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聖王国からの使者

 勇者会議を一時中断し、俺たちは謁見の間に来ていた。


 何度か来たことはあるが、いつ来ても慣れない。

 豪華すぎるのだ。平民、というより日本に住んでいた一市民としてこれほど豪華な空間は見た事がない。

 

 天井からは一体いくらするのか見当もつかないほどに宝石が散りばめられたシャンデリア。石造りの床には金の刺繍が施された巨大な絨毯が敷かれている。

 

 一段高くなった場所にある玉座は星剣ラ=グランゼルをモチーフに作られているらしく、一つの巨大な水晶(クリスタル)から削り出されているのだとか。

 なんというか、凄まじいという言葉しか出てこない。


 そんな水晶(クリスタル)で出来た玉座にはラナが座っている。いずれは女王になるのだから当然と言えば当然だ。


 ……いつか俺もこの椅子に座ることになるんだよなぁ。


 ラナの隣に置かれている椅子を見ながらそんな事を思う。

 玉座の両脇には黄金をあしらった立派な椅子が置かれており、この椅子には王族が座ることになっている。

 現在は一つが空席。もう一つにはアイリスが座っている。

 つまりラナと結婚したら俺の席だ。


 ……慣れる日は来るのだろうか。

 

 ちなみに俺はラナの専属親衛隊、蒼氷騎士団の団長として隣で控えるように立っている。一応は完全武装だ。

 愛刀である雪月花は鎧武者との戦いで粉々に砕けてしまっており、現在修復中。よって今は白光騎士に支給される剣を差している。

 これでも業物らしいがもし、万が一戦いになったとしても使わないだろう。因子を使って刀を作り出した方が手に馴染む。


「お姉ちゃん。みんなはどうしてもらう?」


 アイリスが玉座に座るラナに聞いた。

 一応この場には勇者パーティの全員がいる。サナ以外の皆は蒼氷騎士の位を持っているため、この場にいてもおかしくはない。

 サナは勇者なのでそこら辺はあまり関係ないらしい。


「サナは勇者だからカナタとカノンが護衛について。こういうのはポーズが大事だから」

「了解」

「……ん」


 向かって左の一段低くなった場所で手持ち無沙汰にしていたサナの両脇にカナタとカノンが付く。ウォーデンはその反対側だ。


「頼むよ護衛諸君!」

「謁見中はやめろよ?」

「……ハイ」


 早速ふざけ始めたサナをカナタが嗜めていた。本当に余計なことはしないで欲しいと願うばかりだ。


 ……まあそこら辺は流石に弁えてるか。


 するとその時、謁見の間にノックが響いた。


「使者様をお連れしました」

「お通ししてください!」


 ラナの返答を聞き、両開きの扉がゆっくりと開いていく。

 そうして姿を現したのは、聖騎士が着用する純白の鎧を身につけた騎士が二人。

 二人とも女性だ。

 長くウェーブの掛かった金髪を持つ女性と、赤みがかった髪をツインテールにした女性。

 そのうちの一人、金髪の女性の鎧には黄金の装飾が施されていた。


 ……ん? 騎士団長か?


 創世教に所属する聖騎士は全て純白の鎧を纏っている。しかし七つある騎士団を束ねる長の鎧には黄金の装飾が施されていると文献で見た。


 ……でもなんでだ?


 わざわざ使者として騎士団長がくる理由がわからない。

 俺は何が起きても対処できるように一段階警戒心を引き上げる。


 そんな事をしていると聖騎士の二人は玉座の前まで来て膝を突いた。


「唐突な訪問で申し訳ございません。謁見の機会を頂き感謝いたします。私の名はヴィレリア・エルフィード。第二聖騎士団の団長を勤めております。この度は猊下より書状を預かって参りました」


 金髪の女性改め、ヴィレリアが懐から書状を取り出し、恭しく差し出してくる。

 なので俺はヴァレリアの元へと歩いていき書状を受け取った。それを戻ってラナに手渡す。


 ……多分これであってるよな?


 つい先程、ラナからこういう事もあるだろうと聞いていたのでなんとか対応できた。

 そんな事を思っているとラナは書状の封を解き、素早く目を通していく。

 僅か数秒で読み終わったのか、顔を上げて聖騎士の二人を見た。


「やはり魔王討伐の件ですね」

「はい。正式に公表するため、勇者パーティの皆様には聖王国へお越しいただきたいのです」


 ラナが俺に書状を渡してきたので受け取って目を通す。

 前半は長々として挨拶が書かれていたので読み飛ばすと、後半には確かにそう書いてあった。とても仰々しく。


 ……しっかし間が悪いな。


 これからウォーデンの娘、ルナがいる場所へ行こうとしていたところでこの招集。

 さてどうしたものかとウォーデンに視線を向けると目が合った。

 ウォーデンが俺の隣まで来ると小さく耳打ちする。


「大丈夫だ。ルナがいるのも聖王国だから都合がいい」

「……それは好都合だな」


 俺はラナに耳打ちをすると安堵したように微笑んだ。

 そして再び聖騎士の方を向く。


「わかりました。勇者パーティの全員を向かわせます」


 ……ん? この言い方だとラナは来ないのか?


 と思ったが改めて考えたらそれが普通だろう。

 ラナは王女だ。アイリスが国を離れる上、ラナも離れれば王族が不在となってしまう。それは避けるべきだろう。


「……」


 しかしそれだと長い間、ラナと離れることになる。

 せっかく一緒にいられるようになったというのに憂鬱だ。一気に行きたくなくなってくる。

 そんな事を思っているとヴァレリアが口を開いた。


「教皇猊下はラナ殿下にもお越しいただきたいと……」

「私ですか? 勇者パーティの一員ではありませんよ?」

「しかし猊下は必要なことだと」


 そう言ってヴァレリアは頭を下げる。


「ですが国を空けるわけには……」


 俺としてはラナも一緒だと嬉しいが、それだと様々な問題が発生してしまう。

 王族が国を空けるのはマズイという理由もたしかにある。しかしこちらは臣下の忠誠が厚いグランゼル王国ならば許容できる範囲だろう。

 

 一番の問題は戦力的な物だ。

 俺たちには使徒や至天といった強大な敵がいる。

 そういう意味でも星剣適合者であるラナが国を空けるのは危険だ。


 ……だけど俺たちが離れたらラナ一人か。


 それはそれで心配だ。

 序列第二位以下の至天ならば問題ないだろう。しかしレオのような第一位は文字通り別格だった。

 彼らが二人以上同時に襲ってきた場合、いくら星剣適合者であるラナでも厳しい戦いになるだろう。

 ますます行きたくなくなってくる。


「その為に騎士団長である私が参りました」


 ラナの葛藤を察したのかヴァレリアが懐から手のひら台の立方体を取り出した。

 色は純白。表面には幾何学模様が彫られている。


「魔導具……ですか?」

天之抱擁(てんのほうよう)……といえばお分かりになりますか?」

「なっ!?」


 ラナが驚きに目を見開く。俺も内心かなり驚いている。


 天之抱擁。

 それは聖王国の聖都アルシオンを守護する大規模結界魔導具の名称だ。

 聖王国が建国されてから約二千年もの間、起動し続けている最古の魔導具と言われている。

 現代の魔術では再現できず、解読もできていないまごう事なき遺物(オーパーツ)

 それがこんなに小さな立方体だとは。


「まさか……複数存在したのですか?」

「……はい」


 ……さすがに何個あるとは明言してくれないか。ともあれ多分レニウス関係だろうなぁ。


 解読不可能な魔導具。

 それはおそらく魔法で作り出した物だからではないか。そうならば魔術師が解読できないのも当然だ。


 ……それに結界……守護だもんな。


 彼は守護という概念を司る魔法使いだ。天之抱擁は守りに重きを置いた結界だと聞く。だから可能性はあり得る、どころか高いように思う。

 

 それにレニウスが二千年前から生きていることは本人の言葉から疑いようもない。もしかしたら聖王国の建国にも関わっている可能性すらある。

 

「天之抱擁を王都に張ります。そして殿下が留守の間、我らが身命を賭して王都を守護します」

「……」


 ラナは沈黙した。

 他国の騎士団を自国に常駐させるのは危険な行為だ。しかし聖騎士たちにその心配はいらない。

 聖王国は人界の守護を理念としているからだ。わざわざ他国で争いを起こすのはその理念に反する。

 各国に存在する迷宮都市に聖騎士が常駐出来ているのもその理念あってこそだ。


 だからこそ問題は天之抱擁を信頼していいかどうかだろう。作った本人に直接聞ければ手っ取り早いのだが、()()以降(パンドラ)天使因子(レニウス)とは会えていない。

 おそらくもう会うつもりはないのだろう。

 よって判断はラナに任せるしかない。


 しばらくの沈黙の後、ラナは口を開いた。


「……わかりました。聖王国へは私も同行します」


 どうやら信頼することに決めたようだ。

 ヒトである俺にはただの立方体にしか見えないが、魔術師であるラナは何かを感じ取ったのかもしれない。

 

「ただし条件があります」

「なんでしょうか?」

「まず有事の際は白光騎士団の指揮下に入っていただきます」

「もちろんでございます。我らとしてもそちらの方が動きやすい」

「ならば結構です。それと、諸々の準備がいるので出発は二週間……いえ、一週間ほど時間をいただきます」

「承知いたしました。その旨、教皇猊下にお伝えさせていただきます」


 ラナも同行してくれるのは個人的に嬉しい。

 だけど王女の二人はこれから忙しくなるだろう。調整やらなんやらが山ほど必要に違いない。


 ……なにか手伝える事があればいいけど。


 そんなことを思いながら退室する聖騎士二人を見送った。

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