第三回勇者会議
「第三回勇者会議を開催しますっ!」
凱旋祭から約一月後、俺たち勇者パーティの面々はもはや恒例となった大会議室に集まっていた。
招集を掛けたのはウォーデン。それだけでこれから話される内容は想像がつくというものだ。
「ほら拍手拍手!」
まばらな拍手にサナが文句を言う。これもいつも通りの光景。そんなサナにカナタが円卓に肩肘を突きながら呆れたように目を細める。
「サナ……。それ毎回やるつもりか?」
「むぅっ! いいじゃん! こういうのは形が大事なんだよ形が!!!」
サナが円卓を手のひらでバシバシと叩き、唇を尖らせる。
その様子にラナとアイリスは苦笑しつつも、優しげな視線を向けていた。さすが姉妹。表情がよく似ている。
するとビシィッと効果音がつきそうな勢いでサナが人差し指をむけてきた。
「レイですら拍手してるんだよ!? それでもカナタはやらないの?」
巻き込まれないように静観していたのだが、イヤな予感しかしない。本当に勘弁してほしい。
「サナがめんどくさいからやってるだけだろ。しょうがなくだよしょうがなく」
「めんどくさい!? しょうがなく!? レイ!?」
サナが首をぐりんっと回して俺を見る。
……カナタの野郎、しれっと巻き込みやがったな。
カナタを恨めしげに睨むと口に手を当てて笑いを堪えていた。ふざけんな。
「別に他意はねぇよ。そして俺を巻き込むんじゃねぇ」
「うわ! めんどくさそうじゃん!!!」
……よくわかってんじゃん。
とは思いつつも口には出さない。経験上いつまで経っても話が進まなくなる。
「はいはい。話が進まないからそこまでな」
「あしらうな!」
「じゃあウォーデン。話してくれるか?」
いまだ文句を言っているサナを無視してウォーデンに話を振る。
これから真面目な話をすると言うのにこの空気。どうしてくれるんだ。
ウォーデンも苦笑いしている。
「ああ」
ウォーデンが頷くと空気を変えるべく一つ咳払い。流石のサナもそれで口を閉じた。未だ不満そうに頬を膨らませているのはご愛嬌だ。
「まずはいきなり呼び出してすまない。薄々勘づいてると思うが、俺とレオの関係について説明させてもらう」
やはりというべきか、俺の予想通りだ。
「ヤツの名はレオ・アーガストルム。俺とは幼馴染で親友だった男だ。そして……」
ウォーデンは一度息を吐くと、ゆっくりとその言葉を口にした。
「オレの妻を殺し、娘に呪いを掛けた仇でもある」
眉を顰めざるを得ない事実。
――シンシアを殺し、ルナを呪ったお前を俺は許さない。
あの時、ウォーデンはそう言った。
何があったのかはわからない。だけど親友であった男に妻を殺され、娘には呪いを掛けられる。
それは、悲劇だ。
大会議室を静寂が支配する。それほどに重い現実。しかし沈黙を破ったのは当事者であるウォーデンだった。
「悪いな。こんな話を聞かせて。だけどそんな深刻にならないでくれ。過ぎた話だ」
ウォーデンが曖昧に微笑む。
本人がそう言うのならばその意向に添うべきだろう。
「話してくれてありがとうウォーデン。それで勇者パーティに入った本当の目的も聞かせてくれるか?」
嘘はついていない。しかし真実も言っていない。俺とラナは少なくともそう考えていた。
「金だ。そこに嘘はない。娘……ルナの命を繋ぎ止めるにはとにかく金がいるからな」
「ギャンブルでスッたってのは?」
「すまない。そっちは嘘だ。ギャンブルは結婚した時から一度もやってない」
「なるほどな」
大した嘘ではない。
確かに酒で潰れているところは見たことがあるが、実際にギャンブルをしているところは見た事がなかった。
たびたびギャンブルで外出していたが、それは別の事をやっていたのだろう。おそらくは娘に関係する事を。
「ウォーデン。呪いの情報は?」
カナタが静かに問う。
「いろいろな国の人間に診てもらったが、ほとんど分かってない状況だ」
「……なにか、外見に変化はある?」
カノンが眉を顰めながらも呟くように聞いた。
「全身に赤い蛇のような紋様が浮かんでいるな」
「……症状は?」
「ずっと昏睡状態だ。呪いを抑える魔導具で何とか進行を抑えてるがずっと苦しそうに……」
容体が芳しくないのか、ウォーデンは机に視線を落とした。
「カノン。その呪いに心当たりはあるか?」
カノンは呪いの専門家だ。今の少ない情報でなにかわかるかと期待したのだが、小さく首を振った。
「……直接診てみないとわからない」
「そう……か」
ならばまずはカノンに診てもらうのが先決だろう。だけどその前に――。
「それでウォーデン。なんで隠してたんだ?」
別に隠す必要はなかった……と俺は思う。
というよりも打ち明けていた方がウォーデンにとってメリットが大きい。
なにせ勇者パーティにはカノンは言わずもがな、聖女であるアイリスもいる。二人が娘の容体を診ればなにかわかるだろう。
苦しんでいると言うのならば一分、一秒でもはやく診せるべきだ。父親であるウォーデンもそれはわかっているはず。
なのにウォーデンは言わなかった。
「打算だよ。初めに打ち明けるより、恩を売れるだけ売ってから頼めば断られる事はないだろ?」
「恩ならラナを救出した段階で十分すぎるほどだろ。言えるタイミングはもっとあったはずだ」
「その通りだな。オレが頼めばお前たちは断らない。それはわかっていた。だけどルナがいるのはグランゼル王国じゃない」
その言葉で俺は理解した。
「――つまり、俺のせいか」
「いや、わるい。レイのせいって言いたかったわけじゃない。ただタイミングが悪かっただけだ。んで今はタイミングがいい。だから改めて頼む」
ウォーデンが机に手を突き、深々と頭を下げる。
「オレに力を貸してくれ」
答えは既に決まっている。
「もちろんだ。ウォーデンには恩があるからな」
全員を代表して俺は頷く。仲間たちの顔を見回すが、拒絶する人間など一人もいない。
「それでウォーデンさん。ルナちゃんがいるのはどこの国なの?」
「ああ、それは――」
――コンコンッ
っとその時、ウォーデンの言葉を遮るようにして大会議室にノックが響いた。
「ごめんウォーデンさん。――入って大丈夫です!」
ラナがウォーデンに軽く頭を下げてから声を張り上げる。すると白銀の鎧を纏った騎士が現れた。
騎士は入室するなりすぐに膝を突く。
「会議中失礼します! 聖王国からの使者を名乗る聖騎士がラナ様と謁見を求めています!」
誤字脱字の指摘助かります。
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