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勇者会議④

「ともあれ地球に帰る方法は探さないとか」

「まあでも現状手掛かりと言えば勇者召喚の魔術式ぐらいしかないけどな」


 カナタが苦笑を浮かべつつ頷いた。

 

「そこなんだよなぁー」


 口からつい溜め息が溢れる。

 その手掛かりが問題なのだ。なにせ勇者召喚の術式は天体魔術式だ。それは星の位置を術式の一部として利用して発動する高度な大規模術式。

 俺には到底理解できない代物だ。そしてそれはカナタも同じ。(ジジイ)が言うには現代の魔術師では解読困難らしい。

 

「少し俺の方でも調査してみる。アイリス。後でサナを召喚した時の事を聞かせてもらえるか?」

「はい! なんでも聞いてください!」


 カナタの言葉にアイリスは力強く頷いた。


「俺にも手伝えることがあったら言ってくれ」

「もちろん私も。個人としてもこの国の王女としても協力する」

「二人ともありがとな」

「当然の事だ。俺たちの為に来てくれたんだからな」

「それでも……だよ」


 律儀な事だ。カナタらしい。

 ともあれ、これでひとまず帰還に関しての話は纏まった。

 

 他に話すことは思い浮かばない。というよりも情報が不足しすぎていて議論する余地がないと言った方が正しいだろうか。

 ヒトの事や星剣の事も然り。

 だからまずは自分で調べてみるつもりだ。


「俺はこのぐらいだな。他に議題のある人はいるか?」


 俺の問いかけにカナタが手をあげる。


「一応共有しておく。昨日まで俺はカノンと熱砂迷宮っていう迷宮に行ってたんだが、異変が起きていた」

「異変?」


 聞き覚えのない出来事に首を傾げる。

 ラナの方を見ても報告を受けていないのか、知らない様子だった。アイリスも同様だ。

 

「具体的に言うと迷宮内の魔物が強くなっていて、環境が変わっている階層もあった」

「強くなってたって等級はわかるか?」


 S級冒険者であるウォーデンが真剣な面持ちで聞いた。

 カナタは端的に答える。

 

「S級だ」

「熱砂迷宮だろ? A級だったはずだがS級に成ったのか?」

「わからない。俺はそうじゃないと思うがギルドは調査するって言ってたな。ウォーデン。ついでに聞きたいんだが、こういう異変ってのはよくあるのか?」

「いや、滅多にない。というか、ないな。発見されたばかりの迷宮で暫定等級をミスったりすると、等級よりも強力な魔物が出たりはするがな……。ましてや熱砂迷宮だろ? ちゃんと管理されている迷宮でそんなことはあり得ない。少なくともオレは聞いた事がない。」

「なるほどな……」


 カナタが顎に手を当てて、視線を机に落とす。

 

「ちなみに出現した魔物と階層は?」

砂塵竜(ミコラス・エルグネラ)帝砂獣(グランドサンドワーム)の変異種だ。どちらも第二十六階層にいた」

「よりによって竜種かよ」


 ウォーデンが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。

 竜種という魔物はそれほど危険な存在だ。A級冒険者が束になったとしても敵いはしない。


「それに二十六か。……何人死んだ?」

「いや、死者はいない。俺とカノンの救出がギリギリ間に合った」

「それは……奇跡だな」

「無事とは言い難い状況だったけどな」

「だけど命はあったんだろ? ならやっぱり奇跡だよ。ありがとなカナタ。カノン。同じ冒険者として礼を言う」


 ウォーデンは珍しく真剣な面持ちで頭を下げた。


「礼なら本人から貰ってるよ。……それとこの異変、少し気になることがあってな。俺はもしかしたら眷属が絡んでるんじゃないかと疑っている」

「ここに来て眷属か……」


 俺は眉を顰めた。なるべくなら聞きたくなかった言葉だ。


「根拠はあるか?」

「二十六階層で視線を感じた。迷宮ってのは誰が入ったかの記録を取ってるんだけど、俺たち以外は誰も居ないはずだったんだ」

「視線か……姿は見てないんだな?」

「ああ。視線を感じた瞬間に周囲一帯を薙ぎ払ったからな」

「使った魔術は?」

(イカズチ)だ」

「アレか……」


 指向性を持たせた雷を放つ魔術だ。

 俺も一度見たことがあるが、あの破壊力は凄まじい。視線の主とやらがまともに喰らったのならば文字通り消し飛んでいる可能性が高い。

 

「……私の方でも調べてみるね。幸い王国のギルドマスターには(ツテ)があるし」

「フェルナンドさんか。ならそっちはラナに任せたほうがよさそうだな」

「うん。任せて」

「俺からも頼む。何かあれば言ってくれ」

「わかった」

「……だけどそれじゃ触媒は入手できなかったのか?」


 色々とトラブルがあったようだし、当初の目的は果たせなかったのかと聞いてみたのだが、カノンは首を振った。

 

「……ちゃんと入手できた。……砂塵竜と帝砂獣の変異種の触媒」

「S級の触媒か。それは豪華だな」


 シルを造り出した時もS級の魔物であるヒュドラの触媒を使っていた。ならば今回もシルと同格の使い魔が生まれるのだろう。

 

「……だからアイリス。……あとで魔力をちょうだい」

「わかりました!」


 それにもしも以前の仮説が正しいのならば、聖属性の使い魔が生まれる。

 カノンがいる限り死ぬことのない回復魔術の使い手。

 成功すればかなりの戦力アップになるだろう。

 

「それは楽しみだな」

「……ん」

「カナタ。他に何かあるか?」

「俺は以上だ」

「了解。他は?」

「私から一ついい?」


 次に手を挙げたのはラナだった。


「どうぞ」

「もうすぐで年が明けるから国をあげて新年祭をやるつもり。それで凱旋祭、勇者パーティの魔王討伐を祝した祭りも合同でやる予定だからみんなもそのつもりでいて」

「……新年祭。もうそんな季節か」


 レスティナに来てからもうすぐ約三ヶ月が経つ。

 色々なことがあったのも相まって、もっと前からいたような感覚もするが、まだ三ヶ月だ。

 しかし季節はすでに冬。年明けは近いのだろう。


「ちなみに年明けっていつなんだ?」

「約一月後だね」


 レスティナでの一年は三百五十日だ。一月が三十五日で十ヶ月ある。


「了解。それまでに地球は年明けになるかな?」 

「レイ。地球では既に明けてるぞ?」


 カナタが驚きの言葉を口にした。

 

「まじか……。全然知らなかった。てかカナタは数えてたのか?」

「経過日数ぐらいはな」

「すごいな……。ちなみにサナは?」

「私が数えてるわけないじゃん!」

「だよな。それが普通だと思う」

「俺が普通じゃないみたいに言うな」


 カナタはそう言うと肩をすくめた。


「でもでもラナ。 新年祭? 凱旋祭? では具体的に私たちは何をすればいいの?」


 サナが首を傾げつつラナに聞いた。

 それは俺も気になる。

 

「馬車で大通りを行進するから、民衆に手を振ってくれれば大丈夫。サナは勇者だから一番目立つところで!」

「うぇ。あんまり気乗りしないな」

「この前はノリノリで手振ってただろ」


 王都に帰ってきた時の話だ。

 俺の記憶だとあの時、サナが嫌そうにしていたようには思えなかった。

 しかし、それとこれとは話が違うらしい。

 

「あの時はそんなに人が多くなかったしぃ〜」

「いや十分多かっただろ。……まあがんばれよ」

「レイも他人事じゃないからね? 黒の暴虐サマは人気なんだから」

「……ラナ。勘弁してくれ」

「ふふふ。まあ諦めて?」


 ラナが茶目っ気たっぷりにウィンクをした。


「……ぐ。……わかった」

「……レイはやっぱりラナに弱いなぁ〜」


 サナがニヤニヤ顔で見てきたが、俺はあえて無視する。

 そんなやりとりにラナが苦笑を浮かべた。

 

「私からは以上かな。……っともう一個あった。ウォーデンさん。蒼氷騎士はどうする?」


 たしか正式に加入するかどうかを保留にしていたはずだ。

 ウォーデンは曖昧な笑みを浮かべる。


「……悪い。もう少し考えさせてくれ」

「わかった。なら決まったら教えて」

「おう」

 

 ウォーデンが勇者パーティに参加した理由は単純明快。金だ。

 そして蒼氷騎士は第一王女の親衛隊。給金はかなり高い。だから()()に目的が金ならば即決するはずだ。

 しかしそうじゃない。


 ……やっぱり何かあるよな?


 酒好き、ギャンブル好きなのは間違いないだろう。

 二日酔いはしょっちゅうだし、ギャンブルで負けたとボヤいていたのも聞いている。

 だがこれまで共に旅をしてきて、俺は違和感を感じていた。


 ……そこまで不誠実な人間には思えないんだよなぁ。


 二日酔いはするが大事な局面では絶対に酒は飲まない。それにギャンブルでも引き際は心得ているように思う。

 そして一番の理由はウォーデンがS級冒険者だということだ。

 S級冒険者は実力があっても信用が無ければなれない。

 ウォーデンが本当に言った通りのロクデナシだったのならS級冒険者になれるだろうか。

 答えは否だ。


 ……初めに言っていた金を全部スッたってのも多分嘘だよな。調べるか?


 そうは思うものの、俺はその考えを打ち消した。

 ウォーデンは仲間だ。信用もしている。だから自ら打ち明けてくれるまで待ったほうがいいだろう。

 無理に詮索する必要はない。


 ……もし困ってるなら必ず力になろう。


 俺はそう心に決めた。

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