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バカ二人

「……フェルナンド。……これはどういう状況ですか?」


 ラナがフェルナンドさん……正確にはその手に持っている()と足で押さえつけている()に呆れたような視線を向けて言った。


 ……いや、ようなではないな。


 心底呆れている視線だ。

 

「これは姫様。……少々()()()が過ぎましたので」


 フェルナンドさんも遠い目をしている。

 ギルド内を見回すと、フェルナンドさんの言った通りオイタが過ぎた結果が見て取れた。

 陥没してひび割れた壁、何本もの短剣が突き刺さった天井、ひっくり返った酒場の椅子や机。

 誰がやったのかは言うまでもない。


「……何をしているのですかエミリー?」


 一歩前に出たミリセントがフェルナンドさんに襟首を掴まれぷらぷらとしているエミリーに声を掛ける。

 極寒の声音だった。ゾッとするほど低く、冷たい言葉にエミリーの肩が跳ねる。

 そして恐る恐る、顔を上げた。


「ひぃっ!?」


 ミリセントは俺の前にいる為、顔を見ることは出来ない。しかしどんな表情をしているのかは容易に想像がつく。

 きっと鬼のような形相をしている事だろう。

 静かな人ほど怒らせると怖いとよく聞くが、それを実感した瞬間だった。


 ……しかしフェルナンドさんは凄いな。


 既に現役を退いているとは言え、現役のS級冒険者を二人も制圧している。

 しかもその顔色から疲労は見て取れない。息を切らした様子も無ければ、身に纏うスーツに乱れもない。

 これが片腕の老人だとというのだから凄まじい。

 現役の頃はどれほどの腕だったのだろうか。

 

「エミリー? 私は何をしているのですかと聞きました」

「……あっと、その………………ゴメンナサイ」


 申開きはないようでエミリーは項垂れた。


「謝るのはいいです。しかし謝る相手が違うのでは?」

「……ハイ。……ゴメンナサイ。フェルナンド様」


 エミリーは首だけフェルナンドさんに向けると、頭を下げた。そんなエミリーを見てフェルナンドさんは大きな、とても大きなため息を吐いた。

 

「まったく。……いつになったら貴女は落ち着くんですかね?」


 どうやらエミリーとフェルナンドさんには面識があるらしい。しかしそれも当然か。

 フェルナンドは元騎士団長。貴族であるエミリーと面識があっても何もおかしなところはない。

 

 エミリーはもう一度申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「……ハイ。……ゴメンナサイ」


 深いため息を吐いて、フェルナンドさんはエミリーを解放した。


「ちゃんと職員の方々にも謝ってください」

「……ハイ。……ゴメンナサイ」


 ミリセントにそう言われ、エミリーはカウンターに向かって深々と頭を下げた。

 同じくしてミリセントもカウンターとフェルナンドさんに向かって頭を下げる。


「皆様。そしてフェルナンド様。申し訳ございませんでした。流石に(わきま)えていると思い、放置したのが間違いだったようです」

「俺からも謝罪する。このバカにはキツく言っておくから容赦してほしい」


 ヴィレムもミリセントの隣まで行くと同様に頭を下げた。

 

「……構いません。ここまで酷くなるまで放置したのは私も同じです」

「ゴメンナサイ」


 肩を縮こまらせてエミリーが呟いた。

 どうやら本心から反省しているらしい。しかしミリセントの様子から見るに平常運転っぽいので更生は見込めそうにないが。


「オラ。クソ短気。気ぃ失ってる場合じゃねぇぞ」

「ぐぇ」


 対するヴィレムはリーダーであるケヴィンの頭を容赦なく蹴っ飛ばしていた。そして口が悪い。




「王女サマ。一つ聞いていいか?」


 ヴィレムが冒険者ギルドを出たところでラナに声をかけた。

 

「はい。なんでも聞いてください」

「魔物が押し寄せてくる時間はどれぐらいだと予想している?」


 ラナが口元に手を当てて考える。

 当然迷宮までの距離や位置はバラバラだ。そのまま侵攻してくるのならば時間差が出来るのは言うまでもない。

 

 しかし本当にそうなるとは誰も考えていないだろう。なにせこの氾濫は人為的な物。侵攻がバラバラならば逐一対処することができる。

 俺たちから見て一番キツいのは四方から同時に襲われる事だ。そしてそれを敵がわかっていないはずがない。


 そうなると侵攻は十中八九、同じタイミングで行われる。問題はそれがいつかと言う事だ。


「侵攻速度が分からないのでなんとも言えませんが、一番遠いのは水晶迷宮。王都から馬車で二日掛かります。しかしそれは中経地点であるアシスニルで一泊した場合です」


 アシスニルは先ほどカナタが向かった街だ。王都から馬車で半日ほどの距離にある。

 朝、王都から出発したとしてちょうど日が暮れるぐらいに到着するイメージだ。


「しかし魔物には関係ありません。最短距離、最速、尚且つ休みなしで侵攻してきた場合……。そうですね半日と言ったところでしょうか」

「つまりは深夜になると。……本当に厄介だな」


 現在時刻はお昼が過ぎて少し経った辺りだ。半日後には日が沈み、月が煌々と輝いている頃だろう。

 そしてそれは言うまでもなく、こちら側に不利だ。視界が悪く、戦いにくくなるのは明白。狙っていると考えてもいい。


「ともあれ了解した。警戒しつつ夜に備えよう」

「よろしくお願いします」

 

 ヴィレムがラナに背を向け、南へと向かっていく。


「ではラナ様。私たちもこれで」

「エミリー。ミリセント。よろしくお願いしますね」

「任せてください! エミリーはがんばります!」


 先ほどのシュンとした様子は何処へやら。エミリーは既に元気を取り戻していた。

 この切り替えの速さは利点だ。……と一瞬思ったが、反省していないと考えるなら別に利点ではないのかもしれない。


「お任せください」


 ミリセントも一礼するとエミリーと共に西へと向けて歩き出した。


「これでひとまずは大丈夫そうだな」

「うん。引き受けてくれてよかった。これで万全の状態って言えると思う。あとは至天がどう動くかだね。……とにかく私たちは城に戻ってサナとアイリスに伝えよう」

「だな」


 俺たちも一度王城へと戻ることにした。

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