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勇者会議①

「第一回勇者会議を開催します! 拍手!」


 王城の一室、大会議室と呼ばれる部屋にまばらな拍手が響き渡る。一つの円卓を囲っているのは俺を含めた勇者パーティの面々だ。


「拍手が少ないな! 男ども! ノリが悪いよ!」

 

 サナの声かけに拍手をしたのはラナとアイリス、そしてカノンだけだった。

 カナタは「何言ってんだこいつ」と言う顔をしている。きっと俺も似たような表情をしていることだろう。


「集めたのはレイだろ?」

「いいじゃん! 勇者パーティなんだから!」

「……はやく始めようぜぇ」


 そう言ったのは机に突っ伏しているウォーデンだ。酒の匂いがするから十中八九、二日酔いだろう。

 俺は肩をすくめるとアイリスに視線を向けた。


「アイリス。悪いが頼む」

「……はい」


 アイリスが苦笑しつつ立ち上がると、ウォーデンに近づく。そして回復魔術を掛けた。


「あぁ〜。楽になってきた。ありがとな」

「いえ。ですが、程々にしてくださいよ?」

「わかったわかった」


 何もわかってなさそうなウォーデンにアイリスはため息を吐く。


「さて。じゃあ始めるか」


 アイリスが席に着いたのを確認して、俺は口火を切った。



 

 ラナとデートをした日から数日後、迷宮に行っていたカナタとカノンが帰還した。

 王城に全員が揃った為、俺は当初の予定通り召集を掛けた。今後の事を話し合うために。


「レイ。まずは結界を張ろう。外部に漏れたらまずい事ばかりだから」

「そうだな。頼むラナ」

「うん。みんなもお願い」


 俺を除く全員が一斉に魔術式を記述した。

 そうして張り巡らされたのは、各々の持ちうる最高の結界だ。色とりどりの結界が部屋を包み込む。

 

 これでこの部屋と外界は完全に隔離された。

 音も聞こえなければ、扉を開けても中の様子を窺い知る事はできないだろう。

 魔法使いでもなければ突破できない程に強固な結界だ。


「ありがとうな。……と言っても何から話すか。まずは現状把握からかな」

「レイ。俺はお前が魔王にトドメを刺さなかった理由が知りたい」

「それは私も気になるかな。……魔王を殺したら魔王になるってわかった理由もそこに関わってくるだろうし」

「そうだな。まずはそこからか」


 カナタとラナの言葉に俺は頷く。

 そして一度深呼吸をしてから口を開いた。


「単刀直入に言う。……おそらく俺は、俺たちは一度失敗している」

「……失敗?」


 カナタが眉を顰め、首を傾げた。

 他のみんなも同じような反応をしている。

 

「ああ。俺は一度、魔王を殺している」

「……どういう事だ?」


 俺は自らの身に起こったことを説明した。

 未来で自分が魔王になっていた事、自我を無くした俺とみんなが戦っていた事。そして死んだ事。包み隠さずに全て。


 話し終えると全員が絶句していた。

 無理はない。なにせ俺の話には現実味がない。

 俺自身ですら本当にあった出来事なのかと疑っているぐらいなのだから。

 

 一番初めに口を開いたのはカナタだった。


「レイ。その戻った……言いにくいな。この場では回帰としようか。それは今回が初めてか?」

「………………いや」


 俺は静かに首を振った。


 身に覚えは、()()

 

 こちら(レスティナ)に来た時、カナタとサナに俺の事情は話してある。だけど隠していたこともあった。

 なるべく言いたくはない。心配をかけるから。

 いまだに口に出すのは抵抗がある。


 だけどその時、膝の上に置いていた手が暖かいものに包まれた。視線を向ければ、ラナの手が俺の手に重ねられていた。


「――大丈夫だよ」


 顔を上げると、ラナが柔らかな笑みを浮かべていた。

 その言葉にスッと心が軽くなる。

 だから俺は覚悟を決めた。


「……俺は昔、何度も自殺をしている」

「……え?」


 サナが目を見開き、消え入りそうな程小さく声を漏らした。他のみんなも眉を顰めたり、口に手を当てたりしている。

 驚いていないのはラナだけだ。ラナだけは俺の全てを知っている。


「……だけど死ねなかった。思えばあの時の感覚と似ている気がする」


 今思えば、愚かな事だったと思う。

 しかし、あの時は違った。とにかく夢という苦痛から逃れたかった。その為の手段が自殺だっただけだ。

 それほどまでにあの時の俺には余裕がなかった。

 だけど、結果は失敗。気が付くと死ぬ直前に回帰していた。


「……異能か?」


 眉を顰めながらもカナタは小さく呟いた。


「異能?」

「たまに居るんだ。魔術じゃ説明できない事象を引き起こす人間が。カノンの魔眼も異能の一種だ」

「……ん」


 カナタの言葉にカノンは頷いた。

 サナ以外の反応から魔術師にとって異能とは珍しい存在ではないのだろう。


「でももしレイの回帰が異能ならおかしな事がある」

「それは私も思った。代償でしょ?」


 ラナも頷いた。

 

「代償?」

「例えば魔術協会にいる預言者も異能持ちだ。だけど強力な異能に限って代償は大きい物となる。その人は生まれつき視覚を失っていた」

「それは……」


 未来を知る代わりに未来を見る目を失う。

 それは代償というにはあまりに大きく、(むご)いものだ。

 

「だけどレイ。お前の力が本当ならそれどころじゃないはずだ。使った瞬間に死ぬぐらいの代償でも驚かない」

「私もそう思う。レイのやってることは死の回避だから」


 俺にはいまいちピンと来ないが、ラナとカナタが言うのならばその通りなのだろう。


「だからレイ。忠告しておくが、その力は戦闘に組み込むな。今この瞬間、使えなくなっていてもおかしくないからな」

「ああ。それは初めから考えてない。死の選択が軽くなるのは良くない」


 俺の異能が回帰だと仮定して、もしも回数制限のある異能だった場合、次は無いかもしれない。

 だから安易に死を戦術に組み込むつもりはない。

 

「わかってるなら俺から言うことはない」

「……ねぇカナタ。……レイの魔力が無いのって代償だと思う?」


 カノンが小さく手を挙げて質問をした。

 

「あぁ。その可能性があったか。ラナはどう思う?」

「私は無いと思う。理由はいる?」

「それだと軽すぎるからだろ?」

「うん。魔力がなくても人は生きていけるからね」

「……なるほど。……たしかに」


 カノンも納得したのか頷いた。


「その理論だとカノンにも何か代償はあるのか?」


 カノンの魔眼が異様なのであれば、その代償とやらがあってもおかしくはない。

 そう思ったのだが、カノンは首を振った。

 

「……わからない。……私の魔眼は単体では意味のないものだから」

「無くてもおかしくないって俺は思ってる」

「カナタが言うならそうなのか。基準はなんなんだろうな?」

「それは俺にもわからない。……ただ代償が全くないって事はあり得ないとされている。だからカノンも何かしらの代償を払っているはずだ」

「……わたし自身が感じてないから無いのと同じだけど」


 カノンが僅かに苦笑を浮かべて言った。カナタも同じように苦笑する。

 

「それもそうだな……」

「……あの、私も質問していいですか?」


 するとアイリスがおずおずと手を挙げた。


「なんだ?」

「レイさんが言った巨大な眼の事です。結局正体はわからないのですか?」

「俺もあれがなんだったのかはわからない。だけど魔王というシステムを作り出した存在だと俺は思っている」


 最期の時、俺の身体から離れた闇は言う事を聞かなかった。そしてあの闇はおそらく魔王の力そのものだ。

 であるならば俺の仮説は当たらずとも遠からずも言った所だろう。


「魔王のシステムを作り出した存在……」

「レイ。単刀直入に聞く。ソレはどれぐらいヤバかった?」


 俺はみんなの顔を見回してから答えを口にした。


「魔法使いや枯死の翠なんかよりも、上だ」

3章開始です!

これからは不定期更新になります!

週に二回更新できたらいいなーと思ってます!


新作も投稿開始しておりますので、よかったら読んでみてください!


「罪咎の騎士と死塔の魔女 ~処刑の先で最強騎士と最強魔女は出会う~」


呪い無効の天恵を持つ騎士。

死を振り撒く呪いに侵された魔女。

二人が出会う事で物語は動き出す!

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