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集合

 時が経つのは早い物で、あっという間に凱旋祭の日がやってきた。


 部屋でこの日の為に設えたスーツに袖を通す。

 このスーツも戦闘服と同じで、各種耐性が付与されているらしくとても動きやすい物となっている。


「ラナ。変なところはないか?」


 ラナに腕を広げて見せると、俺の周りを一周して身だしなみを確認してくれる。

 特におかしなところは無かったらしく、ラナは微笑んだ。


「うん。完璧。かっこいいよ。……私は?」


 ラナがくるりと一回転した。

 氷の結晶の装飾が施されたドレスがふわりと舞い上がる。その姿はまるで雪の妖精の様に可憐だ。


「ラナも完璧。最高に綺麗だよ」


 頬に手を添えると、ラナはくすぐったそうに目を細めた。その表情にドキリと心臓が跳ねる。


 ……本当に、ラナの可愛いさはいつになっても慣れないな。


 そんな事を思いながら、俺は地面に膝を突いた。そして左手を胸に当て、もう片方の手をラナに差し出す。


「では行こうか。ラナ」


 わざとらしく、大仰な仕草だが、ラナは照れくさそうにはにかみながらも俺の手を取った。


「うん!」

 



 ラナと手を繋いで階段を降り、王城の広間に辿り着いた。

 

「わぁー! ラナ綺麗! お姫様みたい!」


 俺と手を繋ぎながら現れたラナに、先に来ていたサナが感嘆の声を漏らす。そんなサナの隣にいたカナタが大きな溜息を吐いた。


「何バカなこと言ってんだよ。正真正銘、お姫様だろうが……」

「あ! 確かに!」


 そんな事を言うサナにラナは苦笑していた。


「サナも綺麗だよ。勇者だから少し凛々しさを意識したんだけど正解だったみたいだね」


 ラナの言う通り、サナは青を基調としたドレスを身につけていた。

 これはラナがデザインしたものらしく、可愛いさよりも凛々しさが前面に出ている。

 裾も長くはなく動きやすい様に調整されており、ドレスでありながら戦闘もこなせるのだとか。


「馬子にも衣装だな」

「レイ? バカにしてる? バカにしてるよね!?」


 そんな事を言ったらサナが詰め寄ってきたので、両手をあげて降参の意を示す。


「冗談だよ。よく似合ってるよサナ」

「今更言っても嘘くさいよ!」

「マゴニモイショウ?」

「見た目を整えれば中身がなくても誤魔化せるって諺」


 聞き覚えのない日本語に首を傾げるラナにはカナタが懇切丁寧に意味を説明していた。

 わざわざ説明しなくてもいいのに。

 するとやはりと言うべきか、ラナは咎めるような視線を向けてきた。


「レイ? おめかしした女の子はちゃんと褒めないとダメだよ?」

「わかったわかった。悪いなサナ」

「軽いなぁ〜。そしてやっぱりレイはラナに弱い」

「それは今に始まった事じゃねぇだろ」

「確かにね」


 二人して納得している幼馴染は努めて無視する。


「そういえば、まだ俺たちだけか?」

「うん。でももう少しすればくると思うよ?」

「――お待たせしました!」

「……おまたせ」


 サナの言葉通り、階段を降りてきたのはアイリスとカノンだった。

 

 アイリスは聖女と呼ぶに相応しい純白のドレスを身に纏っている。ラナと姉妹なだけあってアイリスも凄まじく可愛らしい。

 

 そしてカノンはアイリスとは対照的に黒を基調としたドレスだ。

 いつもは無表情で幼い印象を受けるが、今日のカノンはかなり大人びて見える。


 そんなカノンはいの一番にカナタの元へと向かった。


「……どう……かな?」


 頬を染めつつも俯くカノン。その姿はなんともいじらしい。


「これで落ちないってカナタはなんなのかな。本当になんなのかな??? ――いたぁ!」


 サナが小声でそんな事を言っていたので、頭を引っ叩いて置いた。聞こえたらどうするつもりなのか。


「あまり首を突っ込むなよ」

「ハイ。スミマセン」


 そうは言いつつもカナタの反応は気になる。

 俺はサナと一緒になって二人の様子を伺った。


「ああ。うん……似合ってると思う」


 頬を掻きつつ明後日の方を向いてそんなことを宣うカナタ。


 ……違うだろ! もっとこう! 直接的な言葉をだな!


 サナも不服らしく、カノンにバレない様に身振り手振りで不満を訴えている。

 そんな俺たちの念に気付いたのか、カナタは天を仰いでからカノンに向き直った。

 その目は覚悟を決めた男の目だった。


「カノン。その黒いドレス。大人びていてとても素敵だと思う」


 ボッと一瞬にして火を吹きそうなほどにカノンの耳が真っ赤に染まった。そして消え入りそうな声を溢した。


「……あり……がと。……嬉しい」


 その瞬間、俺とサナは大きくガッツポーズをしていた。

 ラナとアイリスのなんとも言えない視線は見なかったことにして咳払いをする。


「あとは……ウォーデンだな」


 時計を見れば時刻は集合時間ぴったり。とても嫌な予感がする。


「まさか二日酔いじゃねぇだろうな」

「否定できないのが辛いところですね」


 アイリスが苦笑を漏らした。しかしその時、階段から足音が聞こえた。

 降りてきたのはビシッとスーツを見にまとったウォーデンだ。


「悪い! 待たせたか?」

「いや。時間ぴったりだ。今日は二日酔いじゃなかったんだな?」

「流石にお前と一緒の馬車に乗るのに二日酔いはしねぇよ。襲われたら真っ先に死ぬだろ?」

「俺と一緒の馬車じゃ無かったらしてたと?」


 俺の言葉に明後日の方向を見て頬を掻くウォーデン。


 ……まったく。この男は。


 そうは思うものの、今日は二日酔いも遅刻もしなかったので良しとしよう。


「みんな集まったね。じゃあ行こうか」

「おう」


 ラナの号令で、俺たちは馬車へと向かった。

 今日は長い一日になりそうだ。

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