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誤解

 瞼の先から光が溢れ、微睡の底から浮上していく。

 だけど身体が重く、まだ寝ていたい。しかし起きなければならない気がして俺はゆっくりと目を開ける。

 するとそこには見慣れた天井があった。


 ……そうか。結局気を失ったんだな俺は。


 記憶を辿るまでもなく思い出せる。()()()()の所為で気を失ったのだ。

 

 俺は身体に負担を掛けないようにゆっくりと身体を起こした。幸い、身体は重いが気を失う前に感じた脱力感は綺麗さっぱり消えている。

 身体の調子を確かめるように肩を回したり、首を回したりしたが、特に支障はなかった。

 万全の状態とは言えないが十分なコンディションだ。

 

 ふと、窓の外に目を向けると丁度夜明けの時間帯だった。窓からは朝日が差し込んでくる。


 ……どのくらい寝ていたんだろうな。


 身体の調子から、おそらくそれほど時間は経っていないと思われる。長くても数日と言ったところか。


「……んぅ」


 すると隣から小さな声が聞こえ、俺はそちらへと目を向ける。そこにはすぅすぅと小さな寝息を立てて眠る雪の妖精がいた。

 白く、キメの細かい肌はまるで新雪を積もらせたばかりの雪原。そして髪は陽光を反射して輝く残雪のように美しい。

 いや、当然雪の妖精なんかではない。ネグリジェを纏ったラナだ。しかしこの可愛さはそう間違えてもおかしくないほどの破壊力がある。


 ……俺の恋人、可愛すぎないか?


 そんなバカなことを考えながらラナの寝顔を見つめる。

 遺跡に居た頃に何度か見た事があるが、だいぶ久しぶりだ。救い出した後は寝室が別だったからなのだが、なんとも懐かしい気持ちになる。


 ……きっと付きっきりで看病してくれてたんだろうな。


 そう考えると愛おしく想う気持ちが心の底から溢れてくる。俺は堪らずにラナの頬を優しく撫でた。

 本当にすべすべで触り心地がいい。この暖かさに触れていると自分がどれだけラナを愛しているのかが実感できる。

 眠っていなければ抱き締めているところだ。


「……んぅ」


 ラナがくすぐったそうに身じろぎをする。

 起こしてはまずいと思って咄嗟に手を引いたが、少し遅かった。ラナの目がゆっくりと開いていく。


「……ん〜?」


 やがて宝石のような蒼い瞳と目が合う。

 パチパチと瞬きをして目を擦るラナ。そして再びラナは俺を見た。


「おはよラナ」

「うん。……おはよ? …………レイ? レイ!!!」


 ラナがバッ身体を起こし、俺の胸に飛び込んできた。あまりの勢いに俺はベッドに倒れ込む。


「っと。ごめん。起こしちゃったな」

「ううん。だいじょうぶ。……よかったぁ」


 胸の中でラナが安堵の息を吐く。俺はラナの背中に手を回して抱き締めた。

 細く華奢な身体だ。しかし女性特有の柔らかさもしっかりとあり、抱き締めているだけで心地いい。

 

「……ずっと、看病してくれてたのか?」

「うん。心配だったから」


 そう呟き、ラナが俺の胸に顔を(うず)める。そのせいで表情を見る事が出来ないが、どんな顔をしているのかは容易に想像することができた。


「ありがとな。ラナ。心配掛けてごめん」

「……うん。だから、しばらくこのままで居させて」

「姫様のお好きなように」


 芝居掛かった口調で言うと、ラナが苦笑した気配があった。

 

「もぅ。レイのばか。でもありがと」


 俺はラナが落ち着くまで抱き締め続けた。




 どれぐらいそうしていただろうか。

 長い時間だったのは確実だが、幸せな時間は一瞬で過ぎてしまう。だからラナが顔を上げた時は名残惜しい気分になった。


「落ち着いた?」

「……うん。ありがと」


 至近距離で見つめ合う俺とラナ。


「……」

「……」


 どちらともなく顔を近づけ、その距離は零になる。

 やさしく、啄むようなキス。それだけでも柔らかく瑞々しい感触がした。

 顔を離した俺たちは再び見つめ合う。

 ラナの顔は真っ赤だったが、どこか名残惜しそうだ。そしてきっと、俺も同じ表情をしている。


「……その、もう一回」

「……一回だけでいいのか?」

「……やだ」


 そう言ったラナの表情は蕩けきっていた。今までとは違う、どこか妖艶さすら漂わせるその表情に俺は喉を鳴らす。


 ……これはやばい。


 そう思いながらも拒む事ができない。そして再び顔を近づけ――。


「――お姉ちゃん。起きて……る?」


 そーっと扉を開き、顔を覗かせたのはアイリスだ。

 きっと俺たちを起こさないよう配慮し、ノックをしなかったのだろう。しかしその気遣いが裏目に出た。

 

 俺とラナ、そしてアイリスの視線が交差する。まるで時が止まったかのような静寂の中、アイリスがボッと火を噴くように顔を真っ赤に染めた。


「あ、あ! ごごごごめんなさい! ごゆっくり!?」


 バタンと扉を閉めるアイリス。

 これは盛大に勘違いをしている。

 

「ちょっと待てアイリス! 誤解だ!」


 俺は扉に手を伸ばすが、バタバタと足音が遠ざかっていく。既に手遅れ。追いかけても遅いだろう。


「あーっと……」


 伸ばした手が虚しく空を切る。

 そんな俺を見てラナがくすりと笑った。


「大丈夫だよレイ。アイリスは言いふらすような子じゃないから」

「そうは言ってもなぁ……。というかやけに落ち着いてるな? 妹にその……こういうの見られるのは恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしくないって言ったら嘘になるけどそこまでかなぁ。レイが慌ててる方がおもしろいかも」

「ならまあいいか。……よっと」


 いつまでも抱き合っているのが気恥ずかしくなり、俺は身体を起こした。ラナも起き上がりながら、隣に座る。


「でもねレイ。お預けはイヤかな。だから最後に一回だけ」


 くちびるに指を這わせて呟くラナ。

 そんなことを言われたらやはり我慢なんてできない。

 

「わかった。俺も同じ気持ちだ」


 もう一度だけラナを抱きしめると、俺たちは口付けを交わした。

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