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赫の至天

 時は少し巻き戻り、日付が変わった頃。

 王城前の広場で指揮をとっていたラナの元に伝令の騎士が駆け込んできた。


「ご報告します! 南方、未だ動きはありません!」


 侵攻してきた魔物の軍勢は王都から程近い場所でその動きを止めていた。かれこれ数時間は睨み合いが続いている。

 

「ありがとうございます。何かあればすぐに教えてください」

「はっ!」


 伝令の騎士が一礼をし、駆け足で去っていく去っていく。それを見送りながら俺は呟く。


「予想通りだな」


 今報告のあった南方の他、東方、西方の魔物も同様に動きを止めている。まるで何かを待つように。


「うん。カナタのお陰だね」


 至天の目論見は四方向からの一斉攻撃だと俺たちは読んでいる。しかしカナタが北方、水晶迷宮にて氾濫を食い止めているのは確認済みだ。

 

 だから避難までの時間が稼げた。

 王都に住む人々も、そのほとんどが避難施設への避難を終えている。それはアシスニルの人々も同じだ。

 王都への避難は間に合わなかったものの、避難は完了したと先ほど報告を受けた。


「だけどこのままって訳にも行かないよな。こちらから仕掛けるか?」


 魔物が動かないのならこちらから攻め入り、殲滅する手もある。既に【黄昏旅団】や【煌夜】、騎士団、魔術師団も布陣を終えているため、戦力は十分だ。

 しかしラナは頷かない。

 

「至天が動いていない以上、飛び込むのは危険だと思う。だから少なくとも至天が動くまでは待つつもり」

「確かにな。待ち受ける方が安全か」

「うん。それに――」


 ラナの言葉を遮るように、北側から爆音が響いた。


「――来た」


 振り返れば、城の裏手の空が赤く染まっていた




 時は僅かに遡り伝令がラナに報告を行ってる頃、北門ではサナとアイリスが暇を持て余していた。


「ねぇアイリス? これ、私たち必要あると思う?」


 設置された椅子に浅く腰掛け、背もたれにだらしなく寄っ掛かったサナが言った。側から見たらとても勇者とは思えない姿勢である。

 そんなサナとは対照的にアイリスは姿勢良く座りながらも苦笑した。

 

「これだけ敵が来ないとそう思っても仕方ないですよね。だけど必要です。サナもわかっていますよね?」

「わかってるけど〜」


 サナは口を尖らせながら頷く。

 

 万が一魔物が侵攻してきた時、または至天が現れた時、この場に誰もいなかったら素通りされてしまう。

 そうなれば王都が戦場になる。サナは文句を言いながらも自分に与えられた役割の重要性をよく理解していた。

 

「……けどぉ!」


 しかし暇なものは暇なのだ。

 

 そんな時、後ろから足音が聞こえてきてサナが一瞬で姿勢を正す。一応、自分が勇者だと言う自覚はある。

 

「勇者様! アイリス様! ご報告申し上げます!」


 一人の騎士がサナとアイリスの前まで来ると、地面に膝を突こうとした。それはアイリスが手で制する。


「今は非常時です。そのままで構いません。報告をお願いします」

「はっ!」


 騎士が胸に手を当て、代わりとばかりに背筋を伸ばした。


「ご報告します! 東西南方向、魔物に動きなしです!」


 これは先ほどから繰り返されている定時連絡のようなものだ。何も起きていなくても、何も起きていない事を伝える必要はある。定時連絡が途切れれば何かが起きたと言う事だからだ。

 

「ありがとうございます。お姉さまには北門は異常なしとお伝えください」

「承知いたしました! では失礼し――」


 ――コツン。

 

 騎士の言葉を遮るように足音が響いた。

 サナが聖刀(フィールエンデ)を顕現させ、アイリスと騎士を守るように前に出る。


「……訂正します。北門、至天の襲撃ありとお伝えください」

「……直ちに」


 アイリスが緊張した面持ちで暗闇を見つめながら言った。それを聞いた騎士は弾かれたように頷き、去っていく。


「あれぇ? 三人じゃなくていいの? あんな雑魚でも肉壁ぐらいにはなるんじゃない?」

 

 暗闇から姿を現したのは、真っ赤に燃えるような赤髪をツインテールにした少女だった。

 その顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいる。

 

「貴女は……至天ですね?」


 少女の言葉にアイリスは取り合わない。この一瞬で目の前の人物が自分とは相容れないと理解した。


「無視ぃ? アタシ傷付いちゃうな〜」


 わざとらしく泣き真似をする少女をサナとアイリスは油断する事なく注視する。

 対して少女は何の反応もしない二人につまらなさそうな視線を向けた。


「……まあ正解だよ。アタシは赫の至天序列第二位、ミルト・エルドラム。そんなアナタたちは勇者サナと聖女アイリスだよね?」

「……その通りです。……ついでに使徒の名前も教えていただけたりしますか?」

「んー?」


 ミルトが人差し指を唇に当てて考えるような仕草を見せた。かと思ったら妖艶さすら漂う視線を二人に向ける。


「知りたい?」


 その様子にアイリスは不気味な物を感じ、喉を鳴らした。

 

「……教えていただけるのでしたら」

「まあこれから死ぬんだしいっか。別に言うなとも言われてないしぃ? センベツに教えてあげる」


 あからさまな挑発だが、アイリスもサナも反応することはない。

 わざわざ情報を教えてくれるのだ。話の腰を折っても損をするだけだと分かっていた。


 そしてミルトは使徒の名前を口にする。


「……赫の使徒サマはね、静寂の赫サマだよ」

「……静寂の赫」

「翠ときて赫なんだ。なんか安直だね? もしかして蒼も居たりする?」


 サナも負けじと挑発するが、ミルトが取り合うことはなかった。

 

「それは言えないかな。他色の至天の不利益になるかもだからね」

「……そうですか。教えていただきありがとうございます」

「いいよいいよ。どうせ死ぬんだから。じゃあもう良い?」


 ミルトが拳を打ち鳴らす。すると火花が散り、瞬く間に業火と化した。そこから業火は全身へと及び、髪の毛先が炎と同化していく。

 そして最後に炎が手から伸び、剣を形作った。


「はやく殺りたくて! うずうずしてるんだよねぇ!」


 ミルトは笑みを深め、その小さい身体からは想像もつかない程の殺気を撒き散らした。

 身体の業火が勢いを増し、周囲の気温を上げていく。


「じゃあアタシから! 行くよ――!」


 ミルトが炎剣を振りかぶる。

 そして次の瞬間、炎が爆ぜた。

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