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しがらみ

「それじゃあ今日の所は解散にしとくか。また何かあったら各々で招集を掛ける形で」

「わかった。新年祭と凱旋祭のこと、決まったらまた伝えるね」

「頼む。それじゃあ各自解散で」

「お疲れ様」

「お疲れ様でした!」


 全員が結界を解除する。

 するとラナが立ち上がって扉へと向かった。アイリスも立ち上がるとペコリと頭を下げてからラナの後に続く。

 今朝方、ラナが今日は忙しいと言っていたので公務があるのだろう。新年祭と凱旋祭の事だろうか。

 

 そしてウォーデンとカノンも部屋を出た。続いて、カナタも出ようとしたところで俺は声を掛けた。


「カナタ。少しいいか?」

「ん? ああ」


 これから俺が言うことを察したのか苦笑を浮かべている。そして最後に残ったサナは立ち上がろうともしなかった。


「私だけ仲間外れなんてことはないよね?」


 いつものニヤニヤ顔で笑うサナに俺とカナタは苦笑するしかなかった。


 


「単刀直入に聞くが……カノンの事、どうするんだ? 気付いているだろ?」


 俺はカナタが再び椅子に座ってからそう口にした。

 カナタがバツの悪そうな顔で頬をかく。

 

「そりゃ……な。だけど受け入れることはできない」

「それはいつかは地球に帰らないといけないからか?」


 俺の質問にカナタは即答した。

 

「そうだ」

「じゃあさじゃあさ! いっそ連れて帰っちゃえば?」


 サナが気楽にそんなことを言う。

 俺はいい案だと思った。だけどカナタは首を横に振る。


「カノンにはカノンの目的がある。俺の事情に巻き込むわけにはいかねぇよ」

「んー。じゃあもしカノンちゃんが連れて行ってって言ったら?」

「……カノンはそんなこと言わない。少なくとも目的を果たすまではな」


 カナタの言葉にサナはムスッと頬を膨らませた。


「だから()()だって言ってるじゃん。どうなの?」

「……」


 カナタは何も言わなかった。サナは不満げだ。


「もしかして他に何か理由があるの? ずっと彼女を作らなかったのと関係してる? めっっっちゃモテてたのに」

「モテてたのか?」

「何度友達を慰めた事か! もう勘弁して欲しいよ……」


 サナは遠い目をして溜め息を吐いた。それだけで相当苦労したのだとわかる。


「別に理由なんてない」

「じゃあなんでずっと彼女作らなかったの?」


 なにやら話が逸れている気がするが、それはそれで気になるので訂正するのはやめておいた。

 

「作れると思うか? 俺は魔術師だぞ? そもそも住む世界が違う」

「え? 魔術師って一般人と付き合えないの?」

「普通の魔術師ならあり得ない話ではない。だけど俺の実家、一之瀬家は魔術協会の中でも地位が高い。簡単に言うと名門だな。だから相応しい者じゃないと認められない」

「それは血統的な問題か?」


 カナタの言う名門という言葉にどれだけの重みがあるのか。俺には想像がつかない。

 しかし爺から魔術協会は封権的だと聞いている。だからそんな現代日本ではありえないような制度が残っていてもおかしくはないように思う。


 そして俺の予想は正しかったようでカナタは頷いた。


「レイの言う通りだ。名門と呼ばれている魔術師たちは血統を重視する。生まれてくる子供が強くなるようにな」

「……貴族みたいだな」

「あながち間違いでもない」


 カナタが肩をすくめる。


「……相応しい者……か。でもカノンちゃんならいいんじゃない? そこんところはどうなの?」

「……相応しいか相応しくないかで言ったら相応しいだろうな。魔術に関しての造詣が深くて、目的に対してもまっすぐだ。それに特異属性でもある」

「じゃあいいじゃん」

「そんな簡単な話じゃ――」

「簡単な話だよ」


 カナタの言葉を遮ってサナが言う。


「カナタが好きかどうかだけじゃん」


 しかしカナタは大きな溜め息を吐いた。


「……好きかどうかか。確かに俺はカノンに対して好感を持っている」

「じゃあ――」


 今度はカナタがサナの言葉を遮った。

 

「だけどそれが恋愛感情なのかはわからない」

「わからない?」

「そもそも好きってなんだ?」


 ……あぁ。そういうことか。


 俺はその一言で察してしまった。

 

 カナタは生まれながらにして魔術師だ。

 俺には想像することしかできないが、きっと名門である一之瀬家では相応しい魔術師になる為の教育もあったのだろう。

 だからカナタは非魔術師である一般人とは友人になれこそすれ、深い関係にはなれない事を分かっていた。

 

 故にカナタは恋愛感情というものを抑圧してきたのだろう。それが意識的だったのか無意識的だったのかはわからない。

 しかし幼い頃からの習慣が感情を麻痺させた。


「俺にはそれがわからない。レイ。お前にならわかるか?」

「わかるよ。俺はラナを愛しているからな」

「私は臆面もなくそう言えるレイはすごいと思う。これが……愛なんだね……」


 しみじみとそんなことを宣ったサナ。少しは空気を読んで欲しい。今は真面目な話をしているのだ。

 

「……少し黙っててくれサナ」

「ハイ。スミマセン……」


 椅子の上で膝を抱えて小さくなったサナを放置してカナタは続ける。

 

「その愛してるってのはなんなんだ?」

「俺は家族になりたいかどうかだと思う。まあ嫁にしたいかどうかだな」

「え!? レイってもうそこまで考えてるの?」


 サナが机を叩いて身を乗り出した。

 

「当たり前だろ? その覚悟が無くて愛してるなんて言わねぇよ」

「ほわ〜〜〜。大人だねぇ」


 真っ赤に染まった顔をサナは手で仰いでいた。


「……家族になりたいか、か。だとしたら俺の好感は愛ではないな」

「今は、な? カナタなりに考えているのはわかるが、初めから無理だって決めつけると無理にしかならないぞ?」

「無理にしかならない……か……」


 カナタは俺の言葉を反芻した。そして頷く。


「確かにその通りかもな。すこし……いやかなり思考が凝り固まっていたらしい」

「まあどう転んでも俺はお前が決めたことを尊重するよ。だから後悔だけはするなよ?」

「私も。カノンちゃんのことは好きだけど一番はカナタだからね」

「わかった。ありがとな」


 そう言ってカナタは曖昧な笑みを浮かべた。


 これで何か変化が起きればいい。そう思わずにはいられなかった。

 親友であるカナタには幸せになって欲しい。


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