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戦う理由

 俺は強さを求めるのならば、理由が必要だと思っている。

 漠然と「強くなりたい」と思っている人間と理由を持つ人間では成長の度合いが違う。

 前者は理由、信念や覚悟のある者には到底及ばない。

 

 決して折れない芯。ブレることの無い確固たる意志。

 これらを持つ者の成長は凄まじい。


 俺は自身が()()()()()()からよく分かる。

 

 俺が強さを求めたのは「ラナを必ず救い出す」という理由があったからだ。

 それが俺の()であり、存在理由。

 きっとこの()()が無ければ、爺との殺し合いに耐えきれず、命を落としていた事だろう。

 

 そして俺はやりきった。ラナを救い出す事が出来た。

 しかし()()がなくなったわけではない。

 新たに「ラナの暮らすこの世界を守る」に変わっただけだ。


 これから先、俺はこの理由があればどんな強敵にも立ち向かえる事だろう。


 しかしこれは俺の理由だ。サナの理由ではない。


 サナは言って仕舞えば俺に巻き込まれただけだ。

 本来、戦わなければならない理由はない。

 それに勇者としての役目も既に果たしている。だから帰還するまで平和に暮らしていればいい。


 しかしサナは強さを求めている。


 それはここ数日、白光騎士団の訓練に混ざっていた事からも明白だ。


 サナの性格上、流されるままに訓練をしているわけではないだろう。

 焦っていたのも知っている。

 伊達に幼馴染をやっていない。だからそれぐらいは分かる。

 しかしはっきりとした理由まではわからない。

 サナが何を思い、強さを求めるのか。

 そしてその理由がどれほどの想いなのか。

 

 殺し合いに耐えられる程の覚悟でなければ、認めるわけにはいかない。


 だから俺は聞いた。


「サナ。キミはどうして強さを求める?」


 するとサナは確かな輝きを宿した瞳で俺を見た。

 

「私は守られるだけの存在ではいたくない。レイとカナタが戦っているのに見ているだけなんてのはもうイヤ。私は皆と()()でいたい。仲間を守れるぐらいの強さが欲しい!」

「……それが理由か」


 根底にあるのは魔王戦での実力不足だろう。

 きっと戦いの場にすら立てなかった自分を()()であると思えていない。

 だから自らも肩を並べ、仲間を守りたいと願っている。


 それは確かな覚悟だ。

 俺がとやかく言うほどのものでは無い(れっき)とした理由である。


 ……それにこれからの敵は眷属だ。


 眷属とは使徒から力を分け与えられた魔術師。つまりは人間だ。

 ここで殺し合いを経験しておく事には意味がある。

 

 ならば俺のやるべき事は一つだ。


「サナ。聖刀(フィールエンデ)を抜け」


 俺は木剣を投げ捨て、腰に差していた雪月花を抜き放つ。


「ソルド団長! 念のため、アイリスを呼んできてもらえますか?」

「……すぐに!」


 俺たちのやりとりを聞いていたソルド団長が駆けていく。それを見送り再びサナに視線を向ける。


「早く立て。ここから先は一切の手加減はしない」

「う、うん」


 サナは立ち上がると聖刀(フィールエンデ)を召喚した。

 そして先ほどと同様に俺たちは向かい合う。


「今、この瞬間から俺はサナの敵だ。俺はサナを殺す。だからサナも俺を殺せ。遠慮や情は捨てろ。じゃなきゃ――」


 俺はそこで一度言葉を区切ると、殺気を撒き散らした。


「――死ぬぞ」


 その瞬間、サナの表情に恐怖の色が浮かんだ。

 しかしキュッと口を引き結ぶと、覚悟を決めて大きく息を吐いた。

 そして聖刀(フィールエンデ)を構える。


「うん。わかった。私とレイは敵」


 サナは自分に言い聞かせるように呟いた。

 そしてお互いの戦意が高まっていく。


 しかし次の瞬間、バタンッと上から窓の開く音が鳴り響いた。

 そして俺とサナの間に人影が着地する。


「ちょっとレイ!? どういう状況!?」


 殺気に気付いたラナが降りてきたのだ。

 慌てたように俺とサナを交互に見てから、こちらに詰め寄ってくる。

 凱旋祭に向けて作業中だっただろうに、申し訳ない。

 

「ごめん。邪魔しちゃったか?」


 俺が苦笑を漏らすと、ラナは首を振る。

 

「いや、それはいいんだけど……どうしたの? けんか? 私で良ければ話し聞くよ?」


 ラナの可愛らしい予想につい笑みが溢れ、殺気が霧散した。

 

「喧嘩でこんな殺気は撒き散らさないよ」

「あっ……。確かにそうだよね」

「疲れてる?」


 ラナの頬に手を当て、顔を覗き込むと薄らと隈が出来ていた。


「ちゃんと寝てる?」

「あんまり……かな。でも頑張らないと! ……ってそれはいいよ。どうしたの?」


 ラナの頬から手を離して雪月花の柄に触れる。

 

「修行の一環だ。()()()()()


 言葉の意味が伝わったのか、ラナの表情に緊張が走った。


「危険……なのは承知の上なんだよね?」

「ああ。だからラナ。忙しいところ悪いんだが、頼んでもいいか?」

「万が一が起きそうになったら止めればいいんだよね?」


 理解が早くて助かる。

 さすがラナだ。


「悪い。頼む」

「うん。わかった。……ラ=グランゼル」


 ラナの手に氷で出来た剣、星剣(ラ=グランゼル)が現れた。そして俺から距離を取り、サナに顔を向けた。


「サナ。本気でやってね。じゃないと怪我じゃ済まないかもしれないから」

「わかった。ありがとねラナ」


 二人は頷き合い、お互いに剣を構えた。

 俺も雪月花を構え直す。


 ……とはいえ、ラナが来てくれて助かった。

 

 ラナは闇の使えない俺やサナよりも遥かに強い。だから比較的安心に殺し合いが出来る。


「レイ。私はいつでも大丈夫だよ」

「ありがとなラナ。じゃあサナ。準備はいいか?」


 サナの表情が引き締まる。


「うん」


 俺も再び殺気を放ち、戦意を漲らせていく。

 

「じゃあ……いくぞ――!」


 俺はサナに向かって疾走を開始した。

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