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第二回勇者会議

 それからは修行の毎日だった。

 朝起きてすぐに至純殿に向かい、ひたすら刀を振るう。ラナとアイリスの時間が取れた時にはサナとの死合いだ。

 ラナとアイリスが忙しいながらも時間を作ってくれた為、毎日一時間は行うことが出来た。


 結果としてサナはメキメキと力を付けていった。

 初めて死合いをした時とは比べ物にならない程、今のサナは強い。

 闇の使えない俺では勝つことが難しい程に。

 そうなると俺相手では修行の意味を成さなくなった。だから後はカナタに任せることにした。


 魔術の研究があると言いつつも、なんだかんだでカナタはサナに付き合っていたようだ。


 そうしてやることのなくなった俺は朝から晩まで至純殿に篭った。


 ひたすらに己と向き合い、剣技を磨いていく日々。

 全ては魔王戦の最後で放った「斬」を再現するために。


 しかし何十、何百、何千と刀を振ろうと、俺があの一刀に至る事はなかった。


 何かが致命的に足りていない。

 きっと後何万回刀を振ろうがあの極致には辿り着けないだろう。そんな確信があった。

 だけどそれがわかっただけでも収穫だ。

 他にやり方を考える必要がある。


 俺に足りないものはなにか。

 それが今後の課題だ。



 

「今日は集まってくれてありがとう。忙しいから手短に済ませるね」


 それから約一ヶ月が経ち、ラナから招集が掛かった。

 時刻はお昼が過ぎた辺り。徹夜続きなのかラナとアイリスの顔には疲労の色が見える。


「その前に! 第二回勇者会議を開催します! 拍手!」


 ラナとは対照的に元気一杯のサナが立ち上がり拍手をする。するとカナタが呆れたように溜息を吐いた。

 

「それ毎回やんのか?」

「毎回やるの!」


 どうやらサナにはこだわりがあるらしい。

 これにはラナも苦笑していた。


「もー。みんながノリ悪いから始めましょう! はい! ラナ!」


 サナは頬を膨らませながら音を立てて椅子に座った。

 

「うん。ありがとねサナ。じゃあまず今日の議題だけど、前から告知していた通り三日後に迫った凱旋祭についてです」


 ラナはかなり前からグランゼル王国の各都市へ向けて凱旋祭の告知を行っていた。それが三日後に迫っている。

 

 昨日、ラナに頼まれてカナタと買い出しに行った時には既に王都はお祭りムードだった。

 ラナとデートした時よりも人が多く居たように思う。きっと凱旋祭目当てで王都の外から来ている人達も大勢いるのだろう。

 皆が皆、どこか浮かれた様子で凱旋祭を楽しみにしている事が伝わってきた。

 

「って言ってもみんなにやってもらう事は多くないんだけどね」

「前言ってたみたいに馬車から手を振るだけか?」

「レイの言う通り。当日は朝、城から馬車で出発して王都を一周してもらう予定。馬車は三台で一台目に勇者であるサナと聖女であるアイリス。そして二台目にレイとウォーデン。三台目にカナタとカノン。本当は人気のレイを三台目にする予定だったんだけど一番安全なのは真ん中だからこうした」

「なるほどな。万が一、眷属の襲撃があった時の為か」


 カナタが腕を組んで頷く。


「うん。十中八九、ヤツらの狙いはレイだから。なんで狙っているのかはわからないけど、殺させるわけにはいかない」


 隣にいたラナが俺の手を取り、握った。

 俺もしっかりと握り返し、ラナの目を見る。

 

「俺もラナを残して死ぬつもりはないよ」

「うん。それはちゃんとわかってるよ」


 二人で見つめ合いながらそんな事を言っていると、カナタが咳払いをした。


「――おい。また二人の世界に入ってるぞ」

「そうだそうだ!」

「……お姉ちゃん」


 サナがカナタに便乗して揶揄い、アイリスは頬を染めながらも溜息を吐いていた。

 カノンはいつもの無表情。ウォーデンは砂糖でも吐き出しそうな顔をしていた。


「まあ流石にもう慣れたけどな。レイ。……その後、封印はどうなんだ?」

「……全くだな」


 レニウスが言うには封印が定着したらわかるようになっているとの事だが、いまだに変化はない。

 これだけ何もないと見逃しているのではないかと不安になるが、まだ一ヶ月と少ししか立っていない。

 最長で一年ぐらい掛かるらしいし、まだ焦る時ではないだろう。


「なら当日は弱体化したままだと考えた方がいいな」

「悪いな。なんかあったら頼む」

「言われるまでもないさ。それでラナ。キミは当日、別行動なのか?」

「うん。私は王族として城で勇者を出迎える役目だから」

「……なるほど」

「でも何か起きたら直ぐに向かうから」

「それは頼もしいな」

「任せて」


 カナタの言葉にラナが上品に笑みを浮かべる。


「ひとまず凱旋祭はこんな感じかな。あとは王城に戻ってきてからサナはスピーチをお願い」

「えぇ!? スピーチ!? 私が!?!?」


 サナが椅子から立ち上がり、驚きを露わにする。

 どうやら聞いていなかったらしい。


「話す内容は決まってるから心配しないで。サナは紙を見て話すだけでいいから。……あっ、それとも自分で考えたい?」

「カンガエマセン」


 カタコトの外国人みたいになったサナにみんなが苦笑する。


「ならそのつもりでよろしくね」

「ワカッタ。ちなみにそのスピーチの紙は早めに貰えたりする?」

「うん。この後、すぐに渡すね」

「アリガトウゴザイマス」


 サナが肩を落としながら自分の椅子に座った。

 とはいえ、サナは昔からこういうのは苦手ではない。きっとそつなくこなすだろう。


「とりあえず初日はこんな感じかな。何か質問ある人はいる?」


 ラナの言葉に手を挙げる者はいなかった。


「なら当日はよろしくね。って事で今日は解散! お疲れ様でした!」

「お疲れ様!」


 こうして第二回勇者会議は終了した。

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