勇者会議③
やる事は決まった。
しかし議題はこれだけではない。
「じゃあ次の議題に進むか。まずは使徒と眷属か?」
「でもそれはほとんど情報がないよね?」
ラナの言う通りだ。
俺たちはほとんど情報を持っていない。
わかっている事といえば、使徒は「月ノ迷宮」の壁画に描かれていた四体の異形だという事。そして使徒たちは魔法使いに匹敵する程の力を持つと言う事ぐらいだ。
次に眷属。こちらの強さはわからない。しかし魔法使いの口振りからすると使徒よりははるかに弱いだろう。
なにせ眷属という存在自体が使徒から力を与えられただけの魔術師、つまりは人間だからだ。
人間という枠にいるのならばどうにでもなる。
「そこは情報が集まってからでいいんじゃない?」
「そうだな」
サナの言葉に俺は頷いた。
この情報はすぐに集められるような物ではない。
王城にあるほとんどの書物に目を通しているが、使徒や眷属の記載は一切なかった。おそらくは秘匿されている情報だ。
「なら次は魔術の事かな」
以前、ラナを救い出してから聞こうとしていた事だ。
それは地球とレスティナの魔術が同じだと言う事。帰路の道中で魔術師組が話し合っていたのは知っているが、結果は聞いていない。
するとラナは悩ましげに眉を顰めた。
「んー。わかった事は全く同じって事だけかな。なんで同じなのかはよくわかっていない」
「俺は勇者が怪しいと思ったんだけどな」
ウォーデンも眉を顰め、アイリスが頷く。
「私もです。勇者が地球の魔術をレスティナに持ち込んだのか何らかの方法で勇者が地球に帰還し、レスティナの魔術を持ち込んだのか。どちらかだと思っていました」
「……でもそれだと同じ魔術定数で起動するのはおかしいって結論になった。魔術定数は世界で定められている筈だからな。つまりは何もわからねぇって事だ」
カナタが肩をすくめ、他の魔術師組がうんうんと頷いた。
「結局わからずじまいか」
「うん。だから今後も研究は続けるつもり」
「了解。俺は魔術の事に関してはさっぱりだからその辺はラナに任せる。何かわかったことがあれば教えてくれ」
「任せて! その時は都度共有するね!」
「ありがとな。じゃあ次は……地球への帰還方法かな。まず聞いておきたいんだが前提として、もし帰還方法が見つかったらサナとカナタはどうするつもりだ?」
つまりは残るか、帰るか。
まず口を開いたのはサナだった。
「レイは残るんだよね?」
「ああ。俺は帰らない。ラナと一緒にこっちで生きるつもりだ」
幸い、母さんとの別れは済ませてある。
心残りは幼馴染に何も告げずに行く事だったが、なんの因果か二人はここにいる。
だから俺に心残りはない。
だけどサナは違う。
俺と同じく母子家庭だったサナは唯一の肉親である母親を残してきている。別れすらも告げていない。
「まあそうだよね。……私はまだ少し考え中……かな。残してきたママや友達は心配だけど、私にとってレイとカナタが居る方が大切なんだ。だから急いで帰りたいわけじゃない」
そう言ってサナは曖昧な笑顔を浮かべた。
「……わかった。別にすぐに答えを出す必要はないからな」
理想的なのは行き来できる事だ。
だけど帰還方法もわかっていない今、それは高望みしすぎだろう。
「ありがと。レイ」
「礼を言われる筋合いはない。巻き込んだのは俺だからな」
「違いますよレイさん。巻き込んだのは召喚した私です。前にも言いましたが、出来る限りのことはしますのでいつでも言ってくださいね?」
「アイリスもありがと」
「……はい」
アイリスが申し訳なさそうに頷いた。
やはり責任を感じているのだろう。
……どうにもできないのはやっぱりもどかしいな。
ともあれ、ひとまずサナの意向は把握できた。
「ならカナタは?」
「俺は帰らないといけない。一之瀬家の次期当主としての責任もあるし、絶賛アイツに迷惑をかけてるからな」
アイツ。
十中八九アスカちゃんの事だろう。
「……帰っちゃうの?」
カノンがカナタを見て呟いた。
あまり表情は動いていないが、机の上に置かれた手がギュッと握られている。
「ああ。俺は元よりそのつもりだ」
「………………そう」
毅然と言い放ったカナタ。
それにカノンは小さく呟くと口を閉ざした。その瞳は小さく揺れている。
……やっぱりこれはそうだよな?
俺も鈍感ではない。
というよりここまでの反応でわからないほうがおかしい。
しかしそれを思うと、これから言う事は心苦しい。
「……俺もアスカちゃんと約束したからカナタは何としても帰すつもりだ。その為に方法を――」
「……アスカ……ちゃん? ……レイ。……それって?」
カノンが俺の言葉を遮って呟いた。底冷えするような声音だ。
部屋の温度が下がったような錯覚がする。
加えてカノンの顔が怖い。普段の無表情も相まってすごく怖い。
「じ〜」
視線を感じたのでそちらを向くと、サナが責めるような視線を向けてきていた。
……まあこれは俺が悪いな。
軽率だったとしか言いようがない。
俺にとってはカナタの妹だが、カノンにとっては知らない女だ。心中穏やかではないだろう。
「……勘違いするなカノン。アスカちゃんはカナタの妹だ」
「………………そう」
カノンは呟くと、ホッと息をついた。
表情はあまり変わっていないが、雰囲気が和らいだ。……ような気がする。
……でもまあ確定だよなコレは。……問題は……。
カナタに視線を向けたが、特に気にした様子もない。
……でも気付いてない筈はないよなぁ?
流石にここまできて分かっていないなんてことは考えられない。
それにカナタは鈍感じゃない。むしろ逆だ。
いつも周りをよく見ているカナタに限って、ソレはあり得ない。
……なら考えられるのは、帰るのが確定してるからあえて気付かないフリをしている?
カナタならありそうだ。というよりそれしかないだろう。伊達に何年も幼馴染をやっていない。それぐらいはわかる。
……さて、どうしたものか。
カノンは仲間だ。
彼女がいなければアルメリアの呪いは解けなかったし、標のペンデュラムは手に入らなかった。
故に恩人である。だから円満に進むならそれに越したことはない。
……問題は色々と山積みだな。
俺は内心でため息を吐いた。
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