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開戦

 北門で上がった爆炎が開戦の狼煙となった。

 動きを止めていた魔物たちが咆哮を上げ、一斉に動く。


「ようやく……ですか」

「ホントだよ! エミリーはもう待ちくたびれちゃったよ!」


 西門、金剛迷宮方面に布陣していた【黄昏旅団】。

 総勢五十二人の先頭に立つエミリーとミリセントが呟いた。視線の先で無数の魔物が蠢き、侵攻を再開する。


「何体いるんだろうね?」


 しかしエミリーに恐れはない。これからの戦いに胸を躍らせ、瞳を輝かせている。

 そんなエミリーとは対照的にミリセントはめんどくさそうにため息を吐いた。

 

「数えるのも億劫ですよ。まったく」

「まあでも所詮はB級だね。強いのは数える程しかいないよ。エミリーたちなら楽勝かな」


 エミリーの言葉通り、数えきれないほどの魔物がひしめいているが、その多くが有象無象だ。

 割合で言うとA級とB級が多く、S級が数体いる程度。

 S級迷宮をいくつも踏破してきた【黄昏旅団】からすると役不足感が否めない。


 そんな中、エミリーは空を飛んでいる金剛竜ダイドストラ・ミゼリーエを指差した。

 金剛石の身体を持つ、途轍もなく硬い魔物だ。名前の通り竜種であり、等級はまごうことなきS級。並の冒険者では傷一つ付けることの出来ない魔物だ。

 

「強いのはエミリーの獲物。いい?」

「ダメと言っても突っ込むでしょう?」

「もちろん!」


 エミリーが無邪気な笑みを浮かべた。

 そして体内に秘めた膨大な魔力を練り上げていく。


「初っ端から全開で行くね!」


 するとエミリーの身体に変化が現れた。

 人間の耳が消え頭上にちょこんと獣耳が、そして腰からは金色の長い尻尾が現れる。


 エミリーは東部最果て、【無間樹海(むけんじゅかい)】に住むとされている獣人の先祖返りだ。

 いつ、どの時代で血が交わったのかは分からない。ストリープ伯爵家の系譜を辿っても獣人の先祖返りはエミリーだけ。

 しかしその血はエミリーに圧倒的な身体能力を齎した。


 エミリーは続けて自身の身に魔術式を記述する。


 ――光属性強化魔術:天衣無縫(てんいむほう)


 溢れ出した魔力が身体全体に及び、エミリーを金色の光が包み込む。

 そして拳を打ち合わせると、遠方の金剛竜ダイドストラ・ミゼリーエへと視線を向けた。


「よし! ってことでみんな〜! 作戦は()()()()()でお願いね〜!」


 軽い様子で【黄昏旅団】の仲間たちに呼びかける。

 

 いつも通り。

 つまり「エミリーは好き放題やるからミリセントに従ってね!」だ。


「じゃあ行っくよ〜!!!」


 エミリーがその場で軽くジャンプ。そして着地と同時に姿が掻き消えた。

 獣人の身体能力を最大限に発揮したエミリーは一瞬で金剛竜ダイドストラ・ミゼリーエの元へと到達した。

 その姿を追うことができるのは【黄昏旅団】でも副団長であるミリセントだけだ。

 それほどまでにエミリーの身体能力は凄まじい。


「がお〜!」


 気の抜けた掛け声と共に繰り出される拳撃が金剛竜ダイドストラ・ミゼリーエの顔面に突き刺さる。その拳は意図も容易く金剛石の身体を打ち砕いた。

 粉々に砕けて、落ちていく黄金の鱗。


「もういっちょ! ……あれ?」


 エミリーがもう一度拳を放とうとしたが、その必要はなかった。金剛竜ダイドストラ・ミゼリーエが脱力し、地面へと向けて落ちていく。

 たったの一撃で沈んだ竜種。それを見て【黄昏旅団】の戦意は鰻登りとなった。


「では私たちも行きましょう」


 ミリセントが剣を抜き放ち、魔物の軍勢へと向ける。


「敵を蹴散らし、我ら【黄昏旅団】に勝利を!!!」

「「「「「【黄昏旅団】に勝利を!!!」」」」」


 S級冒険者パーティ【黄昏旅団】と魔物の戦いが今ここに幕を開けた。




 一方、東では白光騎士団と白光魔術師団、各三十名が布陣していた。純白の鎧を纏った騎士と、純白の外套を纏った魔術師が整列している姿はまさに壮観だ。


「こうして肩を並べるのは勇者召喚の時以来でしょうか」

「そうだな」

 

 先頭に立つ白光魔術師団団長ソフィア=ロードハイトの言葉に白光騎士団団長ソルド=シトラムスが応える。


「あの時は生きた心地がしなかった」


 ソルドが遠い目をして空を見上げた。ソフィアもそれに倣う。


「そうですね。とんでもない者を呼び出してしまったと思った物です。一目で勝てないと思わされたのは初めてでした」

「それは私も同じだ。しかもそれが二人だからな」

「ええ」


 ソフィアは曖昧に微笑む。

 言うまでもなく、勇者召喚に付いてきたレイとカナタの事だ。


「ですが、今は感謝しています」

「それも同じだ。まさか魔王を倒すだけでなく、ラナ様をも救ってこられるとは。彼らは私たちグランゼル王国民の恩人だ」

「そうですね。警戒していた過去の自分を引っ叩いてやりたいです」

「本当だな。でもだからこそ私たちは彼らに報いなければならない。いずれ女王になられるラナ様と王配になられるレイ様の幸せを守るのもその一環。我らの責務だ」

「ええ。こんな魔物たちにお二人の邪魔はさせません」


 ソフィアは剣呑な眼差しを前方に向ける。

 するとその時、北門方向から爆音が轟いた。そして釣られるようにして魔物の軍勢が動き出す。


「どうやら始まったようですね。まずは魔術師団で数を減らします」

「ああ。頼んだ」


 ソフィアは一度頷くと、声を張り上げる。


「この戦いはレイ様を守るための物!!! 我らに救えなかったラナ様を救ってくださった恩人に報いる時です!!! 白光魔術師団の威光を存分に示しなさい!!!」


 ソフィア以下、白光魔術師団は一斉に魔術式を記述した。




 そして南門。

 南門で待機していた魔物の軍勢も、他と同じく爆音を合図にして動き出した。

 その様子をいつもの無表情で見つめながらカノンが呟く。


「……来た」


 カノンの言葉にウォーデンも己の槍、無槍アルデガルデ・エルナミスを構えながら頷いた。

 

「だな。ケヴィン! さっき言った通り、S級はオレたちが相手する! お前たち【煌夜】はその他を頼む!」

「了解。任せてくれ」


 エミリーの挑発されていた時とは別人のように真面目な顔でケヴィンが頷いた。


「カノン。援護は任せていいか?」

「……ん。……当然。……おいで」


 呼び掛けに応え、カノンの影から銀狼シルと白銀大鷲ミコラ、漆黒大鷲グランが飛び出す。続けて二十もの鴉が虚空から現れた。


「……いつでもいい」

「わかった。行くぞ!!!」


 こうして各々の戦場が開戦となった。

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