勇者会議②
「……魔法使いよりも? それは本当か?」
掠れた声でカナタが言う。
俄には信じられない事だろう。しかし事実だ。
「間違いない。実際に魔法使いを目にしたからこそ断言できる」
「……それは……なんていうか……果てしないね」
隣に座っているラナが呟いた。
ここにいる全員が魔法使いを目にしている以上、俺の言葉がどれほど異常な事かがわかっている。
だからこのままではいられない。
この世界は薄氷の上にある。アレがその気になればこの世界を滅ぼす事など造作もないだろう。
「だから強くなる必要がある」
そうなった時に座して滅びを受け入れるわけにはいかない。俺には守るべきものがあるのだから。
「……ならせめて魔法使いに至らないとだな」
「ああ。そこが最低条件だとおもう」
正直、魔法使いが束になっても敵うかどうかは分からない。だが、魔法使いという領域に至っていなければ舞台にすら上がれないだろうと思う。
「一ついいか?」
二日酔いから回復したウォーデンが手を挙げた。
「なんだ? ウォーデン」
「正直な話、魔法使いになんて至れると思うか? オレはS級冒険者になって長いが、その領域に至った人間を見たことがない」
その言葉には重みがあった。経験という重みだ。
S級冒険者というものは才能が無ければ決して辿り着けない領域だ。なる為にはそれ相応の時間が掛かる。
そして今も尚、S級として活躍しているウォーデンは数多の冒険者を見てきたはずだ。しかし魔法使いに至った者はいない。
「だからオレは人の身で至る事はできないんじゃないかと思っている」
しかし星剣適合者であり、人類の中ではまごう事なき最強のラナは首を横に振った。
「私は至れると思ってる」
「……その根拠は?」
「理論的に説明できるようになってから見せるつもりだったけど……良い機会かな」
ラナはそう言うと人差し指を立てた。
「いい? 一瞬だからちゃんと見ててね?」
そして指先に、小さな氷の結晶を作り出す。
しかし、その結晶はすぐにひび割れると消えてしまった。
「な!?」
カナタは驚きのあまり椅子から立ち上がった。
アイリスやカノン、ウォーデンも目を見開いている。
よくわかっていないのは純粋な魔術師ではないサナと俺ぐらいだ。
「どうやってるんだそれは……。魔術式は?」
カナタが震える声で呟く。
そこで俺も気付いた。魔術は魔術式を介することでしか発動しない。であるならば今のラナが起こした現象は魔術ではないということだ。
「魔術式はない。でも何がどうして出来ているのかは私自身もわかってない。ただ言えるのは龍之息吹を停めた時の感覚を思い出してやってる。まだこれが限界だけどね」
「……氷の概念ってところか?」
俺が言うとラナは苦笑した。
「まだまだ魔法とは言えないけどね。どう? ウォーデンさん?」
「……たしかにそれを見せられちゃ出来ないとは言えないな。問題はそれをどうやってオレたちも出来るようになるかだが……」
「それならラナ。一度俺たちの時を停められるか?」
「それはどうして?」
カナタの言葉にラナは首を傾げる。
「レニウス様が言うには星剣の概念は魔法だ。だからそれを受ける事によって何か掴めるかもしれない」
「なるほど。わかった。……ラ=グランゼル」
呼びかけに応じ、ラナの手に星剣が現れた。
「準備はいい?」
「ああ」
その場にいた全員が緊張した面持ちで頷く。
「いくよ。――ティリウス=ブリジリア」
ラナが呟いた瞬間、世界が色褪せた。
辺りを見れば全てが停止している。壁に備え付けられている時計の針も動いていない。
そしてカナタも緊張した面持ちで停止している。他の面々も同様だ。
「これが停止の概念……魔法か」
「……やっぱレイは動けるんだね」
ラナは苦笑を浮かべていた。そこで俺は気付いた。
「……ん? あぁ。俺も停まってなきゃおかしいのか」
「うん。私は今、この部屋の時を停めているからね。別にレイを対象外にしたつもりはないよ」
「……なんでだ?」
「さあ? でも、初めて会った時もレイは停止空間でも動けたからなぁ。あの時は本当にびっくりしたよ」
「その節はすみませんでした」
真面目くさった顔で頭を下げると、ラナは苦笑した。
「初めから気にしてないよ。でも何か掴めた?」
「……さっぱりだな」
「そっか。まあそう簡単に行かないよね」
「簡単に行ったらその辺が魔法使いだらけだろうし仕方ないんじゃ無いか?」
「だねー。ひとまず解こうか」
「ああ。頼む」
「うん」
ラナが頷くと世界に色が戻った。
すると時が再び動き出す。
「終わったよ」
「……は? まじか。何も分からなかった……」
「私も〜。ホントに停めてたの?」
カナタは肩を落とし、サナは疑わしげな目をラナに向けた。
「本当だ。みんな固まってたぞ」
「レイは動けたのか?」
「ああ。なんでか分からないけどな」
カナタが顎に手を当てて思考に耽る。
「……レイ。レニウス様の言葉を覚えているか?」
「ん? どれだ?」
「『その剣は我らに届きうる可能性を秘めている』」
それは偽剣、斬をレニウスに放った時に彼が口にした言葉だ。
「確かに言ってたな」
「この我らってのは間違いなく魔法使いの事だ。それに届きうる可能性。もしかしてレイの偽剣は魔法になり得るんじゃないのか?」
「……確かに、それは一理あるね」
カナタの言葉にラナが頷く。
「そもそもレイの偽剣を説明できる人が誰もいないから」
「本当にな。レイ。あれは何なんだ?」
何なんだと言われても俺自身よくわかっていない。
「さぁ?」
「わからない事だらけだな」
カナタが苦笑していた。それには俺も同意だ。
「……でも俺は魔術なんて使えない。魔力がそもそもないしな。そんな俺の偽剣が魔法になるなんて事あり得るのか?」
俺の疑問にカノンが首を振った。
「……それは関係ないと思う。……おそらく魔術と魔法は全くの別物」
「やっぱりカノンもそう思うか」
「……ん」
「待ってください。それなら魔術を極めたとしても魔法使いには至らないということですか?」
アイリスが横から疑問を呈した。が、カノンは再び首を振る。
「……それは違う。……魔法使いは一を極めろと言った。……たぶん魔術でなくても構わないってだけだと思う」
「もしかしたら魔法使いって名前がいけないのかもな。概念使いとかの方が意味合い的には正しいのかもしれない。それなら剣技だけで魔法の域に辿り着けてもおかしくない」
「確かにカナタの言う通りかもしれない」
「お姉ちゃんも同じ考えならそうなの……かな?」
アイリスは納得してなさそうにしつつも頷いた。
「でもそれならシンプルでいいな」
「シンプル?」
隣にいたラナが首を傾げる。
「だってそうだろ? 今までとやる事は変わらない。強くなる為に各自ができることをすれば良い」
「そう……だね。強くなるのに近道はないもんね」
「ああ」
俺はラナの言葉に頷いた。
……いい機会なのかもな。
俺は今、闇を使えない。
だが言い換えてしまえば、まっさらの状態で剣技を磨く事ができる。返って好都合だ。
……初心に戻って頑張るか。
全ては仲間を守るために。
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