは貴族式の礼を執る二人に微笑みかけると馬車に乗り込むべく歩き出す。俺もエスコートするべく、すぐに後を追った。


 聖王国までは約一月の道のりだ。

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