開幕
サナの部屋に備え付けられているベッドの上に、四人の女子が車座になって顔を合わせていた。
四人とは勿論、女子会の主催者であるサナを筆頭に被害者Aことカノン、そして王女二人、ラナとアイリスだ。
勇者であるサナの部屋にはその肩書きに相応しいベッドが置かれており、四人で座ってもまだまだ余裕がある。
「ではここに第一回女子会を開催します!」
パチパチパチとまばらな拍手が部屋に響き渡る。
全力で拍手をしているのは主催者であるサナのみ。ラナは勇者会議の時と同様に差し障りなく拍手をしており、アイリスはよくわかっておらず一応と言った様子で拍手をしている。そして被害者であるカノンは無だ。
「それでサナ? ジョシカイ? とはなんでしょうか?」
「な・ん・で!? なんで女子会を知らないの!? この世界の人たちは女子会しないの!?」
そんなバカな、とアイリスに詰め寄るサナにラナは苦笑した。
「多分すると思うけど私たちは王族だから。それと多分だけど女子会って名前じゃないと思う」
「お姉ちゃんは知ってるの? ジョシカイ」
「うん。えーっとね――」
「ちょっと待ってラナ!」
女子会とは何かを説明しようとしたラナの言葉をサナが遮る。
「さて問題です!」
テンションがおかしいような気もしないが、既に女子会は始まっているのだ。ご愛嬌である。
「ここには花も恥じらう乙女が四人もいます! さて、何をするでしょーーーか!? ラナは答えちゃダメ!」
ラナはサナのテンションに苦笑しながらも口を閉じる。
ラナは答えられない。そしてカノンは無。必然的に回答者は一人となった。
「え? えっ!? 私ですか!?」
「あなた以外に誰がいるというのです!」
「えっ……と、女の子だから……美味しいスイーツのお話し……でしょうか?」
アイリスが自信なさげに瞳を揺らしながら答える。
しかしサナはそんな答えを求めているわけではない。何せ頭の中がピンク一色になった深夜テンション(深夜ではない)のサナなのだから。
「ぶっぶー! それもいいけどさ! いいけどさ! 普通は恋バナでしょ!? 私何か間違ってるかなぁ!?」
「あっ……恋バナ」
そこでアイリスはようやく得心がいったのか無になっているカノンを見て頷いた。
「そういうことだったのですね」
「ちなみにアイリスのことも聞くから覚悟しておいてよね!」
「えっ!? ちょっとそれは――」
「――それじゃもちろん主催者のサナも聞かれる覚悟は出来てるよね?」
アイリスの言葉を遮ってラナが不敵な笑みを浮かべた。対するサナは自信満々に胸を張る。
「あったりまえでしょ! 何せ私には何も無いからね! ノーダメージなのである! はっはっはー!!!」
悪役のような高笑いを響かせながら言い放ったサナ。最低である。
しかしラナの不敵な笑みは消えない。
「じゃあ私から質問してもいい?」
「もちろん! なんでも聞いてくれ給へよ!」
調子に乗りまくったサナ。まるで自分にはダメージがないと信じきっている。
そんなサナにラナの先制攻撃が炸裂した。
「サナはさ。レイのこと、好きじゃなかったの?」
「……へ?」
先程までの高笑いは何処へ。
石化したように固まるサナ。まさかの質問に、完全に面食らっている。
「だってさ。あれだけ魅力的な男の子が幼馴染な訳でしょ? 好きになって当然じゃない?」
「お姉ちゃん……。自分で言うのはどうかと……」
凄まじい事を当然のように言い放ったラナに流石のアイリスも呆れていた。
「いっ、いいでしょ別に! 実際かっこいいんだし!」
「ごちそうさまでした」
言い訳をするラナにサナが両手を合わせて頭を下げる。しかし顔を上げたサナは先ほどとは打って変わって真面目な顔つきになっていた。
「コホン。これは真面目に答えた方が良い質問だよね?」
「ごめんね。変な空気にして」
「ううん。こんな機会でもないと話せないからね。大丈夫! ……じゃあ単刀直入に結論! 確かに私はレイのことが好き。でもそれは恋人に対しての愛じゃなくて幼馴染としての大切。だからラナが不安になるようなことは何もないよ」
サナがキッパリと否定する。
「そうなの? でもサナは告白を断り続けてたんじゃないの?」
「……どっちだ余計なこと言ったのは〜! とまあそれはさておき。うん。それは事実。私も再会するまではこの好きがどっちなのか判断ついてなかったから」
「あの……サナ。私からも質問いいですか?」
アイリスがおずおずと手を挙げる。
「ん? なに?」
「再会して幼馴染の好きだってわかったのですか? 普通は逆ではないでしょうか? 募った想いが溢れて愛になりませんか?」
「んん〜? そうなの?」
アイリスの言葉にサナが眉根を寄せながら首を傾げる。そんな二人のやりとりにラナは苦笑していた。
「アイリスは恋愛小説が好きだから……」
「えっ!? 普通ではないのですか!?」
「どうなんだろ? でもそう言うこともあるんじゃ?」
サナがなんとなくフォローするが既にアイリスの顔は真っ赤に染まっていた。
「うぅ〜。恥ずかしいです〜〜〜」
「まあ私は違かったってだけだよ。告白を断ってたのも、気持ちに整理を付けないと前に進めそうになかったから。……それで再会した結果、これは愛じゃないってわかった。っと、こんな感じなんだけど答えになった?」
「うん。ありがとね。しっかりと答えてくれて」
「ううん。私こそちゃんと話せて良かった。やっぱ女子会はこうでなくっちゃ! じゃあ次は……」
サナは真っ赤になった顔を手で仰いでいるアイリスに照準を定めた。
「恋愛小説好きなアイリスの話を聞こうかな〜!」
「もぅ! やめてください!」
まだまだ女子会は始まったばかりだ。




