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カノンの恋心

「本題! それはズバリ! カノンちゃんの恋についてです!」


 ぼすんとベットに拳を振り下ろしたサナが意気揚々と声を張り上げる。

 テンションは最高潮。もはやサナを止められる者はいない。


「まずカノンちゃん。前提として、ここにいるみんなはカノンちゃんの気持ちに気付いています!」

「……うっ」


 カノンが言葉を詰まらせ、おずおずとラナとアイリスを見る。視線を向けられた二人は姉妹らしく、よく似た苦笑を浮かべつつも頷いた。

 

「……そ、そんなに……わかりやすかった?」


 もはや言い逃れの出来ない状況にカノンは諦めた。


「わかりやすいというか……」

「わからない人いるの? ってぐらい」


 王女姉妹が目を見合わせ、追撃を掛ける。

 

「……うぅ。……その……カナタにもバレちゃってるかな?」

「まあカナタはどこかのラノベ主人公みたいに鈍感じゃないから十中八九気付いてると思うよ」


 実際にカナタから聞いているサナだが、流石にそこに言及するほど愚かではない。

 

「ラノ……なに?」

「日本で流行ってる小説! ヒロインからのわっっっかりやすい好意に何故か気付かないのを鈍感系主人公って言うの!」

「鈍感系主人公……。でもカナタさんは鋭そうですよね。周りをよく見ているというか……」


 アイリスの言葉にサナが食い気味に頷いた。

 

「めっっっちゃ鋭いよ。少しでも好意持ってる子が居たら先回りして告白されないようにしてたもん」


 思い出されるは過去の記憶。

 カナタはやり過ぎだと思うほどに徹底した態度で自分に恋をした女子を遠ざけるのだ。

 しかも周りが気付かないほどさりげなく。幼馴染であるサナにしか気付けないほどに。

 それが今の今までどれだけ仲の良い女子だったとしても例外はない。

 あの時、サナは幼馴染ながらにひどいと思ったものだが事情を知った今は仕方がなかったのだと思っている。

 

「……え。……その……サナ。……それはどうやって?」

「んー。敢えて距離を置いたり。主に態度で示してたね。無理だって」

「……もしかして、わたしも……?」


 そんな事実にシュンとして俯くカノン。サナは当然のように慌てる。


「あ、いや! 今のところカノンちゃんにそういう態度は取ってない……と思う!」

「……今のところ」


 些細な言葉でカノンはもっとシュンとした。


「あらら。これは相当だね」

「ちなみにカナタさんのどこが好きなんですか?」


 アイリスがきらっきらに輝いた瞳で聞く。さすがは恋愛小説好き。興味津々である。


「……いわなきゃダメ……?」


 上目遣いで目を潤ませる姿はとても可愛らしく、普通の男子ならば即撃沈できるほどの破壊力を秘めていた。

 しかし悲しきかな。今は女子会の真っ最中。その破壊力が猛威を振るう事はなかった。

 

 カノンは諦めて肩を落とす。そして俯きがちになりながら言葉を溢した。


「……うっ。……その……かっ……かっこいい……」

「えっ? 顔?」


 サナが真顔で突っ込み、カノンが慌てて首をブンブン振る。

 

「……あっ……いやっ……もちろんかおもだけど……その……わたしのこと、いつも助けてくれるし、魔術もすごいし……かっこいい………………」


 段々と先細りになっていくカノンの言葉。

 その仕草も相まって今度はその破壊力を遺憾なく発揮した。


「なにこの生物。えっ? 可愛すぎない???」

「ですね〜」

「これは……応援したくなるね。ちなみにサナはカナタから何か聞いてないの?」

「ん〜聞いてないことはないんだけど……まあ言っちゃっていいか! 特に口止めされてないし! なにより女子会だし!」


 女子会という免罪符を得てサナの口がどんどん軽くなっていく。まるで羽毛のようだ。


「んとね。カノンちゃん。まずは前提として、カナタは難敵です」

「……なん……てき?」

「そう難敵。アイツ、好きっていう感情がよくわかってないです」

「好きがわからない? サナ。それはどういうこと?」

「ちょっと……いや結構事情が特殊なんだよね。レスティナだと魔術ってみんな使えて当然じゃん? でも地球だとそうじゃないんだ」

「あぁ。レイが言ってたね。秘匿されてるんだっけ?」

「そう。私もレスティナに来るまで魔術の事、創作の中のモノだと思ってたから」


 地球で魔術や魔法なんてものは創作物の中にある存在だ。皆、あったらいいなと夢想はするけれど実在はしない。

 それが非魔術師の共通認識。


「それでカナタの家、一之瀬家は魔術師の家系の中でも名門らしくて」

「貴族みたいな感じ? 平民とは恋が出来ない的な」

「たぶんそう……かな? カナタが言うには魔術師の名門って呼ばれてる人たちは血統を重視してるんだって」

「……非魔術師との子供を作るわけにはいかないと。そういう意味では私たち王族と似たような物なのかもね」

「うん。それにカナタさんの性格的を考えたら、結婚できない方と付き合うなんてこと出来なさそうですもんね。だから恋を知らない。納得はできますが……悲しいことですね」

「悲しい……か。そうだね。たしかに悲しいことだ。でもだからこそカノンちゃんには光明があると私は思ってる」

「……光明?」


 カノンが可愛らしく首を傾げる。

 

「そっか。カノンは魔術師。それも特異属性に加えて召喚魔術も使える。血統で言ったら最高級だもんね」

「そう! だからそこは問題ないし、カナタもわかってると思う」

「ならあとは好きにさせることだけ、ですかね?」

「……いや違うよアイリス。問題はもう一つある」

「そうだね。私もそう思う。……ねぇカノンちゃん。先に進む以上、一つだけはっきりしとかなくちゃいけない事があるんだけどわかってる?」


 サナの言葉にカノンは小さく、しかししっかりと頷いた。


「……わかってる。……カナタはいずれ帰らなきゃいけないから」

「答えはすぐに出さなくてもいいと思う。でもいずれはっきりさせとかないと――」

「――大丈夫」


 カノンがサナの言葉を遮ってはっきりと頷いた。

 その瞳には力強い光が宿っている。カノンは既に答えを決めていた。

 

「大丈夫? もう決めてるの?」

「……ん。……カナタがわたしを受け入れてくれるなら、わたしは付いていく。……たとえそれが異世界でも」

「お〜」


 アイリスはカノンの発言を聞いて感嘆の声を漏らした。


「でもカノンちゃんには目的があるよね? それはどうするの?」

「……それもちゃんとかんがえた。……でもやっぱりわたしはカナタが好き」

「でもカナタは……」


 サナは言葉に詰まった。

 カノンの言葉は「アストランデを恐怖の象徴ではなくす」という自身の目的を投げ出すと言っているような物だ。カナタから直接「カノンはそんなこと言わない」と聞いているサナは、この選択がプラスになるとは到底思えなかった。


 しかしカノンはしっかりと首を振る。


「……サナの言いたいことはわかる。……だから目的は今後も果たしていくつもり。……全力で」

「……そっか。まあすぐに帰れるわけでもないしね。なら私から言うことはないかな?」

「私はもう十分だと思ってるけどね」

「十分?」


 ラナの言葉にサナが首を傾げる。


「うん。カノンはアストランデとして魔王を討伐した。この功績は噂として既に各地に流している」

「……噂?」

「うん。グランゼル王国は大国だから人の出入りが多いんだよ。だから王都に噂を流す事でその情報は世界各地へと散らばっていく」


 王女であるラナは噂という情報が強力な武器になることをよく知っている。


「それが恐怖の象徴であるアストランデが勇者パーティに入って、魔王を討伐したってインパクトのある情報だと尚更ね。既にアイリスがアストランデが勇者パーティに入ったって情報を流していてくれたから下地はあったし」

「……いつの間に」

「約束でしたから」


 アイリスが慈愛を感じさせる笑みを浮かべた。

 情報という武器の強さは当然、アイリスも知っている。だからこそアイリスは既に動いていた。


「だからね。あとは聖王国からの公式発表があれば、それは噂から確固たる事実になる。だから十分」

「お姉ちゃんの言う通りです。仮に十分ではなくても、今後カノンが私たちと行動を共にすれば自然と目的は達成されます」

「……ラナ、アイリス。……ありがと」


 カノンは二人の王女に対して深々と頭を下げた。


「礼には及ばないよ。全力で協力するって約束したし。それに……私たち、友達でしょ?」


 ラナは()()という言葉を敢えて使った。それにカノンは少しだけ口角を上げて、笑みを作る。

 

「……ん。……友達」

「じゃあ既に障害は無い訳だ! だったらやる事は一つだね!」

「……ん。……猛アタック、あるのみ」


 方針は決まった。

 ならば後は恋を知らない魔術師を恋に落とすだけだ。


「私に協力できることがあったらなんでもする。だから気楽に相談してね」

「私もです。二人が結ばれることを祈っています」

「私も私も! ホントは中立のつもりだったけどヤメだ! 全力で応援するぞ!」

「……みんな、ありがと」

「いいってことよ! じゃあ次は……!」


 友情を深めた四人。

 だけど女子会はまだまだ終わらない。語りたいことは山ほどあるのだ。


 乙女たちの夜は笑顔と共に更けていく。

間話はこれにて終了です!

第六章まで少しお時間頂きます!

なるべく早く再開できるように頑張ります!

ではまた!

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