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内包魔術式

「……私は白の至天序列第二位です」


 道化面が言い切った瞬間、カナタが瞬雷を使った。

 彼我の距離を一瞬で零にしたカナタは、道化面の目掛けて雷刀を振るう。

 

 狙うは首。手加減は一切ない。命を刈り取る為の一撃を容赦なく見舞う。

 

「おや? その顔は信じていませんね?」


 しかし道化面は動じない。

 カナタの放った斬撃は見えない何かに阻まれ、その首を断つ事は出来なかった。

 刀身に纏った雷が、刀を阻んだ物の正体を浮き彫りにする。


 ……結界か。


 そこにあったのは透明な結界だった。

 カナタは即座に斬れないと判断。身体を捻り、もう一度瞬雷を使った。

 

 二度の雷鳴と共に一瞬で道化面の背後へと回り込み、逆側から雷刀を放つ。しかし首を断つ事は叶わず、結界に阻まれて終わった。


「ちっ!」

 

 カナタの口から舌打ちがこぼれる。


「さて。次はこちらから行きましょうか」


 振り返りながら呟く道化面。しかしカナタの左手にまだ魔術式が残っている事を見つけ、眉を顰めた。


「まだ終わってねぇよ!」


 ――雷属性攻撃魔術:奔雷(はしりいかずち)


 奔雷。一応は攻撃魔術に類する魔術だが威力は低く、カナタは索敵に使用している魔術だ。


 ……だけど、調べるには十分。


 カナタの左手から雷が奔った。

 無数に散った雷撃が道化面へとその魔の手を伸ばす。しかしやはりと言うべきか、()()の結界に阻まれた。


「ちっ!」


 カナタの口から再度舌打ちが溢れる。

 防がれた事に対してではない。それは想定内だ。だけどその防ぎ方に問題があった。

 カナタはもう一度瞬雷を使用し、第二防壁の上へと降り立つ。


「自動防御……だな?」


 カナタの言葉に道化面の声質が変わった。

 今まではどこか余裕を感じさせる物だったが、重く真剣な物となる。

 

「……この一瞬でそこまでわかりますか。やはり貴方は脅威だ。ここで……殺します」


 次の瞬間、カナタは右頬に空気の揺らぎを感じた。


「くっ!」


 見るまでもなく、弾かれたように首を逸らす。すると直後、引き戻されるような感覚をカナタは覚えた。

 

 続けて腹部、脚、肩に空気の揺らぎを感じる。

 それもカナタは最小限の動きだけで回避した。そして再び引き戻されるような感覚。


 ……空間ごと消滅させる結界か?


 引き戻される感覚は空気が消滅し、戻ろうとしているからだとカナタは予想した。となると一撃喰らっただけでも致命傷となり得る。


 ……消滅結界ってところか? ならもっと的確に感知する必要があるな。


 カナタは立て続けに生成される消滅結界を避けながら魔術式を記述する。それは奔雷とほぼ同じ魔術式だった。

 だが魔術式が追記され、改良が施されている。


 ――雷属性攻撃魔術:(まとい)奔雷(はしりいかずち)


 放つのではなく纏う。カナタの身体から、絶えず雷が放出される。魔力は消費し続けるが、元々奔雷の消費魔力は微々たる物。だから許容範囲内だ。


 すると、消滅結界の前兆が手に取るようにわかるようになった。空気の揺らぎといった曖昧な物ではなく、雷の動きが阻害された場所に消滅結界が出現する。


「完璧な対処ですね。戦闘能力も厄介ですが、真に恐ろしいのはその観察眼ですか……」


 ……これぐらい出来なきゃ特級魔術師にはなれねぇよ。


 内心でそう呟き、カナタは瞬雷を使う。すると大量の消滅結界を感知した。

 まるで空中に張り巡らされた地雷だ。

 その全てを避けることは不可能だとカナタは判断し、一度距離を取る。再び第二防壁上に戻された。


「おや? どうしました?」


 道化面の言葉にカナタは取り合わない。代わりに思考を回す。


 ……さっきまでは無かったよな?


 となると会話の間に設置したとしか考えられない。

 しかし魔術式は記述されていない。


 ……簡易魔術か。


 そう考えるのが妥当だが、果たしてどの行動がトリガーになっていたのか。


 ……いや、隠れてる場所があるじゃねぇか。


 仮面の下。

 珍しいがまばたきや口の動かし方をトリガーにする魔術師もいる。おそらく道化面もその類の魔術師だ。

 加えてこの展開速度。おそらくは()()場所に生成している。


 ……試す価値はある。


 カナタは手のひらを天に向け、魔術式を記述した。

 それは巨大な魔術式で、樹の様に成長していく。


「それですか! させませんよ!」

「ハッ! ()()()!!!」


 成長していく魔術式に組み込まれた()()()()()()()()が起動する。


 ――雷属性攻撃魔術:雷光(らいこう)


 魔術式にもう一つの魔術式を隠すという前代未聞の芸当。これをするには高度な魔力操作と共に、不純物があっても成立する魔術式を記述できる技術が必要だ。

 やれと言われてできる様な物ではない。

 そんな高度な技術を勇者パーティの魔術師たちは開発していた。全員が天才であるからこそ出来た魔術だ。


 名付けて、内包魔術式。


「なっ!?」


 予想外の魔術に不意を突かれ、道化面の視界を閃光が焼いていく。苦悶の声を漏らしながら目を抑えるがもう遅い。

 カナタが瞬雷を使用し、一瞬にして距離を詰める。


 消滅結界は――無い。


 丁度その時、本来の魔術式が完成した。


 ――雷属性攻撃魔術:(イカズチ)


  自動防御だろうがなんだろうが、火力で押し切れば問題ない。(ゼロ)距離から放たれるはカナタが誇る最強火力の魔術。

 道化面は一瞬にして閃光に呑み込まれた。

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