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三度、鎧武者

 鎧武者。

 俺の始まりであり、因縁の宿敵。そいつが今まさに目の前にいた。

 

 俺は身体の熱を冷ます様に大きく息を吐く。


 ……マズいな。


 額から頬に冷や汗が伝う。

 鎧武者が味方な訳が無い。至天二人と鎧武者。これで三対一。闇の使えない俺では勝ち目がないどころか戦いになるかすら怪しい。

 

 それに加え、左肩には穴が空いている。ゆっくりと左手を握りしめるが、やはり動きが鈍い。

 控えめに言って最悪な状況だ。

 

「なんで……ここに零落の白様の分体が……?」


 サイラムが鎧武者を見て呆然と呟く。

 どうやら至天二人にとってもこの状況は想定外らしい。

 

「……いや……違うサイラム」


 追いついてきたフラウが震える声で言った。

 その揺れる瞳から窺える感情は畏怖か畏敬か。ともあれフラウはその場で無防備にも膝を突き、鎧武者に頭を垂れた。

 

 しかしサイラムはフラウが気付いた()()()に気付いていない。


「サイラム!!!」


 俺はフラウの事を冷静なタイプだと思っていた。

 堅実に淡々とやるべき事をこなす無駄のない人間。戦い方からもそんな印象を受ける。

 しかしそんなフラウが怒声を上げた。

 理性的な彼女がそうする程の存在。それが鎧武者という事か。

 

 その事に何かを感じ取ったのか、サイラムもフラウ同様に膝を突く。


「お初にお目に掛かります。⬛︎⬛︎様」

「――ッ!」


 その言葉にサイラムが弾かれたように顔を上げ、フラウを見る。

 視線を向けられたフラウは頭を下げたまま微動だにしない。


 しかしそんな事より、俺は今起きた現象に驚いていた。


 ……あの時と同じだ。


 フラウが何かを口にした瞬間だけ全ての音が消えた。ブラスティア伯爵邸で暗殺者が何かを口にした時と同じ現象。

 

 サイラムも己が置かれている事態に気付いたのか、地面に額をつける勢いで頭を下げる。


「失礼いたしました! ⬛︎⬛︎様とは知らず、申し訳ございません!」


 対する鎧武者は至天二人に見向きもしない。


 ……なんだこれは。何が起きている?


 鎧武者が至天にとって重要な存在だと言うことは二人の様子からして明らかだ。そして零落の白、名前からして使徒の一体だろうがその分体と鎧武者をサイラムは間違えている。


 フラウはサイラムの間違いに気付いた瞬間、態度を豹変させた。その事実から鑑みるに、鎧武者は使徒の分体よりも()の存在だと推測できる。

 となると使徒と同格と考えるのが自然だが、それはない。そもそも存在としての格が違い過ぎる。

 確実に使徒の方が()だ。


 だからこその違和感。

 使徒よりは下、しかし使徒の分体よりは上。


 ……もしかして、使徒よりも上の存在がいる?


 改めて考えれば使()()というからには()が居て然るべきだ。


 ……正確には使徒よりも上の存在、その分体?ってところか?


 それが一番しっくりくるような気がする。

 しかしそれが分かったところで事態は好転しない。


 ……合流は絶望的だな。


 至天二人と鎧武者を相手取って逃げ切れるか。

 答えは当然、否。至天二人だけでも手一杯だというのに鎧武者の相手をしている余裕はない。

 だからと言って退けと言われて退く相手ではないだろう。そもそも鎧武者に言葉は通じない。

 

「ふぅ――」


 今一度、大きく息を吐く。

 こうなってしまったら腹を括るしかないだろう。


 圧倒的なまでに絶望的な状況。

 使えるのは己が身一つ。敵は至天、そして因縁の鎧武者。勝てる見込みは絶無。

 しかし俺は幾度となく絶望的な戦いを経て、今この場に立っている。

 

 鎧武者との初戦、そして魔王戦。

 あれらと比べればこの程度の修羅場、なんという事はない。


 ――覚悟を決めろ。


 俺は雪月花を握る手に力を込める。


 ――俺()、コイツらを殺す。


 合流なんて甘い考えは即座に捨てなければならない。

 

 鎧武者はフラウとサイラムに一瞥もくれず大太刀を構える。同時に背中がボコボコと隆起していき、十本ほどの触手が生えた。

 それが肥大化し、先端に人の口を形作る。


 フラウとサイラムも鎧武者の様子を見て立ち上がり、拳と槍を構えた。


 ――さあ始めよう。

 

 ここからは、死闘だ。

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