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在る魔女の忌むべき伝承

 遠い昔、大陸北西部にノヴァリア帝国という国がありました。元は極寒の土地という過酷な環境ながらも発展を遂げてきた国でした。

 しかしある時から肥沃な大地を求め、侵略を行うようになりました。結果としてノヴァリア帝国は幾つもの戦いの果てに大国となるまでに成長しました。


 そんなノヴァリア帝国に、ある時一人の少女が生まれます。名をセシリア=ルヴァン=ノヴァリアと言いました。

 その名の通り、ノヴァリア帝国の第五皇女です。


 栄華を誇る帝国。その皇女。

 王位継承権がほとんど無いに等しいとはいえ、その身分は恵まれた物である筈でした。

 しかし、セシリアに待ち受けていた運命は酷く残酷でした。

 彼女は生まれながらにして、目に光を宿していなかったのです。暗闇の中に生きる者、それがセシリアでした。


 加えてノヴァリア帝国には悪しき風習がありました。

 身体的な欠陥を持つ子供を忌子として扱うのです。

 忌子は不吉の象徴。存在そのものが忌避されます。だから無い物として扱わなければなりません。

 それは王族とて例外ではなく、セシリアは塔に幽閉されました。


 塔へ訪れる兄弟たちはセシリアに石を投げたり、魔術を放ったりして迫害しました。

 そんな日々が何年も続き、セシリアの感情は死んでしまいました。


 そんな中、悲劇が起こります。

 隣国との国境付近で厄災(氾濫現象)が起こったのです。何千、何万もの魔物が帝国へと押し寄せました。

 その過程で、幾つもの領土が更地となり、幾つもの命が失われました。

 七日七晩にも及ぶ帝都防衛戦の末、ノヴァリア帝国は壊滅的な被害を受けながらも、魔物を押し返しました。


 歓声に沸き立つ帝都。しかしながら犠牲が多すぎました。

 家族を亡くした者、恋人を亡くした者。そのような者たちは絶望に涙を流しました。


 そんな時、誰かが言ったのです。


 ――魔女の仕業に違いない、と。


 それからセシリアが魔女となるのに時間は掛かりませんでした。これ幸いと、皇帝が民の怒りの矛先をセシリアに向けたのです。


 光を知らぬ深淵の魔女が、世界を滅ぼす為に魔物の大軍を遣わせたのだと。


 疑う者は誰一人として居ませんでした。

 

 やがて民の怒りは頂天に達し、セシリアは火刑に処されることとなりました。火刑台に向かう中、セシリアは多くの人々から石を投げられました。


 しかしセシリアは何も思いませんでした。

 怒りも悲しみも何もかもがありませんでした。


 そしてセシリアは火刑に処されました。


 足元に火がつけられ、身体が焼かれていきます。

 今までに経験したことのない地獄の苦しみ。そんな中で、死んでいた心が昏い光を灯しました。

 それは深淵よりも暗く、奈落よりも深い怒りでした。


 しかしセシリアは盲目で非力な少女でしかありません。

 この昏き光も、身体と共に燃え尽きる筈でした。しかしセシリアは深淵の中であるものを目にします。


 何も映らないはずの視界に人影が見えたのです。

 人影は空間を塗りつぶした様に真っ白なヒトガタでした。

 

 そのヒトガタは口に卑しい()みを張り付けてセシリアに手を伸ばします。


「世界を滅ぼしたくはないかい?」


 昏く、悍ましい気配。

 しかしセシリアは常日頃からもっと悍ましいモノを見てきました。だからこそ、その手を取るのに躊躇はありませんでした。


 その日、魔女に仕立て上げられた少女は本当の意味で魔女となりました。



 

 ――めでたしめでたし。

お待たせしました!

第6章、無常氷山編

11月2日の土曜日から再開します!

もうしばらくお待ちください!


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